1人でユニコーン企業を創出できる時代へ。エンジニアの働き方はどう変わるのか?イオンネクストの「AI全振り戦略」とは | 今月のイオンネクスト樽石CTO~2025年10月号~

1人でユニコーン企業を創出できる時代へ。エンジニアの働き方はどう変わるのか?イオンネクストの「AI全振り戦略」とは | 今月のイオンネクスト樽石CTO~2025年10月号~

2025/10/30

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この記事に登場している人

樽⽯ 将⼈

Masato Taruishi

イオンネクスト株式会社 技術責任者CTO
レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンを経てグーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。 その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。同社の上場の牽引後、22年1月に退職。22年3月より現職。

    この記事を読むとわかること

    ・ビジネスの”Why”から実装の”How”までを一人で担う、新時代のエンジニア像「Vibe Native」という思想
    ・エンジニア自らが現場に赴き課題解決する「Forward Deployed Engineer」としての具体的な活動内容
    ・AIによる大量のコード生成を前提とした、コードレビューに代わる新しい品質保証の考え方

    AIはエンジニアの生産性を劇的に向上させつつあります。イオンネクストでは6月に「プルリクマラソン1000」というプロジェクトを実施。1ヵ月で250件のプルリクエストをマージし、1日あたりのパフォーマンスは最大で30倍に達しました。エンジニア一人ひとりが事業のWhyからHowまでを一気通貫で担う「1人ユニコーン」時代の幕開けを感じさせられます。イオンネクストCTOの樽石さんが考える新しいエンジニア像と、今まさに進めている開発体制の変革についてお話を伺いました。

    【目次】

    1ヵ月で約250件のプルリクを達成した「プルリクマラソン1000」

    2025年6月に、私は「プルリクマラソン1000」と銘打ち、AIを活用して1ヵ月で1000件のプルリクエストを作成するというプロジェクトに挑戦しました。結果は1ヵ月で250件。1日あたり最大で30件のプルリクエストをレビューし、マージまで完了させることができました。1ヵ月毎日継続出来ればほぼ達成。平均的なエンジニアが1日1プルリクと考えれば、最大パフォーマンスは30倍、1ヵ月を通じても10倍以上の成果を出せたことになります。

    この経験を踏まえ、私たちイオンネクストの開発組織は「AI全振り戦略」を本格的にスタートさせています。大きな改革には私が積極的に行動することを心がけ、さまざまなAIエージェントを使いこなし、それらを統合するツールも自作しています。昨年はほとんど開発していませんでしたので劇的な変化です。

    プルリクマラソンで得た手応えを、今度はチーム全体に広げ、42,195件のマージを目指す壮大な挑戦を始めようとしています。これはマラソンの42.195kmに由来する数字です。

    エンジニアの新しい姿 "Vibe Native"とは何か

    開発パフォーマンスが爆発的に向上したとき、「エンジニアは何をするのか?」という問いが生まれます。私の答えは、Why(なぜ作るのか)、What(何を作るのか)、How(どう作るのか)を一人で担う存在になる、ということです。

    サム・アルトマン氏(OpenAI CEO)が言うように、「1人でユニコーン企業を作れる世界」がやってくる。それを私たちは実践したいと考えています。(私は、この新しいエンジニアのあり方を「Vibe Native」という造語で呼んでいます)

    これまでのエンジニアの仕事は、コーディングやプログラミング、つまり「How」(どのようにして作るのか)の領域が中心でした。しかしAIを使えば、ビジネスの状況分析やユーザーインサイトの考察といった「Why」(なぜ作るのか)の領域まで、エンジニアが踏み込めるようになります。Vibe Coding(AIによる実装)とVibe Observability(AIによるビジネス状況の可視化)を統合し、WhyとHowを一気通貫で実践する。それがVibe Nativeの発想なのです。

    自ら現場へ。FDE(Forward Deployed Engineer)を実践する

    昨今注目されているキーワードが「Forward Deployed Engineer」です。顧客の現場に常駐し、課題解決のために技術を実装・運用するエンジニアのことで欧米の先進的なテック企業で一般的になりつつあります。

    私もAIの活用によって生み出した時間を活用し、FDEを実践するという実験を行っています。7月はサプライチェーン部へ、8月はイオンネクストデリバリーへ、というように毎月テーマを決めて現場に飛び込み、AIを使って彼らの課題を解決しているのです。

    例えばデリバリーの現場では、配送クルーたちの意見を直接聞きながら、配送トラックの傷をチェックするAIアプリや、配送メンバーの運転スキルなどを考慮して配送ルートを最適化するシステムのデモをその場で作りました。

    サプライチェーンでは、膨大な商品マスターの情報をAIで分析し、メンテナンスを効率化するためのクローラーを開発。現在稼働中です。

    そうやってデジタルな開発を進める一方で、現場のクルーたちとは手書きの手紙を交換したりもしています。デジタルな部分はAIが担ってくれるからこそ、人間同士の「話す」「書く」というコミュニケーションが、より重要になると感じています。

    「コードレビューは不要」―AI時代の開発体制とは?

    ところで、AIがものすごい速さでコードを生成するようになると、従来の開発プロセスでは立ち行かなくなります。特に、コードレビューはこの膨大に生成されるコードに対応しきれません。ですから私たちは「コードレビューを不要にする」にはどうすればいいか、という方向に舵を切りつつあります。

    具体的には、単体テスト(ユニットテスト)のメンテナンスにコストをかけるのをやめ、QAチームを組成して機能テストやE2E(End-to-End)テストを強化しようとしています。

    AIが書くコードは不安定で、仕様も絶えず変化します。そこで、ある程度作ったらコードは一度捨てて、設計書だけを再利用してAIにもう一度作り直させる、といった試みも行っています。生成AIとともに開発を行う「イオンネクスト・開発プラットフォーム」も構築しました。これは生成AIに道標とガードレールを提供し、開発がスムーズに進むようにする仕組みを組み込んでいます。

    不正確で不安定なものをどうやって前に進めるか。まるで20年ほど前のインターネット黎明期のようで、非常に面白いタイミングにいると感じています。あの頃の熱狂を、今また私たちは感じているのです。

    (聞き手・構成:プレーンテキスト 鹿野恵子)


    イオンネクストではエンジニアを中心としたデジタル人材の採用を積極的に行っています。樽石と話をしてみたい、Green Beansの事業が気になる…といった方は、カジュアル面談も実施しておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

    この記事を書いた人

    鹿野恵子

    小売・ITジャーナリスト、編集者
    1978年、宮城県仙台市出身。2001年、早稲田大学法学部卒業後、株式会社アスキー、株式会社商業界(月刊食品商業、月刊商業界)、ITベンチャーを経て2015年に制作会社のプレーンテキスト(http://plain-text.jp)を設立。流通小売業とテクノロジー、スタートアップについての取材・執筆を続ける。現在メルマガ「リテールアトラス(https://retailatlasjp.substack.com/)」運営中。著書に「店舗を読み解く技術シリーズ」、編著書に「リアル店舗は消えるのか?」(発行:日経BP)がある。

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