
この記事に登場している人
中田 諭
Nakata Satoshi
イオンスマートテクノロジー株式会社 ビジネストランスフォーメーションディビジョン MDプロセスユニット 価格最適化チーム マネージャー 兼 リアルタイム経営システムディビジョン リアルタイム経営開発・推進ユニット リアルタイム経営開発・推進チーム
2007年イオンリテール入社。店舗業務の経験を経て、労働組合専従者として従業員の働き方に目を向け、8年活動。職制に帰任後、業務のムリ・ムダ・ムラを標準化し、社長直轄収益構造改革チームの一員として年間50億の削減を実施。2024年にASTに出向し、現職。
奥山 淳
Jun Okuyama
イオンスマートテクノロジー株式会社 データプラットフォーム開発ディビジョン ASPD運用ユニット ASPD運用チーム マネージャー 兼 ASPD開発ユニット ASPD開発チーム
システムエンジニア、ITアーキテクトを経て、イオンリテールに入社。イオンバイクで店舗経験後、グループ間公募でイオンアイビスへ活躍の場を移す。現在はイオンスマートテクノロジーでデータ基盤の開発と運用をリード
中田 諭
Nakata Satoshi
イオンスマートテクノロジー株式会社 ビジネストランスフォーメーションディビジョン MDプロセスユニット 価格最適化チーム マネージャー 兼 リアルタイム経営システムディビジョン リアルタイム経営開発・推進ユニット リアルタイム経営開発・推進チーム
2007年イオンリテール入社。店舗業務の経験を経て、労働組合専従者として従業員の働き方に目を向け、8年活動。職制に帰任後、業務のムリ・ムダ・ムラを標準化し、社長直轄収益構造改革チームの一員として年間50億の削減を実施。2024年にASTに出向し、現職。
奥山 淳
Jun Okuyama
イオンスマートテクノロジー株式会社 データプラットフォーム開発ディビジョン ASPD運用ユニット ASPD運用チーム マネージャー 兼 ASPD開発ユニット ASPD開発チーム
システムエンジニア、ITアーキテクトを経て、イオンリテールに入社。イオンバイクで店舗経験後、グループ間公募でイオンアイビスへ活躍の場を移す。現在はイオンスマートテクノロジーでデータ基盤の開発と運用をリード
イオングループ全体のDXを担うイオンスマートテクノロジー(AST)は、月間MAU500万人を誇る「iAEON」アプリをはじめ、2万店舗、年間14億人の巨大なスケールを持つグループ全体のデータ戦略を支えています。
2025年11月27日に開催されたGoogle Cloud 主催「Data & AI Summit ‘25 Fall」にて、AIエージェントがGoogle 検索のトレンド情報をリアルタイムで取得し、グループ企業全体の膨大な商品データと自動でマッチングさせる仕組みについて発表しました。登壇したのは、イオンスマートテクノロジー株式会社 データソリューションDiv stoNaviチーム マネージャーの中田 諭、ASPD運用ユニット ASPD運用チーム マネージャーの奥山 淳です。
【目次】
「ベストプラクティス」の追求ではなく、「ベタープラクティス」を選び続ける
中田2024年3月からASTへジョインし、奥山と一緒に活動している中田と申します。
当社は、「全てのビジネスをテクノロジーの力で進化させる」をミッションに掲げ、グループ全体のDXを担っています。

2021年9月から提供開始したイオンのトータルアプリ「iAEON」は、月間アクティブユーザー(MAU)が500万人に上るなど、多くのお客さまにご利用いただいています。さらにイオングループは店舗数2万店、モールやイオンタウンを含めたテナント数は3万テナントに達していて、年間来客数は14億人に上ります。
これをイメージすると、山手線の車両で乗車率180%とした場合は560万台必要で、それらを繋げば地球を2周半する長さに相当します。このように、膨大な規模の企業DXをテクノロジーで支えるのが私たちのミッションとなっています。
奥山ASPD(Aeon Smart Platform for Data)で、イオングループのデータ基盤の運用と開発をリードしている奥山です。
私からはASTのデータ戦略について紹介したいと思います。
当社のCTOである山﨑がよく言っているのが、「データ基盤に銀の弾丸はない」という考え方です。一つの製品だけで全てのデータ基盤を補うことはできないという前提のもと、Google Cloudに限らず、M社、D社、S社といった複数ベンダーのデータ基盤を併用・運用する“いいとこ取り”の方針を定めているのです。
そのうえで大切にしているのが、「ベタープラクティスの継続的な探求」です。
その時点での"ベストプラクティス"を追い求めると、新しい技術が登場するたびに作り直す必要が生じ、継続的な取り組みが困難になります。そのため、一時的な最適解ではなく、中長期的に進化させられる余地のある"ベタープラクティス"を選び続けることを重視しています。
Vertex AI Searchで実現した非エンジニアでも使えるデータ検索システム

こうしたなか、エンジニアだけでなくビジネス部門の従業員や店舗スタッフが、グループ全体の膨大なデータを自然言語で検索・参照し、現場の意思決定を迅速かつ適切に行えるように、AIを活用したシステム構築に挑戦しました。
今回は、Google Cloud のフルマネージドDHWであるBigQuery上にあるイオンの商品マスタを検索対象とし、膨大な商品データの中から必要な情報を高速に見つけ出すために、「Vertex AI Search」を活用しました。
Vertex AI Searchは、自社の構造化データ、非構造化データ、Webサイトなどをデータソースとして利用でき、特に、生成AIを活用した検索エンジンの構築をフルマネージドで実現できるため、開発工数と運用コストを大幅に削減できます。
また、従来のキーワード検索と比べると、Vertex AI Searchでは表記揺れや文脈理解など曖昧な検索にも対応できるセマンティック検索が可能です。そのほかにも、Auto-complete(文字の入力途中で予想されるキーワード候補を自動で表示する機能)の設計や、自然文でのクエリ、コンテキストの認識をアシストしてくれるフォローアップ検索など、より直感的で使いやすい検索体験を実現できるのが、Vertex AI Searchの活用に至った主な理由になります。

続いてシステムのアーキテクチャですが、今回は手順を以下の6ステップでまとめました。
① Cloud Storageに自社の商品マスタをインポート(CSV)
② BigQueryに上記データを元にテーブル作成
③ 各エージェントのソースコードや設定ファイルを用意
④ Vertex AI Searchを使いながら回答するAI Agent(ADKベース)を作成
⑤ Vertex AI SearchとBigQueryを接続
⑥ フロントアプリからAgentを使用
従来のシステム構築では、大量のデータを扱うために複雑で時間がかかる作業となり、ビジネス部門は「AIは難しい」「SQLが書けない」といった理由でデータ関連の分析への関与が限定的になりがちでした。
そこで、今回は双方の専門性を最大限に活かすために、エンジニアだけでなくビジネスサイドとも協力して構築していくアプローチを取ったので、シンプルなプロセスになっています。
手順を最小限に抑えたアーキテクチャの採用理由

奥山ここからは順を追って6つのステップのそれぞれを解説していきます。
まずは、Google Cloud Storageに自社の商品マスタデータをアップロードします。初めは日々変動するデータではなく、マスタを使うのがおすすめです。
次に、アップロードした商品マスタデータをもとに、BigQuery上でテーブルを作成し、「Trend Agent(Google 検索用エージェント)」と「Product Matcher(商品マスタ用エージェント)」の2つのエージェントに対してソースコードや設定ファイルを用意します。
例えば商品検索用のProduct Matcherは、社内の商品データベースをVertex AI Searchで検索する処理を、日本語の自然言語で記述できるため、エンジニアでなくても簡単に設定できます。もし、検索結果がおかしい場合は、AIとの対話形式で微調整できる仕組みになっています。
そして、Vertex AI Searchを活用し、回答用のAIエージェントの土台をADK(Agent Development Kit)ベースで作成していきますが、手順の③④は非エンジニアでも実行可能なのがポイントです。
もちろん、Gemini FlashやProなどのAIモデルの選定や詳細なパラメータ調整はエンジニアが担当しますが、それ以外の主要な設定やエージェントの指示文は日本語の自然文で書けるため、非エンジニアでも手軽に微調整できるわけです。
こうして作成したエージェントとBigQueryを接続し、エンジニアがCSVからのデータインポート時にインデックス作成や動的ファセットの設定などを行います。このチューニングによって、高速で正確な検索が可能になります。最後にフロントエンドのアプリケーションからエージェントを呼び出して利用するのが一連の流れとなっています。
このアーキテクチャを採用した観点を説明すると、BigQueryやGoogle 検索のデータ、GeminiなどのAI機能がネイティブに利用できること。さらに、Google 検索は検索精度が高く、リアルタイム性にも優れているのが大きなメリットだと感じたからです。
また、他社のデータ製品だとクラウド環境の構築や接続など追加作業が必要ですが、Google Cloudの環境ではほとんど手間なく利用できるのも非常に優れていると思った点です。
月200時間の商品検索作業を削減。Vertex AI Searchが解決する現場の課題

中田次に、エンジニアが構築したAI Searchを実際にどう活用できるかという話に移ります。私たちはビジネスサイドの立場として、「10年後の店舗」の姿を創造することを見据え、「AIが顧客ニーズを即座に掴み、現場がそれに応えることこそ、これからの流通店舗のスタンダードとなる」と考えています。
風邪薬の例を挙げると、売り場には多くの商品が並んでいます。「喉の痛みを和らげたい」「頭痛を解消したい」など、お客さまのニーズは多種多様なため、店員は自らの知識をフルに活用して「お客さまは何を求めているのか」を想像し、適切な商品を提案するわけです。
一方で、SNSで話題化している商品などは店舗スタッフだけでは正確に把握しづらいケースもあります。このような曖昧で多様なニーズを明確化し、最適な商品や情報を迅速に提供できるようにするのがVertex AI Searchの役割です。
ここで課題になるのが、人間とAIの間にある言葉の壁です。人間同士なら少し曖昧な表現でもニュアンスで理解できます。例えば、「柔らかなマットレスはありますか?」と聞かれた場合でも、どの商品かを想像して把握できるわけです。

しかし、従来のシステムで「柔らかなマットレス」と検索しても、商品名に完全一致しなければヒットしません。これは、人間同士のコミュニケーションならではの曖昧さを解釈できず、正確な商品IDが必要になるからです。
つまり、「人間の曖昧さ」と「システムの厳格さ」の間にある壁が、膨大な検索時間を生み出しているのです。これはあくまで目安ですが、「1店舗あたり月に約200時間」という従業員1人分の工数に相当する時間が、商品を探す作業に費やされており、現場の負担がかなり大きいことが試算でわかりました。

こうした課題に対して、自社の商品マスタや在庫情報、価格情報とAI Agentを連携させることで、検索精度を高めることに挑戦したのが今回の取り組みです。
Vertex AI Searchを活用することで、具体的な商品情報、JANコード、在庫状況などを正確に特定できるようになります。これは、Vertex AI Searchの強みであるセマンティック検索によって、お客さまの曖昧な言葉や日常的な表現に対しても、AIが商品の特徴や情報を正確に理解し、抽出してくれるためです。この仕組みを導入することで、お客さまからの曖昧な問い合わせにも迅速かつ的確に対応できる環境が整備できると考えています。

また先ほども触れたように、SNSやテレビで注目を集めた商品でも、店舗側がその情報を十分に把握できず、在庫を揃えられなかったケースがあります。図に示すように、情報はSNSで先行する一方で、店舗での商品供給や販促対応が遅れると、お客さまの関心が薄れ、販売機会を逃してしまいます。
これが、現状の流通業が抱える「時間差」の壁だと考えています。
こうした課題を解決するために、SNSなどからトレンド情報をキャッチし、曖昧な表現の中からVertex AI Searchを活用して具体的な商品に落とし込むのを目指しています。
具体的には、SNS上の話題やトレンドワードをAIに読み込ませ、曖昧なリクエストを具体的な商品データに変換し、商品の特定や在庫状況と紐付けることで、店舗の在庫管理に活かすことが目標です。
例えば「赤いトマト」というワードが出てきた場合、どの店舗に在庫があり、どの店舗で不足しているかをリアルタイムに把握し、必要に応じて在庫の補充や対応策を検討できるような仕組みを考えています。この仕組みを構築できれば、SNS上の“バズ”の兆候を見極め、先手を打つことも可能になると思っています。
現時点ではまだ実装中ですが、今後PoCを通じて実現していく予定です。
AIに「作業」を任せて、人間は「対話」へ。イオンが描く「10年後の流通」
中田もう少し将来の話をすると、社会的潮流としてAIの発展を止めることはできないからこそ、私たちはAIを積極的に活用することが不可欠だと考えています。商品検索や在庫管理、発注業務など、AIが対応できる作業はどんどん任せていくことで、「10年後の流通」の実現につながると思っているからです。

では、AIに任せることで人間は何をすべきなのでしょうか。
AI時代において、人間が注力すべきは「対話」という人間らしい価値です。
特にイオンの店舗に来られる高齢のお客さまの多くは、単に商品が欲しいだけではなく、人とのつながりや会話を楽しみに来店されています。定量的・反復的な業務はAIに任せ、人間はコミュニケーションや価値創造に注力するのが、これからの働き方になると予想しています。
今後の構想について、短期的には商品検索の曖昧さを解消し、従業員の時間を創出することを行い、中長期的にはAIを需要予測と連携させ、トレンドに応じて発注や在庫の最適化に取り組んでいきます。

最終的には、AIが自ら需要を分析し、品揃えや提案まで行えるような仕組みを目指していきたいと考えています。
私たちのミッションで最も大切にしているのは、テクノロジー自体を磨くことではなく、テクノロジーを活用することで「働く人たちがより楽になり、働きやすくすること」です。テクノロジーは人と社会をより良くするためのあくまで手段でしかありません。
単なる効率化だけを追求するのではなく、「イオンで働くことで、こんなことができるんだ」という思いを持ちながら働ける環境をつくるために、今後も尽力していきたいと思います。
エンジニアとビジネスサイドの協業こそAI導入の成功の鍵

奥山奥山からは、結びとして2つのポイントをお伝えします。
1つ目は、IT部門とビジネス部門の協業がAI導入の成功の鍵を握るということです。
発注側対受注側(ベンダーに委託など)。エンジニア対ビジネスサイド。このような組み合わせで壁を作ると建設的な議論が発生しづらく、施策がうまくいきません。今回紹介した手順のように、難しい部分はエンジニアが担当し、SQLや専門知識がなくても日本語で書ける部分はビジネス側が対応していくように、「壁を作らず、横並びで一緒に作業すること」が大事になります。
2つ目は、Google 検索と自社データを掛け合わせ、一緒に議論することから始めることです。私たちの会社には複数のデータ基盤製品がありますが、Google 検索やGemini、BigQueryとの組み合わせなどはフロント寄りのアーキテクチャで導入がしやすくビジネス側や現場側の人ともコラボしやすくなります。
今回は商品マスタの例をお話しましたが、Google 検索と自社データを組み合わせてAIを活用し、そのデータを見ながらエンジニアとビジネスサイドが議論してみてはいかがでしょうか。
イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

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