このデータの山を、全員の宝にしたい──ASTがNew Relic MCPで挑んだオブザーバビリティ民主化 

このデータの山を、全員の宝にしたい──ASTがNew Relic MCPで挑んだオブザーバビリティ民主化 

2026/7/21

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この記事を読むとわかること

数百名に広げてもNRQLを使えるのはごく一部──New Relic普及の壁に、MCP活用のSlackチャットボットで挑んだイオンスマートテクノロジーの実践。New Relic Advance Next 2026 - Japan登壇レポート。

イオングループのITインフラを担うイオンスマートテクノロジー(AST)では、New Relicを導入してから約4〜5年が経ちます。数百名規模にアカウントを広げてきた一方で、NRQLを使いこなせるメンバーはごく一部に限られているという現実がありました。その壁をどう崩すか──。

2026年5月26日(火)のNew Relic主催イベント『New Relic Advance Next 2026 - Japan』で、イオンスマートテクノロジー Developer Enablement ディビジョンから齋藤 光、林 如弥(もりはや)の2名が登壇。本記事では林が語った取り組みの詳細を紹介します。

【目次】

高機能なツールほど「高い壁」がある。New Relic普及の4つの壁

New Relicは、メトリクス・ログ・トレースというオブザーバビリティの三本柱をはじめ、アラートやSLI/SLOの定義まで、あらゆるデータが時系列で蓄積されていく素晴らしいツールです。

私はNew Relicを「データの宝庫」のようなものだと思っています。しかし、どれだけ宝が眠っていても、全員が掘り起こせなければ意味がありません。

New Relicには大きく4つの壁があります。まず「知らなければ使わない」。次に「知っていてもログインできない」。アクセス権の取得が面倒で止まってしまう人も多いです。そして「ログインできてもUIが難しい」。高機能すぎてどこから触ればいいかわからない。さらにその先には、独自クエリ言語であるNRQLという壁が待ち受けています。

「先月リリースした新機能について、1時間ごとに成功レスポンスタイムを見たい」──そんなシンプルな要件でも、NRQLをいきなり書けと言われると、ITエンジニアですら、正直難しいと感じる場面があります。オブザーバビリティという概念が素晴らしいにもかかわらず、そこに近づきにくい壁になっているのが現状です。

これはNew Relicだけの問題ではなく、オブザーバビリティツール全体に共通する課題でもあります。だからこそ、私たちはこの壁を崩す取り組みを続けてきました。

数百名まで広げた普及活動。それでもNRQLを使いこなせたのはごく一部だった

私たちはこの課題に対して、何年もかけて地道な普及活動を積み重ねてきました。

まず取り組んだのはダッシュボードの整備とそれを見るための「だっしゅぼーどを眺める会」の定期開催です。、ダッシュボードをあえてひらがな表記したやわらかさを意識した会議で、プロダクトチームと一緒に画面を眺める文化をつくっていきました。

加えてNew Relicのカスタマーサクセスチームにもご協力いただき、両手で数えきれないほどの社内勉強会を開催しています。書籍『入門 監視 ―モダンなモニタリングのためのデザインパターン(オライリージャパン)』なども活用しながら、社内ドキュメントの整備もチームで進めてきました。

ログインの壁を下げるために、Entra ID(旧 Azure AD)を使ったシングルサインオンの実装も行いました。さらに、社員に配布されるイオンモバイルの社用スマホにNew Relicアプリを入れてもらえるよう、許可申請も行っています。セキュリティポリシー上、インストールできるアプリが厳しく制限されている環境なのですが、New Relicのデータに簡単にアクセスできる状況を作るため各所調整の上で申請しています。

これらの活動の結果、Basicタイプのユーザーを含めると数百名規模のアカウントが稼働するまでになりました。ビジネス部門の担当者がダッシュボードを確認するケースも生まれています。

こういった普及の取り組みは効果が出ていましたが、しかし正直に言えば、NRQLを使いこなして分析できているのは、本当にごく一部でした。多くのメンバーは、あらかじめ用意された「作成済みのダッシュボードを見るだけ」の利用にとどまっていました。

New Relic MCPが登場。自然言語での問い合わせが可能に

2025年末、状況が変わるかもしれない出来事がありました。New Relic MCPの登場です。

「各種ツールから自然言語で問い合わせして、分析や新しい洞察を得られる」──New Relic公式ブログのその一文は、まさに私たちが長年抱えてきた課題への直接的な回答に映りました。

まずは自分で試してみました。GitHub Copilot CLIにNew Relic MCPをセットして問い合わせをしてみると、かなりそれらしい回答が返ってきます。何度か試すうちに、「これは使える」という手応えをつかみました。

ただ、個人でローカルPCで試しているだけでは組織全体への普及にはつながりません。ビジネスサイドの担当者にも使ってもらうためには、「普段から使い慣れているチャットツール」を入り口にする必要があると考えました。

自然言語といえばチャット、チャットといえばSlack。(当社はTeamsも併用していますが、ボットの開発の観点でSlackを選択)こうして、Slackチャットボットの開発へと動き出しました。

Slackチャットボットへの実装。普段使いのツールでインフラを問い合わせる

開発はMicrosoft  Foundryを基盤に進めました。いわゆる「バイブコーディング」スタイルで、私はほとんど指示を出すだけ。AIにコーディングを委ねる形で作り上げました。

完成したチャットボットは、Slack上で自然言語の質問を投げると、New Relic MCPを通じてデータを取得し、回答を返す仕組みです。

一点工夫したのが「根拠の透明化」です。AIはハルシネーション、つまり事実と異なる回答を生成することがあります。そこで、回答とあわせて「実際に使用したNRQL」と「MCPの中でどのツールを呼び出したか」を一緒に表示するようにしました。根拠が見えることで、利用者が結果を正しく判断できるようになります。

展開先は、New Relicのユーザーが自然と集まるSlackチャンネルです。当社では、どのユーザーがどのツールを利用しているかをシングルサインオンの仕組みで把握できており、New Relicに接続したユーザーが自動的に対応チャンネルへ集まるようになっています。そのコミュニティの場でチャットボットの使い方をデモし、チームメンバーが実際に試す機会をつくっていきました。

「人間が見ていないログ」にたどり着いた。MCP活用の具体的な成果

チャットボットが現場で使われはじめると、さまざまな活用シーンが生まれました。

よくある問い合わせは「<特定プロダクト名>が最近少し重い気がするけど、大丈夫ですか?」「先週と比べてパフォーマンスに変化はありますか?」といったものです。以前であればNRQLを書ける担当者に依頼する必要がありましたが、Slackで質問するだけで応答時間の詳細な変化などについて、的確な分析結果が返ってくるようになりました。

「New RelicのログにユーザーIDを入れて行動分析をしたい」といった細かいユースケースも自然言語で対応できます。「このサービスに必要なアラートは他にありますか」「SLIの見直しをしたいのだが、アドバイスをもらえるか」といった設計相談も、チャットボットに投げられるようになりました。

なかでも特に印象に残っているのは、データインジェストの最適化です。New Relicとの契約には月あたりのデータ取り込み量(データインジェスト)に上限があるのですが、ある月に取り込み量が急増しました。AIに相談したところ、たどり着いたのは、それまで誰も気づいていなかった「誰もみていない不要なミドルウェアの詳細なメトリクスが大量に送り込まれていた」との原因でした。

人間は誰も見ていないログだったんです。そこにたどり着けたのはAIだからこそで、人間はそもそも意識していないから気づけない。AIがデータを網羅的にスキャンするからこそ、人間の視野に入らなかった領域を照らすことができる──そこにMCPを活用することの、技術効率化以上の価値があると感じています。

次の展望は複数MCP連携。GitHub・Azureも束ねたオブザーバビリティの未来へ

今後はNew Relic MCPを起点に、GitHubやAzureのリソース情報、チケット管理やドキュメントとも連携させていくことを考えています。インフラの状態確認から障害対応、コードの変更履歴の照合まで、一つの対話の流れの中でまとめて問い合わせられる環境を目指しています。

New Relic自身が提供するAI機能についても、引き続き積極的に評価・活用していく方針です。とくにPerformance Risks Inboxはプロダクトの性能改善に寄与する可能性があり期待しています。

なお、New Relic MCPは現時点でプレビュー提供の段階にあります。正式リリース後には課金モデルが変わる可能性もあるため、社内展開の規模とコストのバランスを見極めながら進めていく必要があります。

私たちがこれまで積み上げてきた普及活動の歴史が示すように、ツールをただ「入れる」だけでは使われません。正しく届ける仕組みさえあれば、強力なツールは確かに組織を変える力を持っています。New Relic MCPとSlackチャットボットの組み合わせは、その「正しく届ける仕組み」の一つの形だと考えています。

データの宝庫を、多くの仲間たちと積極的に活用することで、顧客価値に繋げていきたい──その思いで、これからも取り組みを続けていきます。


イオングループでは、こうした変革に一緒に挑んでくれる仲間を募集しています。

「巨大な企業組織を、内側からテクノロジーと対話で動かしていく」ことに興味がある方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

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