
開発経験ゼロのCRE担当者が、生成AIで「3時間かかる手動調査」を自動化して30分に短縮!イオンネクスト現場のAgentic Coding最前線 | イオン Agentic Coding Study No.2
2025/8/28
この記事に登場している人
小林 ローズ
Rose Kobayashi
イオンネクスト株式会社 IT部 ユーザーサポートグループ リライアビリティチーム CRE
空港のチェックイン業務やカスタマーサービスを経て、2022年にOcado Solutions JapanにPartner Successとして入社。2023年より現職で、IT部門にてインシデント対応を担当。開発経験はないが、GitHubワークフローや生成AIツールを活用し、業務の自動化・効率化に取り組んでいる。新しいスキルの習得を通じて、技術的な成長を目指している。
この記事を読むとわかること
・CRE担当者が、「3時間かかっていた作業を30分に短縮」という驚異的な効率化を実現した秘密
・ITの知識がなくても、生成AIツールを使いこなし、日常業務の劇的な改善に繋げた具体的な道のり
・エラーとの格闘、AIの「ご機嫌」の取り方、同僚との情報交換…試行錯誤から産まれたAI活用ノウハウ
「この作業、めんどくさいな」。多くの人が日常的に抱くこの感情こそが、DXを推進する最大の原動力かもしれない。イオングループでネットスーパー事業「Green Beans」を展開するイオンネクスト株式会社では、リライアビリティチーム CRE(Customer Reliability Engineer)の開発経験ゼロのメンバーが、生成AIを使いそれまで数時間かかっていた調査業務を劇的に効率化するツールを開発した。彼女がどのようにアイデアを形にしたのか。誰もが変革の担い手になれる可能性を示す、現場起点のイノベーションストーリー。
【目次】
1. 課題:手作業のプロモーション調査に数時間かかる
イオングループが最新のテクノロジーを駆使して運営するネットスーパー「Green Beans」。その裏側では、顧客からの様々な問い合わせに対応するチームが日々稼働している。イオンネクストのリライアビリティチーム CRE(Customer Reliability Engineer)もその一つ。彼らの主な業務は、社内からの問い合わせに対応するヘルプデスク業務である。
そんな彼らのもとに、顧客サポート(CS)チームから頻繁に寄せられる問い合わせがあった。それは、「お客さまがプロモーションを利用したはずなのに、適用されていないのはなぜか」という調査依頼だ。
原因を特定するためには、注文時から配送完了まで、顧客の注文データが各工程でどのように変化したかを追う必要がある。しかし、注文、編集、ピッキング、配送といった各ステータスのデータは、それぞれ別のデータフィードとしてAzure上に保存されていた。これまでの調査方法は、担当者がAzureから該当日付のファイルをすべて手動でダウンロードし、一つひとつの中身を確認するという、非常に手間のかかるものだった。
この手作業による調査は、1つの案件に対して数時間、時には3時間近くを要することもあり、チームにとって大きな負担となっていた。
2. 何を実現したかったのか:プロモーション調査の自動化
この長く、煩雑な調査プロセスを、なんとか効率化できないか。CREチームの誰もが感じていたこの課題を解決するため、チームメンバーの小林ローズさんがあたためていたアイデアが、調査を自動化するツールだ。
目指したのは、複数のシステムに散らばっていたデータ取得と確認作業を、一つのツールに集約すること。注文番号と日付を指定するだけで、必要なデータが自動的に表示され、それまで3時間かかっていた調査を30分以内で完了させることのできる状態を実現したいと考えた。
3. 誰が実現したのか:CREチーム所属の小林ローズさん
このツールを作成した小林 ローズさんは、ITのバックグラウンドを全く持っていなかった。彼女のキャリアは、これまでITとはほぼ無縁で、開発者としての経験はゼロに等しい。
彼女が持つのは、プログラミングの知識ではなく、何か繰り返しの作業にたいして「この作業はめんどくさいことだ」と感じる感性と、「もっと効率的にできないだろうか」と考える課題解決への強い意欲だった。

4. どのようなツールを利用したのか:社内勉強会で知ったCline
開発経験のないローズさんが武器として選んだのは、生成AIツール「Cline」だ。
きっかけは、社内で開催されたエンジニアの勉強会(もくもく会)。そこでClineの存在を知った彼女は、「アイデアはあっても、どうやって作ればいいかわからなかった」状態から、「これなら自分でもできるかもしれない」と可能性を見出し、すぐにツール作成を試み始めた。
5. どんな工程で作ったのか:「めんどくさい」から始まったスモールスタート
ローズさんの開発プロセスは、彼女の「めんどくさがり屋」という個性が色濃く反映されている。
まずは小さな成功体験から
彼女が最初に作ったのは、目的のプロモーション調査ツールではなかった。まずは、もっと身近な「めんどくさい」を解消することから生成AIによる開発に挑戦してみた。
はじめて作ってみたのが、勤怠入力の自動化ツールである。
毎月、勤怠管理ソフト「キングオブタイム」に翌月のシフトを一日ずつ手入力する作業を面倒に感じていたローズさん。同僚が自動入力ツールを作っていたのを見て、「これをClineで作ってみよう」と、Chromeの拡張機能を自作した。これは見事に成功し、今も自身で使い続けている。
▲キングオブタイムへの自動入力システム
また、彼女が担当しているGreen BeansアプリのQA(品質保証)業務では、毎朝App StoreとPlay Storeを手動で確認し、アプリが更新されているかチェックする作業があった。この手間を省くため、アプリの新しいバージョンがリリースされたらSlackに自動で通知するというツールもClineを使って作成した。
▲Slackに通知が送られる様子
これらのスモールスタートで自信と手応えを掴んだ彼女は、いよいよ本丸であるプロモーション調査ツールの開発に着手したのだ。
「今までこういう流れで調査していました。これを一つのツールにまとめてほしい」。
そのようなプロンプトに従い、Clineはプランニングを行い、ツールの骨格を生成。UIのプロトタイプは、わずか1日で完成したという。
ぶつかった壁をどう乗りこえたか?
もちろん、開発は順風満帆ではなかった。プログラムを実行してみてエラーが出てもコードのどこが悪いのかわからない。エラーをClineに入力して粘り強く修正を繰り返すだけでなく、ChatGPTなど他のAIにエラー内容を相談したり、マネージャーに相談をしたりするなど手を尽くし、エラーを乗り越えた。
また、AIは指示を忘れたり、修正を頼むと不要な部分まで変更してツールが動かなくなったりするというクセがある。変更を加える前には必ずバックアップを取ったり、AIに指示を思い出させるように、繰り返し伝えるなどの対応を試みた。
これらのノウハウは、誰かから教わったものではなく、同じくClineを使っていた同僚の添田さんと情報交換をしながら、実践の中で自ら掴み取っていったものだ。
データの取得の段階では、CTOの樽石が以前作成していた調査ツールも参考にした。ローズさんは、そのツールの情報やコードをClineに“学習”させることで、課題であった「複数のデータフィードを横断的に確認する」ことを実現したのである。
▲完成したプロモーション調査ツール
6. どのような成果を出せたのか:数時間かかっていた調査作業を30分以内に短縮
こうして完成したツールを、ローズさんは「Promotion Insight Tool」と命名。これまで3時間かかっていた調査は30分以内に短縮され、チーム全体の業務効率が大幅に向上した。
自ら作ったツールがチームの役に立っていることに、ローズさんは「本当に嬉しくて誇らしく思います」と語る。現在はローカルのツールとして活用しているが、次の目標は「このツールをCSチームにも展開し、CREに対する問い合わせそのものを無くしていくこと」だと、さらなる意欲を見せている。
まとめ:「めんどくささ」にこそ業務改善のヒントがある
「そういうアイデアはどこから出てくるの?とよく聞かれるのですが、めんどくさいと感じることこそ業務改善のヒントになると思っています」。
ローズさんのこの言葉は、イノベーションが特別な誰かのものではないことを教えてくれる。優れたエンジニアの美徳の一つに「怠惰(Laziness)」が挙げられるが、それは「繰り返しの作業を排除し、徹底的に自動化しようとする気質」を指す。彼女の「めんどくさがり」は、言い換えればまさにその美徳を体現したものといえる。
開発経験がなくても、課題を発見する視点と、それを解決しようとする強い意志、そしてそれをサポートするツールと文化があれば、誰もが変革の主役になれる。イオンネクストの現場から生まれたこのストーリーは、生成AI時代の新たな働き方と、それを後押しする環境の重要性を示している。
聞き手:イオンスマートテクノロジー株式会社 林 如弥 / 株式会社プレーンテキスト 鹿野 恵子
ディレクション:株式会社プレーンテキスト 鹿野 恵子
イオンネクストではエンジニアを中心としたデジタル人材の採用を積極的に行っています。話を聞いてみたい、Green Beansの事業が気になる…といった方は、カジュアル面談も実施しておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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