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営業収益9兆1,168億円、カード会員数4,824万人、店舗・事業所数17,817、従業員数40万人超…(2023年2月期)。言わずと知れた日本の小売業界のリーダー企業であるイオン。直近3年で3,000億円を超えるデジタル投資を実行するなど、そのDXに対する取り組みがさらに加速している。その技術組織のトップである山﨑賢は、どのような背景で同社にjoinし、何を成し遂げようとしているのか。お話を伺った。
【目次】
大きくてレガシーな企業の仕事をしてみたかった
――山﨑さんは2023年の春にイオン株式会社のCTOに着任され、イオンスマートテクノロジー(AST)のCTOも兼務されています。そもそものイオン入社のきっかけを教えてください。
山﨑:実は家が近いんです。幕張はイオンの街で、いたるところにイオンを感じます。…というのは単なるきっかけにすぎないんですが(笑)。
僕はこれまで大小さまざまな規模の会社で仕事をしてきました。新卒では大手の受託開発企業に入社し、エンジニアとしての経験をつみました。その後はベンチャー企業を経てYahoo! JAPANでEC黎明期のYahoo!オークションの開発に携わります。
2013年頃にはリクルートで1,000人規模のエンジニア組織を束ねる仕事をしたのですが、長くマネージメントに特化した結果、エンジニアとしての技術が錆付いた感じがあったんです。もう一度エンジニアとしてちゃんと「0→1」ができるようになりたいと、小さめな規模の会社のCTOを立て続けに2社務めました(アソビューとトラストバンク)。そこでもう1回、上から下まで全部できる人間に自分を叩き直したあとで、そろそろまた大きな規模の会社の仕事に関わりたいな…と考えていたタイミングに、イオンから声がかかりました。
大きな会社といっても、なるべく先端のITに追い付いていない、レガシーな段階の企業のほうがやりがいがあるだろうと漠然と考えていたんですが、イオンはそこにフィットしていると思っています。前職のトラストバンクもとても好きな会社で、転職なんて考えていなかったのですが、イオンのCTOという大きなチャレンジ出来るフィールドは逃してはいけないと思い、決断しました。

――最終的に転職を後押ししたのは何だったのでしょうか?
山﨑:(イオン株式会社の取締役/執行役副社長でありASTの社長の)羽生有希さんとお会いしたことでしょうか。レガシーな経営者は、どうしても自分たちの思い通りになるCTOを採用しがちなのですが、羽生さんは、自分の権限を技術者に任せて強くDXを推進しようと考えていました。
羽生さんはイオンの生え抜きです。一般的に、巨大な組織で新卒から生え抜きでいるメンバーというのは、どうしても内向きな思考になってしまったり、それまである企業文化を守るという方向に向いてしまいがちなのですが、羽生さんにはそういうところが全くありませんでした。「生え抜きでイオンの副社長になっている人が、なんでこの考え方を持っているんだろう?」。率直に「すごい」と思いましたね。さらに、そんな羽生さんが困っていらっしゃったのも、決断の後押しになりました。
信頼を築きさえすればきちんと任せてくれる社風
――イオンに入社してどのようなことを感じましたか?
山﨑:めちゃくちゃ楽しいし、思った通りレガシーでした(笑)。
イオンは、良くも悪くも、人との関係を大事にしている会社です。信頼を築きさえすれば、みんなちゃんと信頼して任せてくれる環境だと感じています。
実は僕の入社当時はASTとほかの事業会社の関係性があまりよくありませんでした。障害が多発していたり、約束の納期を守れなかったりとか、いろいろなことがあったので。
その理由を一つ一つ説明して、場合によっては飲みにいったりとか、いろいろな方法でコミュニケーションを取ることによって、かなり風通しがよくなってきていると感じています。この組織は必ず変えることができると思っています。
――社内のエンジニア組織についてはどうお感じになられましたでしょうか?
山﨑:率直に言うと、社員に案件を回すジェネラリストのような「ザ・PM」はたくさんいるんだけれども、「何を作ってるか」という「How」をしっかり深掘りして、レビューして、意思決定ができている人は、残念ながらまだそう多くはいないという印象です。
また、それぞれのシステムが、関わってくださっている業務委託の方々の、それぞれが得意とする言語と仕組みに依存する、一貫性に欠ける状態であることにも不安があります。
もちろん業務委託の方々はスペシャリストですから、その方々と協業しつつ、しかしながら極度に依存せず、自分たちのシステムは自分たちで作り上げる。僕たちの意思や意図をしっかりと伝えていくということをやっていかなければなりません。
「レガシーを変えるプロセスそのもの」に価値がある
――山﨑さんは現在どのような職務に取り組まれているのでしょうか?
山﨑:1番中心となる仕事は、イオン全体のDXの中心であるASTの各種案件を技術的にしっかりと回すことです。
それに加えて、2つ目の業務である「エンジニア組織の強化」に着手しています。まだまだ道半ばですが、エンジニアが働きたい環境、もしくはチャレンジできる環境を整えていこうとしているところです。
上から降ってきたプロジェクトだけをひたすら廻していると、みんな疲弊してしまいます。エンジニア的なチャレンジが産まれるような環境や、「この人と一緒に働きたい」と思えるような状況を積極的に作っていきたいと思っています。
3つ目は対外的なDevRelです。イベント登壇などで情報を発信しながら、ASTの香西さん(@Tocyuki)やトラックレコードさんに手伝ってもらい、イベントやオウンドメディアなどの情報発信の準備をしています。
エンジニア組織の強化とDevRelは前輪と後輪です。DevRelって良くも悪くも、言ったもん勝ちみたいなところがあって、外から見てキラキラして見えている会社が、実際に入社してみたら「こんなはずじゃなかった」って例はたくさんあると思うんですよ。だから、DevRelはやりつつも、自分たちが発信してることを絶対に嘘にしないように、エンジニア組織の強化もしっかりやらなきゃならない。
で、どちらかというとそちら(エンジニア組織の強化)の方が僕の中だと優先度高くやってるんじゃないかと思いますね。
――先ほどおっしゃられた、働きたい環境、チャレンジできるような環境づくりというのは、具体的にどのようなことなのでしょうか?
山﨑:絶対にやりたいのは、イオンで働いてるエンジニアの市場価値が上がる環境づくりです。僕は別にエンジニアは終身雇用でなくていいと思っているんですよ。転職のタイミングでグイッと伸びる職種なので。イオンでの経験が活きて、行きたい企業に転職して、巡り巡ってまた5年後くらいに「こんにちは」と仕事で顔を合わせる…そんな方が素敵だなと思いませんか?
だから「イオンにどれだけ長く居続けてもらえるか」という考えではなくて、みんながイオンに関わることで成長して、自分の履歴書に堂々と書ける経験を得られるという環境を作ることが、僕がこの会社で最もやらなければならないことだと思っています。
――では、今イオンさんで働くことで、エンジニアさんはどのようにポートフォリオを充実させることができるのでしょうか?
山﨑:確実に言えるのは、レガシーでないとできない経験を積むことができるということです。それはお客さまに対する影響力が大きい仕組みに関われるとか、膨大な量のデータに触れるだとか、もしくは「レガシーを変えるというプロセスそのもの」に関われる、ということを指します。
新しい技術の習得は、ベンチャーのほうがやりやすいのは事実です。気にすべきことは何もなくて、新しい技術をいくらでも選ぶことができるわけですから。でも、どちらかというと僕は新しい技術にフォーカスするというよりも、ここじゃないと得られない価値を提供していきたいと考えています。その方が最終的な市場価値としては大きなものが身につくと思うんです。

「直接的にITと関わっていない」から小売業は面白い
――イオン仕事の面白さには、小売業だからこそ、というのもあると思います。山﨑さんがお考えになるその「小売業の面白さ」は何でしょうか?
山﨑:「直接的にITと関わってない」点でしょうか。たとえば、(自分が以前かかわっていた)Yahoo! JAPANとか、リクルートとか、いわゆるIT駆動の会社であれば、すでにユーザーと接する面があって、「並んでいる商品の並び順を変えれば数字が伸びるんじゃない?」というように簡単に言えますし、それを実装することもできます。
ですが、小売業は「商品が店という現場に並んでいる」わけで、それをプログラマー、エンジニアがどう改善するかというのは、なかなか直接的な指標がないと思うんですよね。多分2段階か3段階くらい翻訳していかないと、お店の棚にたどり着くことはできません。その難易度の高さは、とても面白いと感じています。
――店にあるものは配置を変えるだけで大変ですし、変えましょうといっても必ずしも現場がそう動くとは限りませんからね。
山﨑:そうですね。そもそも、売っているのがITそのものじゃないので。デジタルでないものをITと紐付けるという仕事の面白さがあります。
入社してすぐ、身分を隠して店舗に応援に行ったんですよ。ネットスーパーの注文を店頭でピッキングする作業を丸二日間ほど。そこで感じたのは、店舗の現場は本当に労働集約的な仕事なのだなということと、それでも現場の人たちは、そんな環境の中でできるだけ業務を最適化して、何をどのようなルートでピックしに行けばいいのかということを、いろいろ工夫を凝らして進めていたんですよね。
ITに身を置く人たちは、どうしても「ITありき」でものを考えてしまいがちですが、現場は当然それがない状態に最適化されていて、その現場の知恵や工夫をIT側がどこまで尊重できるかが本当に重要だと思うんです。現場の人たちは、積み重ねてきた様々な改善に絶対に誇りを持ってるんですよ。その知恵と工夫を理解した上で、どう自分たちが関与できるかっていう考え方のアプローチにしないと、そこに反発が生まれてしまう。
逆に、だから店舗オペレーションが今までどういう歴史でここまで研ぎ澄まされてきたのかというのも、面白い点だと思います。それがたとえITではなかったとしても、です。
アウトプットではなくアウトカムを重視する組織に
――山﨑さんは、内製化を進めていこうとされていると伺いました。なぜでしょうか?
山﨑:僕は、内製化組織というのは、単に事業部門が出してきた仕様に沿って社員エンジニアがウォーターフォールで開発することを指すのではなくて、「現場の課題を直接的に解決できるエンジニアの集団」だと考えています。
現場から出てくる「これを作りたい」という依頼の背景にある「本当の課題」を、エンジニアならではのコーディネートで、やり方すらも変えて解決するのが本当の内製化組織なんじゃないかなと思うんです。
ただの開発組織では、現場の課題を誰かが咀嚼して、案件化して降ってきますが、その案件が正しいかどうかを、誰も判断していないということが少なくありません。でも、エンジニアが現場の課題を自分たちから見に行くことで、案件自体を変えることができる。
課題そのものを少し変換して、「この課題はやり方をこう工夫したらいい」とか、「テクノロジーをこう工夫すればもっと簡単に解決できる」と、提案できる組織にしたい。それは、間違いなく社員のエンジニアではないとできない価値ですよね。アウトプットじゃなくてアウトカムを重視する組織にしたいと考えています。
エンジニアが自社を誇りに思えるようDevRelを推進
――優先順位としては内部を整える方が大事とおっしゃられてましたけども、外向きの発信であるDevRelにもお力を入れていくと伺いました。なぜでしょうか?
山﨑:当然ながら理由の一つは採用です。イオン内部では、たくさんいいことをしているのに、外に発信することができていないので、発信していくことで、採用につなげていきたいと考えています。
でも本質は、やっぱりエンジニア組織の強化で、今すでにイオンにいるエンジニアの人たちが、自分の会社をさらに誇りに思えるようにしたいんです。外から見て評価がいいところで働いてると、自然と自信も湧いてくると思うので。
それと、エンジニアの根源的な話なのですが、僕らはインターネットから情報を得て仕事をしているので、自分たちがインターネットに還元していくことも大切だと思っています。いろいろなコミュニティを立ち上げたり、イベントに協賛もしていきたいですし、ある程度データやマスタが揃ったら、それをオープン化していくというような展開もありうるのではないかと思います。

よい結果さえ出せば時間や場所は関係ない
――山﨑さんご自身は、普段どんな働き方をされていますか?お休みの日の過ごし方も教えてください。
山﨑:障害が起きればもちろん土日でも働きますけど、そこまで労働時間は長くありません。オフラインでやらなければならないことは会社でしますが、在宅で仕事をすることもありますし、その間に子供の世話をしたり、自分のことをしたり…というような働き方です。
休みの日は完全にルーティンで、土曜日は自由時間にしています。ドライブが好きなので、車に乗ってとにかく行ったことがなさそうな方向に走ってます。だいたいラーメン屋か温泉か釣りですね(笑)。日曜日は奥さんの自由時間の日なので、僕が6歳になる息子を朝から公園とかいろんなところに連れだしています。
――社員の皆さんにはどういう働き方を求めますか?
山﨑:同じです。時間とか場所とかハードさとかはあまり関係ないと思っています。「1日8時間机に向かって仕事しろ」みたいなのって、日本のよくないところですよね。
リモートワークは生産性が低いと言われることがありますが、会社で椅子に座ってパソコンを触っていても、その間、本当に仕事をしているか監視するのはナンセンスだと思います。つまり会社か自宅の問題ではないと考えています。
生産性を考えるためには、組織としてエンジニアにどのような課題を与えるかは難しいところです。会社の仕事ばかりではやらされ仕事になってしまいますし、自由研究ばかりだと会社の仕事に貢献しない可能性もあります。
僕の結論は、会社の仕事と自由研究を8:2くらいのバランスに設定することだと思っています。「8」の会社の仕事では、会社の事業に貢献しながら自分のスキルを伸ばし、「2」の自由研究では直接会社の仕事にはつながらないかもしれないけれども、新しいチャレンジができる。このバランスがちょうどいいということを、リクルートのころに学びました。
巨大なJCTを変革し、小売業の発展を後押しする
――では、今のイオンで、エンジニアが面白いと感じる技術課題はどこにあると思われますか?
山﨑:繰り返しになりますが、まずはデータの量ですね。トラフィックは圧倒的です。レガシーを置換するプロセス自体もそうです。
それと、比較的新しいアーキテクチャが結構入ってるので、そういうチャレンジをした時に、いきなり業界の第一人者になれるという点も、エンジニア的には面白いと思います。
今イオンではTiDBやSnowflakeの導入を検討しているのですが、先方(TiDB提供元のPingCAP社や、Snowflake社など)からしてもイオンに自社のソリューションが採用されるというのはインパクトが強いので、一緒に取り組みましょうという感じになる。そこはとても楽しいと思います。
イオンの看板はやっぱりでかいです。先般採用サイトをオープンしたときも、よいサイトが仕上がって、かなりXでバズったのですが、たとえこれをベンチャーがやってもここまでは話題にならないと思うんですよね。やっぱりイオンっていう看板があるからバズってるわけで。そんなところに身を置けるチャンスは、なかなかないと思います。
――山﨑さんはどういうエンジニアさんにチャレンジしてもらいたいと思いますか?
山﨑:さきほどの内製化の話とつながりますが、言われたことをそのままするのではなくて、課題の根源を自分できちんと取りに行って、課題解決するマインドを持ってる人と働きたいなと思っています。
正直なところ、イオンという会社は、まだまだ整っていません。なので「今すぐきれいに新しい仕事がしたい」とか、「超イケてるテックリードと一緒にペアプロしたい!」っていう人は、難しいです。ごめんなさい。
ただ、そのような環境を作る側の人として、この巨大なJTCを変えて、日本全体の小売業界をよくしたいと思う方なのであれば、ぜひ一緒にやりたいと思います。
最終的に「イオン、JTCから脱却したよね」と言われるようになったときに、「それやったのうちらじゃん!」って言えたら、僕たちの勝ちだと思うんですよね。

――ありがとうございました。
イオンは、エンジニアをはじめとするデジタル人材を募集しています。カジュアル面談も実施しておりますので、ぜひお気軽にお申し込みください。
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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