POSの裏側を聞いたら「アナログ時代の職人技」と「顧客満足へのこだわり」に驚いた|イオングループのエンジニアによる突撃インタビュー

POSの裏側を聞いたら「アナログ時代の職人技」と「顧客満足へのこだわり」に驚いた|イオングループのエンジニアによる突撃インタビュー

2025/1/23

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この記事に登場している人

林 如弥

Yukiya Hayashi

イオンスマートテクノロジー株式会社 Developer Enablementディビジョン SREユニット SREチーム
新人時代はSIerのネットワークエンジニアとして金融系のプロジェクトでハードワークを経験し、事業会社のインフラエンジニアやSREとしての経験を積んで2024年03月よりASTへジョイン。

この記事を読むとわかること

・イオングループ5000店舗、5万5000台以上のPOSシステムを支える技術と人の力とは
・現場のアナログ作業から学んだPOS開発の原点と未来への設計思想
・数十億円規模の課題解決に挑む、消費税対応やギフトシステム改革の舞台裏

私たちITエンジニアは日々システムの開発や運用に携わっていますが、実は既存システムの歴史や進化の過程については、意外と知らないことが多くあります。特に、店舗の最前線で使われているPOSシステムは、私たちエンジニアにとって、知っているようで、実は知らない存在でした。

そんななか、イオンのシステム運用チームに、POSシステムのスペシャリストと呼ばれる方がいると耳にしました。40年以上の小売業界経験を持ち、現在はイオングループ5000店舗、5万5000台以上のレジをモニタリングする櫻田さん。「ぜひ話を聞きたい」という思いから、この突撃インタビューが実現しました。技術の進化と人間味あふれるエピソードの数々は、私たちに多くの気づきを与えてくれました。

【目次】

現場から開発へ、40年の軌跡

林本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まず、櫻田さんの経歴について教えていただけますか?

櫻田私は1980年代に、現在のイオングループであるダイエーへ入社しました。最初の4年間は新潟の店舗で、その後3年間は盛岡の店舗で勤務していました。店舗では主に事務を担当しており、ラッピング作業やレジの現金管理なども行っていましたね。

当時はレジの中のドロワーという現金収納箱の下に1万円札を入れていたのですが、50枚くらい溜まるとドロワーが閉まらなくなってしまう。そのため、毎日午後3時ごろに「途中集金」といって、大きな袋を持って警備員さんとともに売場を回り、1万円札だけを回収していました。今でもお札を扇状に広げて数えることができるので、冠婚葬祭のときに役立っています(笑)

林現場のさまざまな業務を経験されたんですね。その後は、本社に異動されたと伺いました。

櫻田はい、90年にダイエーの本社に異動して、そこからPOSシステムの開発に関わるようになりました。現在は、イオンのシステム運用チームで5000店舗、5万5000台を超えるレジの監視を担当しています。

林店舗での実務経験が、システム開発にも活きている実感はありますか?

櫻田そうですね。システムの向こうには必ず「人」がいます。レジでの精算を担当するチェッカーさん、お客さま、そして私たちシステム担当者。実際に現場で働いた経験があるからこそ、すべての人々の思いが交差する場所として、POSシステムは重要だと感じています。

アナログな世界の職人技が求められたPOS普及前夜

林1980年代、POSが普及する前の店舗では、具体的にどのような業務が行われていたのでしょうか?

櫻田昔は基本的に商品にバーコードが付いていなかったんです。バーコードが付与されるようになったのは、POSが普及してから。したがって、当時はすべての商品に手作業で値札を付けていました。

ドライグロサリー(乾物食品)の箱を開け、ラベラーというシートを発行する機械に商品をセットして、アルバイトの方が信じられないスピードで値札を貼っていく。まさに職人技の世界でした。

林それは大変な作業だったと思います。値札を貼れない商品はどうされていましたか?

櫻田たとえば大根や葉物野菜には直接値札は貼れませんよね。チェッカーは朝出勤したら、「今日は大根が100円、三つ葉が98円」といったように、その日の価格を全部暗記するんです。

さらに、夕方5時ごろになると価格変更があります。青果の担当者が「今から大根80円ね」とレジに伝えにくる。すると、チェッカー同士で「大根80円」と伝言ゲームのように伝えていく。今から考えると、なんともアナログな世界ですよね。

林チェッカーさんの仕事が店舗運営の要だったわけですね。高度なスキルが求められそうです。

櫻田そうですね。「補数計算」という試験があって、これに合格しないとレジに立てなかったんです。たとえば、1000円からいくら引いたらいくらになるか、という計算問題を10分間で解いていく。この試験の間違いの数が規定以下の人しかレジに立てませんでした。

そうした背景もあり、当時チェッカーは基本的に社員が担当していました。チェッカーの機嫌を損ねると間違った売価が出たりロスが出たりするので、生鮮売場の主任としては、チェッカーの主任には頭が上がらなかったようですね。

意外と知らない、POSシステム導入期の裏話

林最初のPOSシステム導入時のことを覚えていらっしゃいますか?

櫻田最初のPOSシステムは、今のエンジニアの方々には信じられないかもしれませんが、各店舗ごとに冷蔵庫サイズのコンピューターが2台も必要だったんです。4.5畳のマシンルームを作って設置しました。事務所にはエアコンがないのに、マシンルームだけエアコン完備でしたね。

林現在でもデータセンターのマシンは、人間よりも快適な環境で動いていますからね(笑)。

櫻田また、当時のプリンターシステムは、現在主流のサーマルプリンターとは異なり、ドットプリンターを使用していました。6枚綴りのクレジットカード伝票の6枚目まできちんと印字できるように物理的にドットを打っていくというものです。

林バーコードの導入はスムーズに進んだのでしょうか?

櫻田最初は、メーカーさん側が独自のバーコードを付けてくれた医薬品からスタートし、その後徐々に食品にも広がっていきました。スキャナーも、今のようなタッチスキャナーではなく、最初はペン型で、バーコードの上をなぞるように読み取る必要がありました。

そうした形でPOSシステムが80年代後半ぐらいから普及しはじめ、90年代までにはほとんどの大手スーパーマーケットに導入されていたと思います。

技術革新がもたらした新たな課題は「操作性」

林POSシステムの開発に携わられるようになったのは、1990年にダイエーの本社に異動されてからというお話でした。当時の状況はいかがでしたか?

櫻田ダイエーの2期目のPOSシステムの導入を担当することになったのですが、1期目と比べると、ストアコントローラーが小型化され、よりパーソナルに近くなりました。プリンターもドットプリンターからサーマルプリンターに変わるなど、大きな技術革新がありました。

林POSが導入されて、業務はスムーズになったと思いますが、新たな課題は出てきましたか?

櫻田ええ、最大の課題は操作性でした。当時のシステムは学習コストが高く、あんちょこを持たなければレジに入れない状況で、「レジの操作が難しくて、チェッカーが他社に転職してしまっている」という噂まで出たほどです。これは深刻な問題でした。

あるとき、店舗応援で売場に入ったときのことです。普段はシステム開発側にいる私が、実際にPOSを操作することになりました。「このPOSは自分が導入したんだから、できないはずがない」と必死で操作したのですが、苦労しました。この経験から、「マニュアルなどに頼らず、画面だけを見てナビゲーションどおりに操作できるようにしなければならない」という設計思想が生まれました。

林そうした考えは、現在のイオンのPOSシステムにも反映されているのでしょうか。

櫻田はい。イオンのPOSも同様に覚えることが多く難解な点が課題だったため、画面を見るだけでオペレーションが完結するようなインターフェイスを目指しました。

具体的には、チェッカーの派遣会社にシステムの評価を依頼したんです。チェッカーの派遣会社では、チェッカーとして必要な知識やスキルを教育して、各店舗へ人材を派遣しています。そこの人たちであれば、POSの操作性をわかってもらえるだろうと考えました。

最初は「システムの評価をする会社ではないので……」と難色を示されましたが、「スーパーのチェックアウト*業務のことを一番よく知っているのはあなた方だから」と説得し、協力していただくことができました。その結果、客観的な評価が得られ、システムの改善に大きく役立ちました。

*チェックアウト: 顧客が購入した商品の精算を行い、袋を詰めるなど一連のプロセスを指す

消費税対応とギフトシステム改革:失敗と成功から学んだこと

林長年のご経験のなかで、最も困難だった出来事は何でしたか?

櫻田1997年の消費税率引き上げのときでしょうか。システムの設定ミスで、お客さまから過剰に税金を徴収してしまいました。大手新聞各社に社告を出さなければならないほどの規模でした。

林そのときの対応で特に心がけたことはありましたか?

櫻田まず、包み隠さず公表することを決めました。コンプライアンスの観点から、「隠したら後々悪いイメージがついてしまう」という危機意識が当時からありました。専用のコールセンターを立ち上げ、私がセンター長として対応しましたが、実際に電話応対をするなかで、本当にいろいろなお客さまがいらっしゃるんだと痛感しましたね。

林反対に、最も印象に残っている成功体験を教えていただけますか?

櫻田ダイエー時代のギフトシステムの改革ですね。従来はすべて手書きで、お客さま20人分の伝票を書くのに30分以上かかっていました。私自身、店舗応援でギフト受付を経験していたので、この非効率さは身にしみて感じていました。そこで開発したのが、タブレットで受注してバーコード化するシステムです。受注データを直接POSに送信できるようにして、数分でお客さま対応を完了できるようになりました。

林現場の反応はいかがでしたか?

櫻田実際に店舗に応援へ行ったとき、スタッフから「櫻田さんが作ってくれたシステム、本当に楽で助かります」とバイネームで直接感謝されました。また、印象的だったのは、外字の「はしご高」が入力できないとご指摘いただいたお客さまがいらっしゃったため、システム改修を行い次回来店したときに入力できるようになっていて驚かれたことです。システム開発者として、使う人の困りごとを解決できたときが一番うれしいですね。

技術が進歩しても「チェックアウト」という考え方自体は変わらない

林最後に、これからのPOSシステムについてのお考えを聞かせてください。

櫻田テクノロジーは日々進化を続けています。セルフレジやスマートフォン決済など、新しい技術も次々と登場しています。でも、「チェックアウト」という考え方自体は変わらないと思うんです。

林それはどういう意味でしょうか?

櫻田イオンのお客さまは実に多様です。たとえば、セルフレジを選ぶ理由ひとつとっても、「買った商品を見られたくない」という方もいれば、「子どもがおもしろがってやりたがる」という方もいる。値引きシールが貼られた商品を持ってきて「すみません、安いのばかり買って……」と恥ずかしそうにされるお客さまもいらっしゃいます。そうしたとき、システムはお客さまの気持ちに寄り添えるものでなければならないと強く感じます。

お年寄りのお母さんと買い物に行くときのことを考えてみてください。帰り際に優しく手を引いて「帰りましょう」と言える。そんな温かいチェックアウト体験をつくることが非常に重要だと考えています。どんなに技術が進歩しても、最後は「お客さまに気持ちよく買い物を終えていただく」という原点を忘れてはなりません。

林店頭で商品を買ってもらうためには、棚の陳列や値段設定が大事なポイントだというイメージを持っていました。チェックアウトの重要性についてお聞きでき、よい視点が得られました。

櫻田チェッカーさんの働きがいも重要です。私がよく開発チームに言っていたのは、「あなたは店頭で指をさされて『詐欺師』と言われたことがありますか?」ということ。システムの不具合で、広告の価格と違う金額が表示されてしまい、お客さまから厳しいお言葉をいただいたことがあるんです。だからこそ、チェッカーさんが自信を持って仕事ができるシステムを作る。それが、開発者の使命だと考えています。

林技術の向こうにある「人」を常に意識する。とても印象的なお話でした。本日は貴重なお話をありがとうございました。



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