
この記事を読むとわかること
・ダイエー再編をIT責任者として内側から経験して得た「投資価値を問う力」
・グループ20社以上に及ぶシステム統合を通じて見えてきた、業態ごとに異なる本質
・なぜ今、モノリスティックな基幹システムが"氷解"し、デジタルと融合する必要があるのか
・「守り」と「変革」の両立ができる人材が求められる理由
日本最大級の小売グループを支える基幹システムが今、大きな転換点を迎えています。長年“一枚岩”とされてきたモノリスティックな巨大システムが、AIや最新のデジタル技術と結びつくために、ゆるやかに分解──“氷解”を始めているのです。
イオンスマートテクノロジー(AST)のCIOO、橘川貴文氏は「この先5~10年は本当に面白い時期になる」と語ります。バイヤー志望でダイエーに入社し、1年目でIT部門へ異動。再編の渦中でIT責任者として矢面に立ち、イオンへの統合を経験してきた橘川氏に、30年のキャリアで培った視点と、これから訪れる変革の姿を伺いました。
【目次】
バイヤー志望が1年目でIT部門へ。未経験から始めたプログラミング
──新卒でダイエーに入社されたのが1993年。まずは小売業界を選ばれた理由を教えてください。
橘川学生時代は会計学を専攻していたんですが、いわゆるオフィスワークよりは、現場に近い仕事のほうが自分には合うと考えていました。小売業界に惹かれたのは、自分の工夫が売り場に反映され、お客さまに直接届く実感を得られそうだったからです。
当時のダイエーは売上日本一。「肉といえばダイエー」と言われるほどで、私も肉のバイヤーになりたくて入社しました。

──技術系での採用ではなかったんですね。
橘川そうなんです。ところが少し売り場に出たくらいの入社1年目で、IT部門へ出向になりました。とはいえ、当時はインターネットも普及しておらず、1人1台パソコンもない時代です。まったくの未経験だったので、意外な異動でしたが、「じゃあ、やってみるか」と気持ちを切り替えました。
COBOL系言語を一から学び、プログラマーとしてのキャリアがスタートしました。最初に携わったのは予算立案システム。学生時代の会計の知識が意外な形で役立ち、その後もしばらくはプログラマーやSEとして基幹・情報系システムなどを担当しました。
──プログラマー時代は、何が面白かったですか。
橘川自分が作ったプログラムが全社の予算確定や財務実績といった業務に大きく影響していると実感できたのが面白かったですね。
システム障害が発生すると、上司と一緒に謝りに行くわけです。現場で怒られながら、その分だけ、責任の大きさとやりがいを感じました。
最初はプログラムを書いて実行しても、それが何なのかよくわからなかったんです。でも次第に“連鎖的に動く仕組み“として理解できるようになり、超合金のギミックみたいに、「ここを動かすとこう変形する」という仕掛けが連動して動く快感がありました。
それと、規模が大きいと少しの改善が全社に影響するんですよね。それが当時はすごく楽しかったです。
ダイエー再編の渦中で問われ続けた「なぜその投資が必要なのか」
──2000年過ぎに本社のIT企画部門へ異動されました。ここから激動の時代が始まるわけですね。
橘川そうですね。30代前半から40代中盤は、ダイエー再編の真っただ中でした。当時業界トップだった企業が経営危機に陥り、取引銀行や産業再生機構など、次々と異なるステークホルダーが関与してくる。
その中でIT責任者として矢面に立ち、「なぜこのシステムにこんなにお金を使っているのか」「それがどれだけの利益を生んでいるのか」と、容赦なく問われ続けました。
それまでは「役員が言ったから実施する」ということもありましたが、いろいろな価値基準を持つ人たちと向き合ったことで、「なぜそれをやるべきなのか」「それがどんな価値を生むのか」という視点を持てたんだと思います。IT部門だけにいると育ちにくい視点ですよね。

──大変なフェーズでしたね。辞めようと思ったことはなかったのですか。
橘川何度もありました。でもここまでやったのだから、きちんとやり遂げたいという思いが大きかったですね。ダイエーとしては激動の時代をIT責任者として経験できたのは、今となっては財産です。
──そうして、2014年にイオンアイビスへ移られたのですね。
橘川ダイエーからイオンへという流れに戸惑いもありましたが、再編中は投資が制限されている場面が多かったんです。なので、イオングループほどの規模で積極的に投資ができる環境にやりがいを感じました。
最新の技術や手法を使わないと実現できないことも多々あり、規模が大きいとシステムの難易度が上がるので、取り組むべき課題として、とても魅力的でした。
着任直後に牽引したのは20社以上への管理会計システム導入プロジェクト。総合スーパー、食品スーパー、ディスカウントストア、小型スーパーなど、ほぼ日本の業態を網羅するような幅広い立場から本音を聞くことができました。これだけバラエティに富んだ日本の小売業界の意見を聞けるのは貴重でしたね。
──グループ各社と向き合う中で、気づいたことはありますか。
橘川IT部門が細かくこだわる部分と、経営者が重視するポイントにズレがあることに気づかされましたね。逆に、ITが重要でないと思っていることが、ビジネスでは重要ということもあります。
システムの共通化はスケールメリットがありますが、業態の違いをどこまで許容するかは簡単ではありません。規模の効率性を追求すべきなのか、非効率さを許容するべき領域はどこなのか、システムとしてどうあるべきか、すごく悩みました。
イオンアイビス時代の約10年間は、こうしたジレンマと向き合いながら、元ダイエーを含むグループ各社のシステム統合を進める時間でした。
──イオンの規模だからこその大変さもありましたか。
橘川イオンの場合、システム開発でよくぶつかる壁は、圧倒的なデータ量です。データ量があまりにも多いので、処理に時間がかかったり、想定外の問題が起きたりする。結果として前例のある技術だけではできないことも多々あります。大変ではありますが、ビジネスへの影響も大きく、自分たちの出せる価値も実感しました。
「鍛える筋肉が違う」デジタルとITを融合させる挑戦
──2024年、イオンアイビスとASTが統合し、CIOOに就任されました。どのようなことに取り組んでいますか。
橘川3つのミッションを掲げています。1つ目はイオン共通システムのグループ全体への拡大、2つ目はイオン共通システムそのものの価値を向上させ続けること、そして3つ目がそれを実現できる組織と仲間づくりです。

──システムの価値とは何だと考えていますか。
橘川お店の人がより効率的に働けて、お客さまにも喜んでもらえる。そういうシステムを、世の中にあるソリューションを組み合わせながら提供していくことです。
それには表面的に見えるものだけではなく、小売業のサプライチェーン全体を支えるプロセス・システムを進化させ続けていくことです。現在、グループ全体へのシステム展開はまだ6~7割。利用度が上がれば、システムの価値が上がり、さらに多くの人が使ってくれる。その好循環を目指しています。
社内システムは「古くて使いにくい」と言われがちですが、それを当たり前だと思ってはいけない。AIを使った発注システム、便利なPOS、新しい決済端末など、他社に負けないシステム装備を、会社の戦略とも紐付けながら導入していきます。
ここで大事なのは「○○システムを導入しました」という個別の話ではなく、それがサプライチェーン全体にどう寄与しているか、最終的にお客さまにどのように喜ばれているのか、ということです。チームにもそういった視点の大切さを常に伝えています。
同時に最近は、これ以上「従来の延長線上の改善」だけやっていてもダメだという危機感もあります。AI社会でビジネスモデルが変わる中、システムとしてどう対応していくべきか、イオングループ全体で組織的に考えています。
──2024年12月、イオンアイビスのIT事業とASTが統合し、新生ASTが誕生しました。この統合で変わったことはありますか。
橘川デジタルとITの融合に取り組みやすい環境が整ったことです。多くの企業では、アプリやモバイルなどを扱うデジタル部門と、基幹システムを扱うIT部門が、なかなか協働しにくいという話をよく聞きますよね。例えるなら、陸上と水泳くらい鍛える筋肉や価値観が違う。しかし、ASTの統合によって、両者が一体で取り組める環境が整いました。
──統合から約1年が経ちました。組織の変化は感じますか。
橘川ようやく、新しいワイシャツの襟が硬くて痛い感じがなくなってきたと言えますね。意見を言いやすい雰囲気を作ろうと心がけていますが、まだ「堅いよね」という声も聞きますし、道半ばです。
イオンアイビスには2014年から約10年在籍していましたが、もともとアイビスはグループ内のIT構築を請け負う受託企業としての側面が強かった。そこから、新しい価値を創造する組織へと変わっていかなければいけない。これは一朝一夕にできるものではないですが、着実に変わりつつあります。
基幹システムが"氷解"する今。レガシー企業ならではの変革
──今このタイミングで、ASTで働く面白さはどこにあると思いますか。
橘川この先5~10年、小売業界は本当に面白い時期だと思います。AIをはじめとする最新技術で、ビジネスプロセスが根本的に変わっていくでしょう。AIエージェントが買い物を代行する未来も遠くありません。そうなると、店舗の働き方も、商品の仕入れ方も、お客さまの買い物体験も、すべて変わっていきます。
こうした変化に対応するには、基幹システムが変わる必要があるんです。長年モノリスティック(一枚岩)とされてきた基幹システムが、デジタルと融合するために、少しずつ"氷解"を始めているんです。崩壊ではなく、氷解。硬い岩が溶けて、柔軟なデジタル技術と組み合わせられるようになっていく、ということです。
スタートアップのような新しい企業には、そもそも巨大なモノリスティックなシステムはありません。しかし、私たちのようなレガシーシステムを抱える企業だからこそ、この規模で変革の真っただ中を経験できる。まさに今、ものすごく面白いタイミングだと思います。
──そうした変革期にあるASTでは、どのような人材を求めていますか。
橘川まず大前提として、変化を前向きに受け止められる人。「変革を起こそう」なんてかっこいいことは言わなくてもいいんですが、「変わるなら変わるでいい」と思える柔軟性を持った人です。
そしてもう一つ重要なのが、守りと変革を両立できる人材です。基幹システムは日々の運用を安定して守ることが最優先。でも同時に、未来のための変革も求められる。この相反する要素を両立するのは本当に難しいんですが、それができる人を求めています。
具体的な役割としては、プロジェクトマネージャー、特定領域の専門家であるSME(サブジェクト・マター・エキスパート)、運用コントローラー、ビジネスアナリストなどがありますが、いずれも根底にあるのは、守りと変革を両立できる力です。
──最後に、ご自身の30年のキャリアを振り返って、今この瞬間をどう感じていますか。
橘川日本の小売業界を支える巨大システムの変革を、内側から経験できる面白いタイミングだと思います。この先5~10年は相当面白いでしょうね…っていつも言っていますけど(笑)。正直なことを言うと、あと20年若返りたいんですよ。そうしたらもっとこの変化を見続けられるのに、と思います。

イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
この記事を書いた人
古屋江美子
ライター。1977年山梨県生まれ。大阪大学基礎工学部卒業後、通信会社の情報システム部で、顧客管理システムの運用や開発に従事。その後、ライターとして独立。技術系Webメディアやテック企業のオウンドメディア、システム導入事例、エンジニア採用インタビューなどを中心に執筆している。神奈川県在住。
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