アプリ乱立問題を解決する新たな手法「ミニプログラム」を導入した話

アプリ乱立問題を解決する新たな手法「ミニプログラム」を導入した話

2025/6/12

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この記事に登場している人

墨谷 茂

Shigeru Sumiya

イオンスマートテクノロジー株式会社 iAEON開発ディビジョン iAEON開発ユニット iAEON開発チーム エンジニア
2023年にスクラムマスターとしてJoinし、開発チームの支援とプロジェクト推進に携わる。フルスタックエンジニアとしてアプリ開発やシステム設計にも関与し、要件に応じた技術選定と効率的な開発を行なっている。

    この記事を読むとわかること

    ・アプリ乱立問題に挑む、iAEONが「ミニプログラム」でUXを再構築
    ・WebViewから脱却、通信環境に左右されない快適な体験を実現
    ・事業会社ごとのブランドは維持しつつ、1つのプラットフォームで集約
    ・「その人のためのiAEON」へ──パーソナライズされた買い物体験を目指す

    スマートフォンのアプリストアで「イオン」と検索すると、イオンモール、イオンウォレット、イオンシネマなど、関連の公式アプリがずらりと並ぶ。この"アプリ乱立"の状況は、ユーザーの混乱を招くだけでなく、企業側にとっても深刻な課題だ。個別アプリの運用・開発コストが増す一方で、ユーザー体験は分断され、ブランドとしての一貫性にも影を落とす。

    その課題に真正面から取り組んでいるのが、イオングループの公式アプリ「iAEON」だ。インストール数はすでに1000万を超え、日々数十万人が利用するこの大規模アプリで、新たに導入されたのが「ミニプログラム」戦略である。

    1つのアプリから多様なサービスを利用できるだけでなく、一人ひとりの使い方に合わせてカスタマイズできる未来を目指す挑戦。その開発を主導するイオンスマートテクノロジー(以下、AST)の墨谷に、ミニプログラム化の背景、技術的な苦労、そして目指す未来について話を聞いた。

    【目次】

    便利なはずがかえって不便に? ユーザー体験を阻む課題とは

    従来、iAEONアプリではAEON Payやセルフレジ「レジゴー」「iレジ」など、さまざまな機能を「ミニアプリ」として提供してきた。ただし墨谷によれば、これには技術的な限界がある。

    ミニアプリは、実質的にはWebサーバー上のコンテンツをWebViewで表示しているだけです。そのため、インターネット環境がボトルネックになりがちで、特に店舗内など通信環境が不安定な場所では表示が遅くなる場合があります。(墨谷)

    また、イオングループ全体で多くのアプリが個別に存在している状況も課題だ。App StoreやGoogle Playで「イオン」と検索すると、公式アプリだけでも10個以上がヒットする。それぞれのアプリは独自の機能を持ち便利である一方、ユーザーはその都度アプリをダウンロードし、切り替えなければならない。

    アプリの“中にあるアプリ”──「ミニプログラム」が変えるサービス提供のかたち

    こうした課題を解消する「ミニプログラム」とは何だろうか。「簡単にいうと、iAEONアプリ自体を更新しなくても新しいサービスを配信できるシステムです」と墨谷は説明する。ユーザーとしては、本体のアプリをダウンロードしていれば、インストール不要ですぐに目的のサービスを起動できるのが特徴といえる。

    これは中国のWeChatやAlipayなどの大規模プラットフォームで採用されている概念だ。日本ではまだあまり普及が進んでいないが、たとえば国内コミュニケーションアプリのLINEに見られる「アプリ内で起動するクーポンやポイントサービス」などをイメージすると、その仕組みの一端が想像しやすいかもしれない。

    ミニアプリもミニプログラムもいわば「アプリ内で動く小さなアプリ」だが、両者の最大の違いは技術的な実装方法にある。

    ASTが定義するミニアプリとは、前述のとおり、WebViewで表示しているWebページがその実態だ。通常の外部リンクと違うのは、iAEON側からSDKを提供しており、ミニアプリ側でiAEON上の情報を取得できる点。会員IDやバーコード情報などをSDK経由で取得できるようになっている。

    これに対し、ミニプログラムはまったく異なるアプローチを採用している。

    ミニプログラムはiAEONアプリのなかに、直接コンテンツをダウンロードするプログラムです。アプリ内でリンクをタップすると、そのときに必要な機能だけがダウンロードされます。App StoreやGooglePlayなどのアプリストアを介さずに、iAEONから呼び出されたときに必要な機能だけをダウンロードして起動できます。(墨谷)

    この技術的な違いは、実用面で大きなメリットをもたらす。すでにスマートフォン内にコンテンツがあるため、使い勝手がダイレクトで起動も速い。店舗内をはじめネットワーク環境が不安定な場所でも、安定したユーザー体験を提供できる。さらに、ミニプログラムはネイティブアプリに近い表現力や機能を持つことも特徴だ。ミニアプリに比べてより柔軟な拡張が可能となる。

    なぜ今「ミニプログラム」なのか? iAEONが描く3つの進化像

    墨谷によれば、iAEONのミニプログラム化には3つの重要な目的がある。

    1. すべてのユーザーに"ちょうどいい"体験を

    1つめは、ユーザー体験の向上だ。墨谷は、これが最も重要な目的であるとする。

    現状、iAEONアプリを開くとさまざまな機能やサービスが並ぶが、ユーザーによって使用頻度は大きく異なる。ミニプログラム化によって、よく使うサービスを前面に出すカスタマイズが可能になる。

    すでにiAEONアプリのアイコン長押しでAEON Payや会員コードを起動できる機能がありますが、これをさらに拡張して、ユーザーが頻繁に利用するサービスを前面に出し、前述のようにあたかもネイティブアプリであるかのように使ってもらえるようにしたいんです。(墨谷)

    ミニプログラムを活用することで、ユーザーは必要なサービスだけを選んで利用できるようになり、アプリのインストールや切り替えに伴うストレスが軽減される。結果として、ユーザー視点での「アプリ乱立」の課題も、サービス提供のあり方を再編することで根本的に解消していく狙いがある。

    2. 各事業者のブランドはそのままに、プラットフォームは1つに

    2つめは、イオングループ内で各事業者がそれぞれアプリを展開している状況を改善したいという狙いだ。

    たとえば、イオンリテールの「イオンお買い物」アプリでは豊富なクーポンが提供されているが、これをiAEON内のミニプログラムとして統合できれば、ユーザーはクーポンを利用する際に別アプリをインストールする必要がなくなる。

    単独でアプリを持っている事業会社からも、自分たちのサービスをiAEON内で提供したいというニーズがあります。ただし、『自分たちのアプリとして表示したい』という要望もあるんです。(墨谷)

    現在はまだデモンストレーション中だというが、将来的にはiAEONアプリを起動しただけで、頻繁に利用するミニプログラムをまるでネイティブアプリのように利用できるようにしていきたいという。これにより、各事業会社は独自のブランドを保ちながら、iAEONという共通プラットフォーム上でサービスを提供することが可能になる。

    3. iAEONアプリの「スクラップ&ビルド」を促進

    3つめの目的は、システムアーキテクチャの移行だ。「現在のiAEONアプリの開発には、Ionicというフレームワークを使っていますが、将来的にはこれを使わない方向に進めたいと考えています」と墨谷は説明する。

    Ionicとはハイブリッドアプリ開発フレームワークの1つで、WebView上でHTMLやJavaScriptを実行することでiOSとAndroid両方のプラットフォームに対応したアプリを効率的に開発できるというメリットがある。しかしながら、WebView上で動作する以上、どうしてもネイティブアプリに比べて動作が重くなるケースが生じてしまう。将来的にネイティブコードを使ったアプローチに移行することで、WebViewのオーバーヘッドを排除し、アプリの応答性を大幅に向上させることが可能になるという。

    この際、現在のアプリの各機能をミニプログラム化することで、「iAEONの骨格を変更しやすくなる」という効果が期待できる。

    最終的には、iAEONアプリのなかの機能すべてがミニプログラムとして動く状態を目指しています。それができれば、Ionicというフレームワークに依存しない形でアプリ全体を刷新できるようになります。(墨谷)

    墨谷は、「スクラップ&ビルド」という表現を使いながらも、実際には段階的にシステムを移行していく計画であることを明かす。すべてを一度に変えるのではなく、ミニプログラム化によって個々の機能をモジュール化し、徐々に新しいアーキテクチャに移行していく。そうすることで、サービスを継続しながら、内部の技術基盤を刷新していく考えだ。

    少数精鋭部隊で挑む、1000万ユーザーの新体験

    ミニプログラムの開発は2024年8月にスタートした。「当初は3人のコアメンバー体制で、私は全体の取りまとめと主にバックエンドの実装を担当していました」と墨谷は語る。残る2人は、1人がCMSの実装を、もう1人がフロントエンドの開発を担う形で、それぞれの専門性を活かしてプロジェクトを推進していたという。

    現在は協力会社のメンバーも含めて5人のチームに拡大しており、少数精鋭でありながら、着実に機能の実装と改善を進めている。

    1000万ユーザーが利用する大規模アプリにおける新技術導入は、さまざまな課題を伴う。墨谷はプロジェクト進行中に直面した主な課題として、開発プロセスの問題と技術的な学習コストの2点を挙げた。

    課題1: アジャイルの理想と現場のリアル

    「ASTは全社的に開発手法としてスクラムを採用していましたが、ミニプログラムの土台部分に関していえば、本来はウォーターフォール的に進めるほうが適切だったかもしれない」と墨谷は振り返る。

    組織全体でスクラムに取り組むなか、ほかのビジネス要件も同時にこなさなければならず、どう優先順位を確保するかは課題でした。スプリントのベロシティの半分はミニプログラムに使えることになっていましたが、そこまでの時間を取ることは実際問題として難しい状況でした。(墨谷)

    一方で、周囲からはミニプログラムへの期待が高まり、実際にセールスも始まっていたという。開発の進捗と外部からの期待にギャップが生じていたのだ。

    課題2: 技術的な学習コスト

    今回のミニプログラム開発には、JavaScriptライブラリであるReactが採用されている。

    墨谷によると、開発メンバーは、JavaやKotlin、Swiftなどを用いたネイティブアプリ開発の経験はあっても、Reactには不慣れなエンジニアが多かったという。墨谷は当時の課題を率直に語る。

    新しいメンバーがジョインしても、キャッチアップ期間中のサポートが必要で、開発はなかなか思うように進みませんでした。(墨谷)

    こうした2つの課題に対して、墨谷のチームは創意工夫で対応した。1つの解決策が「モブプログラミング」の導入だ。

    デイリースクラムとは別に、技術的な課題を共有するための定例を設けました。そこで『ちょっとわからないことがある』という話が出てきたら、その後ミーティングの時間を設定して、チームで一緒にプログラミングを行い、問題解決を進めました。こうして、一人で何日も悩んでしまうような状況をなくし、声をかけ合える環境を作りました。(墨谷)

    また、最新のトレンドである生成AIツールの活用も積極的に進めている。

    コードのレビューをAIに依頼したり、抽象化された自然言語からロジックを考えてもらったりしています。AIが書いたコードは比較的動くものが多く、より注力すべき作業に頭を使えるようになりました。(墨谷)

    アプリは「個」の時代へ——ミニプログラムが実現する未来像

    最後に、ミニプログラム化が実現する未来像について墨谷に聞いた。

    iAEONの基本は、ポイントアプリであり、クーポンアプリなので、多くのユーザーは買い物のタイミングでしか開きません。そこで、私たちが目指しているのは2つの方向性です。1つは、ユーザーごとに本当に必要な機能だけがあるシンプルな状態。もう1つは、日常的にiAEONを開きたくなるようなコンテンツの提供です。(墨谷)


    墨谷が理想とするのは、「その人のためのiAEON」だ。たとえば、シンプルに会員バーコードとクーポンだけを使いたいユーザーと、日々の生活を可視化したり情報収集をしたいユーザーでは、必要な機能が大きく異なる。「このような多様なニーズに、ミニプログラムという形で応えていきたい」と墨谷は意気込みを語る。

    iAEONの取り組みは、「既存資産を活かしながら、段階的に未来志向のアーキテクチャへ移行する」という観点で、多くの大規模アプリにとって参考になる。乱立したサービスの統合、UX最適化、組織内調整という3つの視点をミニプログラムという技術的アプローチでどうバランスさせるか──そのリアルは、あらゆる組織にとってのヒントとなるだろう。



    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

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