60万人の現場を変える従業員向けアプリ「stoNavi」はこうして生まれた - 共通解なき要件に立ち向かった開発の舞台裏

60万人の現場を変える従業員向けアプリ「stoNavi」はこうして生まれた - 共通解なき要件に立ち向かった開発の舞台裏

2025/8/12

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この記事に登場している人

瀋 国雄

Shin Kokuyuu

イオンスマートテクノロジー株式会社 データソリューションディビジョン ディレクター
日本の大学卒業後、グローバルIT企業および中国IBMにて約20年間、小売業向けのコンサルティング業務に従事。2021年にイオンに入社し、現在はイオンスマートテクノロジー株式会社にてデータソリューション/データプラットフォーム領域のディレクターを務める。店舗業務のデジタル化、モバイルアシスタント、経営判断ダッシュボード、データ・ビジネスプラットフォーム整備などを推進し、イオングループのDXと「生態圏」構築に取り組んでいる。

    中田 諭

    Nakata Satoshi

    イオンスマートテクノロジー株式会社 ビジネストランスフォーメーションディビジョン MDプロセスユニット 価格最適化チーム マネージャー 兼 リアルタイム経営システムディビジョン リアルタイム経営開発・推進ユニット リアルタイム経営開発・推進チーム
    2007年イオンリテール入社。店舗業務の経験を経て、労働組合専従者として従業員の働き方に目を向け、8年活動。職制に帰任後、業務のムリ・ムダ・ムラを標準化し、社長直轄収益構造改革チームの一員として年間50億の削減を実施。2024年にASTに出向し、現職。

    魏 艶蓉(ビビアン)

    Gi Enyou(Vivian)

    イオンスマートテクノロジー株式会社 ビジネストランスフォーメーションディビジョン ストアデジタルユニット stoNaviチーム
    イオン中国本社&DMCで8年間働き、ロイヤリティプログラム及び店舗デジタルチームの責任者となり、stoNaviの原型プロダクトが中国全土で展開された経験者にもなります。2024年ASTに入社して、ビジネストランスフォーメーションDivのstoNaviチームに所属しております。

    この記事を読むとわかること

    ・中国発の店舗管理アプリ「stoNavi」を、イオングループの多様な現場に最適化して再構築
    ・15分ごとに更新されるリアルタイムデータで、売場改善の即時判断を支援
    ・UI/UXは「誰でも・どこでも・直感的に」を重視し、多様化する現場にも寄り添う設計に
    ・店舗業務のフルモバイル化、AIアシスタントによる自動提案など、次のステージへ拡張中

    「カンパニー制か、業態別か」「在庫の回転日数か、利益への貢献度合いか」——イオングループの多様な事業会社から上がる、ときに矛盾する要望。中国生まれの店舗管理アプリ「stoNavi(ストナビ)」を日本に移植する過程で開発・推進チームが直面したのは、技術的課題以上に、組織の複雑さだった。2024年度現在、7社1,400店舗8,000名が使うプロダクトは、どう「使われるもの」へと進化したのか。

    stoNaviの開発・推進を担うイオンスマートテクノロジー(AST) データソリューションディビジョン ディレクターの瀋(シン)、stoNavi推進チームのマネージャー 中田、魏(ビビアン)のインタビューから、開発の舞台裏に迫る。

    【目次】

    stoNaviの「いつでも、どこでも、誰でも」がもたらすメリット

    イオングループのDX戦略を現場レベルで推進するモバイルアプリstoNavi。グループ全体のデータ利活用を推進する基盤「ASP(イオンスマートプラットフォーム)」上で稼働する、店舗オペレーションの効率化を目指したツールだ。

    メイン機能は、売上や在庫、荒利といった店舗運営に不可欠な数値をリアルタイムで確認できるダッシュボードだ。従来、これらの情報は複数のシステムに散在し、確認にはバックヤードでパソコンを開き、時には紙の帳票をめくる必要があった。stoNaviはこれらの情報を一元化し、スマートフォンやハンディターミナルといったモバイル端末で、いつでもどこでも確認できる環境を実現した。

    ダイアグラム

自動的に生成された説明

    「stoNaviの最大の価値は、『場所を選ばず、どこでも視覚的に確認できる』こと、そして『誰でも簡単に使える』こと」と語るのは、stoNaviのプロダクトオーナーを務める中田だ。「stoNaviは、イオングループのさまざまなシステムのデータをまとめて表示し、現場の意思決定を即座に売場に反映できるツール」と説明する。

    コンピューターのスクリーンショット

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    リアルタイム性の高さも強みの1つだ。以前は、その日の実績を把握するのに1時間毎に連携されるデータが加工されて、最大2時間程度かかっていたが、stoNaviでは15分ごとに最新情報が更新される。「これにより、たとえば店長が夕方にその日の予算達成状況をリアルタイムで把握し、即座に売場改善や品揃えの変更といった手を打つことができます。数字がただの過去の実績ではなく、未来の行動を変えるための情報になるのです」と、魏はそのメリットを語る。

    瀋は、stoNaviが解決した根本的な課題をこう説明する。

    モバイル端末を導入することで、バックヤードに戻って確認する作業を大幅に減らすことができました。店員は店頭で接客しながら、必要な情報をその場ですぐに確認できるという大きなメリットがあります。(瀋)

    2024年度現在、stoNaviはイオングループ内の7社1,400店舗で利用され、月間アクティブユーザーは約9,000名から11,000名にのぼる。2025年度にはさらに利用企業を拡大し、最終的にはイオングループのほぼすべての事業会社での活用を目指しているという。この広がりこそが、stoNaviが現場にとって価値あるツールであることの証左と言えるだろう。

    何を重視するかがバラバラ、対立する指標——グループの「多様性」が障壁に

    stoNaviの原型となるプロダクトは、中国の開発拠点Aeon Digital Management Center(DMC)で開発・運用され、大きな成果を上げているアプリだ。しかし、それをそのまま日本に持ち込むだけでは、現場で真に“使える”ツールにはならなかった。中田氏は、日本版開発における最大の障壁は、イオングループの持つ「多様性」だったと振り返る。

    グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

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    まず、中国と日本では事業環境が大きく異なります。たとえば、中国では商品マスターがある程度統一されており、バックエンドシステムが比較的シンプルでしたが、日本ではイオンリテール、ダイエー、マックスバリュ九州など、事業会社ごとに商品マスターの体系がバラバラ。POSから連携されるデータの形式や内容も、会社によってまちまちでした。

    ネットスーパーの売上が店舗のPOSとは別のシステムで計上されていたり、あるいは催事場で使われる特設レジのデータが通常のPOSデータとは連携していなかったりするのです。こうした個別の事情に対応し、共通のプラットフォームでどう表示させるかという技術的な課題がありました。(中田)

    しかし、それ以上に開発チームを悩ませたのが、各事業会社が持つ独自の業務プロセスや企業文化、そしてそこから生まれる多種多様なニーズだった。

    開発に着手するにあたっては、まずは各事業会社の従業員が、日々どのような業務を行い、何に困っているのかを徹底的にヒアリングし、ユースケースを洗い出した。中田は「イオンのような大きなグループでは、それぞれの文化も業務の進め方も驚くほど異なります。『現場のことを全然わかっていない』『もっと現場に寄り添ってほしい』といった厳しいご意見をいただくことも日常茶飯事でした」と振り返る。

    たとえば、店舗運営で重視する数値指標1つとっても、各社各様だ。在庫が一定期間にどれだけ回転するかを見る指標を大切にしている企業もあれば、当日の廃棄高を必ず表示させてほしいという企業もある。

    中国のstoNaviでは『廃棄ロス』を重要なKPIとしていましたが、日本の事業会社からは廃棄よりも売価変更の数字を見たいという声が多く上がりました。

    また、在庫管理の指標として、在庫が何日で販売されるかを示す『商品回転日数』だけでは不十分で、その在庫がどれだけ利益に貢献しているかを示す『交差主義比率』も併せて見たいという要望もあれば、商品回転日数だけでいいという会社もある。ただ、すべてを盛り込んでしまうと、画面が複雑になり、操作性も低下してしまいます。(中田)

    組織構造の違いも、表示の共通化を難しくした。イオンリテールであればカンパニー制を敷いており、北関東、南関東といった地域ごとの区分けとなる。一方でイオン九州などでは、GMS(総合スーパー)やSM(スーパーマーケット)、ホームセンターといった業態で組織が分かれている。

    中田は「これをstoNavi上で同じように『カンパニー』と表示しようとすると、『うちはカンパニー制ではない』という当然の指摘が入ってしまいます」と説明する。

    多様な事業会社のニーズから“最大公約数”を見つけ出す

    こうした無数の、時には相反する要望を前に、開発チームは“最大公約数”を見つけ出すための議論を重ねた。その際の判断基準となったのは、常に「店舗の従業員にとって本当に使いやすいか、役立つか」という一点だったという。

    自身もイオンの店舗で働いた経験を持つ中田にとって、この現場目線は譲れない信念だった。その経験が、多様なニーズを整理し、プロダクトの方向性を定めるうえで大きな羅針盤となったことは想像に難くない。

    一番大切なことは、使用するユーザーにとって重要かどうか。これが優先順位を整理するうえで最上位に置くべき内容だと考えています。

    たとえば組織名の表示については、最終的に多くの事業会社が採用している言葉を選んだり、より抽象的で包括的な表現に置き換えたりといった調整を行いました。もちろん、すべての事業会社に100%満足していただけるわけではありませんが、丁寧なコミュニケーションを通じてご理解をいただく努力を続けました。(中田)

    中国の開発拠点DMCとの地理的な隔たりや言語の壁も存在した。特に、日本の複雑なシステム構成や、なぜそのような機能要望が出てくるのかという背景をDMCの開発チームに正確に伝えることは、容易ではなかった。

    グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

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    日本のシステムは複数のシステムが複雑に連携しており、事業会社ごとの要件も多岐にわたります。この複雑さを言葉だけで伝えるのは非常に難しく、画面遷移図や具体的なイメージ図を多用して、視覚的に理解してもらうよう努めました。たとえば、日本の複雑な組織階層を中国の既存機能でどう表現するかといった仕様を説明する際には、開発チームに具体的な画面の流れを図示することで、ようやく理解を得られました。(魏)


    現場起点のUI設計が生んだ「使われるプロダクト」

    複雑な要件を整理し、機能の優先順位を定めたとしても、それが現場で実際に“使われる”プロダクトになるか否かは、最終的にUI/UXの設計にかかっている。stoNavi開発チームが徹底的にこだわったのは、まさにその「使いやすさ」だった。

    中田は「グループとしても従業員の高年齢化が進んでいることもあり、感覚的な操作性を重視しています。特に店舗業務は多忙を極めるため、操作に手間取ったり、マニュアルをいちいち確認したりするようなツールでは定着しません」と説明する。

    その思想を具現化するため、具体的なUI設計においては細心の注意が払われた。

    まず、タップ数を極力少なくすることを心がけました。目的の情報にたどり着くまでのステップが多いと、それだけで使うのが億劫になってしまいます。また、アイコンやボタンの配置、情報のグルーピングなど、直感的に操作できるデザインを追求しました。この点については、開発を担当してくれている中国のDMCのデザインチームが非常に高いスキルを持っており、彼らの貢献は非常に大きいです。(中田)

    グラフィカル ユーザー インターフェイス

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    こうした現場起点の設計思想と、それを支える技術力の結晶であるstoNaviは、実際に多くの従業員から支持を得ている。特に複数の店舗を管理するエリアマネージャーなどからは、「移動中にスマートフォンで各店舗の状況をリアルタイムに確認できるのは非常に助かる」「これまで複数のシステムを立ち上げて確認していた情報が、stoNavi1つで見られるようになり、業務効率が格段に上がった」といった声が上がっているという。

    複雑な組織の多様なニーズに応えつつ、シンプルで使いやすいプロダクトを作り上げる。その困難な道のりを経て、StoNaviはイオンの現場に不可欠なツールとして、着実にその存在感を高めている。

    AIが切り拓く、stoNaviの次のステージ

    現在、stoNaviはBIツールとしての役割が大きいが、開発チームが見据えるのは、AIを活用した、より能動的でインテリジェントな店舗運営支援だ。背景には、2035年には日本の労働力人口が大幅に減少するという予測に対する強い危機感がある。

    労働力不足の時代に対応するためには、AIの活用は避けて通れません。現在のstoNaviは、数値を確認して人が行動を変えるというツールですが、将来的にはAIが自動的に異常値を検知してアラートを出したり、過去のデータに基づいて最適なアクションを提案したり、さらには個々の従業員にパーソナライズされた作業指示を出すといった姿を目指しています。(中田)

    PoCを開始するなど、具体的な取り組みもすでに始まっている。瀋は「たとえばstoNavi内にAIアシスタントを実装し、マニュアルをいちいち開かなくても、知りたい情報を質問すればAIが即座に回答してくれるといった機能は、比較的早期に実現できると考えています」と展望を語る。

    しかし、AI導入にあたっては、現場と乖離したプロダクトアウトの発想に陥らないよう、常に現場のニーズを的確に捉える必要があると中田は警鐘を鳴らす。

    我々が『こういうAI機能が必要だろう』とイメージして開発を進めても、それが現場の実際の業務フローや課題感とズレていれば、結局使われないものになってしまいます。『こういう業務を改善したいから、このAI機能を作る』という、常に現場のニーズに基づいた開発を心がけなければなりません。そのための具体的なユースケースの収集と検証が、今後の大きなテーマです。(中田)

    2025年6月には、現在パソコンで行われている店舗業務を最小限にする取り組みを進めている。イオングループの店舗で働く従業員60万人の働き方を変える壮大なプロジェクトは、技術の進歩と現場のニーズのあいだで絶妙なバランスを取りながら、次のステージへと歩みを進めている。

    共通解の見えない複雑な要件定義、国境を越えた開発体制、そしてAIという未知の領域への挑戦——。stoNaviの開発ストーリーは、大企業におけるDX推進の縮図とも言える。現場の声に真摯に耳を傾け、多様性を力に変えながら進化を続けるstoNaviが、イオンの未来をどのようにナビゲートしていくのか。その挑戦から目が離せない。


    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

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