「イオンのDXは日本にイノベーションを起こせるか?」イオングループCTO2名が語るリテールDX

「イオンのDXは日本にイノベーションを起こせるか?」イオングループCTO2名が語るリテールDX

2024/5/30

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この記事に登場している人

山﨑 賢

Ken Yamazaki

イオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO
新卒で大手SIerに入社。その後、Yahoo! JAPANへ転職し数々の新規サービスの立ち上げに携わる。リクルートに入社。大規模サービスの開発責任者を兼任。ゼネラルマネージャーとして組織マネジメントを実施。
その後、複数のベンチャー企業CTOを経て2023年より現職。イオングループ全体を統括するイオン株式会社のCTOとして従事。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)理事。

    樽⽯ 将⼈

    Masato Taruishi

    イオンネクスト株式会社 技術責任者CTO
    レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンを経てグーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。 その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。同社の上場の牽引後、22年1月に退職。22年3月より現職。

    この記事を読むとわかること

    ・小売業界のDXを進める肝は「自ら現場に出向き、課題を直接知ること」
    ・イオンは「お客さま起点に考える」をコアに社会課題を解決するスタートアップマインドが根付いている
    ・イオンの規模感、ユーザー数だからこそ、イオンの変化の先に日本の未来がある

    2024年3月12~15日、東京ビッグサイトにて日本経済新聞社主催のイベント「リテールテックJAPAN 2024(第40回流通情報システム総合展)」が開催された。そのなかで行われた「イオングループのDX革新 - 元スタートアップCTOが牽引するイオンDXの未来」と題するパネルディスカッションには、イオンCTOの山﨑賢とイオンネクストCTOの樽石将人が登壇。スタートアップでのCTO経験のある2人が、就任以来イオンで行ってきたDXや今後の展望について語った。(聞き手・まとめ:プレーンテキスト 鹿野恵子)

    ▼イベント詳細ページはこちら
    https://messe.nikkei.co.jp/rt/seminar/#seminar_143760

    【目次】

    DXでもっとも重視すべきは「現場」

    ——本日のパネルディスカッションには自社でDXを推進したい方が多くお見えになっていると聞きました。参加者の皆さんに向けて、お二人はこれまで、スタートアップ企業やイオンでどのようにDXを推進してきたのかを教えてください。

    山﨑「DX」という言葉自体は手段を目的化しているようで、僕はあまり好きではありません。DXそのものが目的なのではなく「何らかの課題を今風に解決しようとするとデジタルを使わなければならない」ということにすぎないと思っています。

    イオンに入って最初にやろうと決めていたことは、僕がCTOとして社内的に認知される前に、できるだけ店舗に足を運ぶことでした。実際、所属・役職などを隠してネットスーパーのピッキング作業を2日間やるなどして、現場に宿るいろいろな課題をどう解決するかを探ってきました。もちろんトップダウンでないとできないことはありますが、「俺はDXをやるCTOだ」といった高尚な立ち位置でやっていても、本当の意味での現場のDXは加速しません。特にテクニカルな人材こそ、スペシャリスト風に構えるのではなく、きちんと現場に出向くことがリテール業界でのDXを推進する肝になると考えています。

    樽石同じく現場に立つのは一番大事だと思っていて、私もお客さまに商品を届けるトラックの助手席に乗せてもらったり、ピッキング体験をしたりしています。

    私がこれまで関わってきたいわゆる「IT業界」はデジタルで完結した「デジタルオンリー」の世界観です。それが最近イオンで色々な取り組みをしていく中で、 DXよりもむしろ「AX」、つまり「アナログトランスフォーメーション」をしていかないと、現実世界のデジタル化は成り立たないと考えるようになりました。そういう意味でも現場に出て、リアルがどうなっているのかを学びながら進めています。

    スタートアップ経験者から見た、大企業イオンの強みと弱み

    ——イオングループは営業収益9兆円、事業所数1万8,000ヵ所、従業員40万人以上、創業は1700年代と、紛れもない歴史的企業です。スタートアップでのご経験があるお二人から見て、そのイオンの「強み」と「弱み」はどこにあると思われますか。

    山﨑イオンは先人が築いたものが大きく、ブランド力や大量の労働力といった資源に非常に恵まれている点は大きな強みだと思います。

    一方の弱みについて。これはイオンに限らずですが、日本における小売業は数年前までは多分に労働集約性の高い産業でしたが、最近になってやっとDXが声高に叫ばれるようになってきました。欧米はその数年先を行っていて、それをお手本にDXだ、リテールメディアだというふうに後追いになってしまっているところが、イオン、ひいては日本のリテールの弱みだと考えています。日本が先進事例を作って、海外の人が学びに来るというように状況を逆転させたいですね。ここにいらっしゃるリテール業界の皆さんも、一緒に欧米列強を見返しませんかという気持ちです。

    樽石私は最近、「イオンも実はスタートアップだな」と感じています。スタートアップは何らかの社会課題を解決するために立ち上がりますが、その時にコアにしているのが、「ユーザーファースト」や「ユーザーハッピー」という「お客さまを起点に考えよう」というスタンスです。イオンのサイトを見ると、「お客さまを原点に平和を追求して社会を良くします」という趣旨の企業理念が書いてあります。言っていることは基本的にイオンもスタートアップも全く同じです。ですからイオンの強みはやはり、元々スタートアップであるということで、スタートアップマインドが今も根付いていることだと思います。

    一方で、イオンはこれまでにたくさんのものを築いてきて、それらを維持したまま次の新しいことに取り組んでいかなくてはなりません。本当のスタートアップはしがらみがないのでいろいろなことをやりやすいし、外に情報発信する場合も言いたいことを言えます。その中で新しいマインドセットも作りやすいのですが、上場している会社は公平性の観点から話しづらいこともある。イオンはそういった点がスタートアップと比べて少し苦労するところかなと思っています。

    スタートアップ時代の「資源がない」を乗り越えた経験

     

    ——スタートアップ経験者であるお二人がイオンに関わることで、どんな変化が期待できるのでしょうか。イオンがこのように変わってきた、あるいはこれから変えていきたいということがありましたら教えてください。

    山﨑スタートアップはお金も人的資源もないので、事業的な価値を出すためにはなるべく小さいカロリーでやっていかなくてはいけません。僕が直接現場に行くのも、意思決定できる僕が現場の課題を知るのが一番早いからです。現場から上がってきたものがミルフィーユ構造になって、要件定義が3段階くらい繰り返されてエンジニアに渡ってきたものというのは、実態とだいぶずれてしまっているんですよね。 そういう仕事の進め方を変えていけるところはスタートアップ経験者ならではだと思いますし、それこそが僕がいる価値と考えて、チャレンジしているところです。

    樽石スタートアップは本当に「ないない尽くし」です。私が以前にCTOを務めていたスタートアップでは、増資が間に合わずに銀行の残高が残り10万円になってしまって、役員借入金でサーバー費用を払ったということもありました(苦笑)。

    人も数人しかいないので、自分の仕事はこれだけと決めてしまうと何も進みません。いろいろなものがないなかでどうやって実現するかというマインドは、イオンでもとても大事だと思います。どれだけ人がいてもやっぱり「人が足りない」となるので、「人はいないもの」という前提に立ち、その中でどう実現するのかを考えていく。そういうマインドセットを作るという意味では、スタートアップでの経験はすごく生きると思っています。

     

    イオンは日本最大級のリテールメディア企業になるか?

    ——4つ目は流行のトピックス、リテールメディアについてお伺いします。欧米を中心に店舗やデジタルのお客さま接点をメディア化する「リテールメディア」への期待が高まっています。日本国内にもこの流れは波及するものと考えられますが、リテールメディアに対してはどのような取り組みを考えていらっしゃいますか。

    山﨑リテールメディアはすごくホットな話題ですよね。ウォルマートは店内のリテールメディアが脚光を浴びがちですが、どちらかというと社外や社内のオウンドメディアの集客の方が大きく、3年後にはリテールメディアが小売の利益を抜くのではないかと言われているくらい利益率が高いビジネスです。

    では日本でそれと同じことができるリテールはどこかと考えると、イオンのポテンシャルは非常に高いと思います。それをイオンだけで取り組んでいくのか、あるいはいろいろなところとつながってデータを連携しながら新たなデータプラットフォームを作っていくのか、今後は日本独自の戦略を組み立てていく必要があると思います。

    イオンが日本最大のリテールメディア企業になれるための準備として、常にデータを新鮮かつ誰でも触れる状態にしておくことと、いざ他社と組もうとなったときに簡単に組めるよう、データをクリーンにしておく仕組みなどを早急に整えているところです。

    樽石リテールメディアとわざわざ言っていますが、そもそも小売店舗はメディアそのものではないかと思います。例えばショッピングモールはそこに多くの人が来店し、その方々をテナントに送客するモデルなので、リテールメディアですよね。 

    オンラインメディアは、サーバーを立ち上げればいいだけなので、ほとんど費用がかかりませんし、極めて事業を作りやすいわけです。店舗運営よりもはるかに少ない費用で非常に多くのお客さまに来ていただけるので、そこから広がっていろいろな取り組みができると思います。すでにGreen Beansでも、グリーンビーンズコネクトというメーカーさんとお客さまをつなげるような取り組みを行っています。イオンというメディアをベースにしつつも、特にGreen Beansはオンラインに特化しながら、今後しっかりビジネスモデルを作っていこうと思っています。

    イオンのDXで想像を超えるイノベーションを起こす

    ——最後に、イオンがDXすることでどのような未来があるのか、どのようにゆとりが生み出されて生活が変わると考えているのかをお聞かせください。

    山﨑イオングループは日本全体に浸透している血管のようなものなので、イオングループが何かイノベーションを起こすと、日本に住んでいる人の消費活動や国民のライフスタイルに変革を与えられるのではないかと思います。例えば食材を注文したら2時間で届くようなことが可能になると、食材を保存する必要がなくなって冷蔵庫がいらなくなるかもしれません。

    普通に生活しているとそのようなイノベーションは想像しにくいですが、イオンが世界観を築いた時にはそういった未来も来るだろうと思っています。「ちょっと何かが便利になる」ではなくて、「何かが不要になる」、「生活自体が一変する」というような、現在の延長線とは違う未来にするポテンシャルがイオンにはあると思いますし、そこまでチャレンジするのがイオンの目指すDXだと考えています。

    樽石イオンが変わることで日本全体も変わっていくとは思いますが、それはイオンだけではできないことですよね。製造業の方や消費者といったステークホルダーがたくさんいる中で日本の未来を作っていこうとしたとき、イオンだけが行動しても何かが起こるとは思えません。いろんな事業者の方と協力して、未来をこうしたいんだというマインドをしっかり作ることが大事。それをまずイオンがやりますよと先陣を切って背中を見せていきたいし、その先に日本の未来があると考えています。

    ——イオンをDXしていくことで日本全体もDXしていくというような視座の高いお話を伺えて、非常に勉強になりました。ありがとうございました。


    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

    この記事を書いた人

    鹿野恵子

    小売・ITジャーナリスト、編集者
    1978年、宮城県仙台市出身。2001年、早稲田大学法学部卒業後、株式会社アスキー、株式会社商業界(月刊食品商業、月刊商業界)、ITベンチャーを経て2015年に制作会社のプレーンテキスト(http://plain-text.jp)を設立。流通小売業とテクノロジー、スタートアップについての取材・執筆を続ける。現在メルマガ「リテールアトラス(https://retailatlasjp.substack.com/)」運営中。著書に「店舗を読み解く技術シリーズ」、編著書に「リアル店舗は消えるのか?」(発行:日経BP)がある。

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