
この記事に登場している人
OMOディビジョン
後藤 聡
Satoshi Goto
イオンスマートテクノロジー株式会社 OMOディビジョン ディレクター
ダイエー入社後、店舗運営・商品企画・営業企画・マーケティング・ECまで幅広く経験。
トップバリュ出向やICT領域での事業責任者を経て、2024年より現職。
現在はイオンスマートテクノロジーでOMO・EC領域の戦略立案・実行を担う。
川村 泰平
Yasuhira Kawamura
イオン九州株式会社 上席執行役員
DX責任者 兼 コーポレートトランスフォーメーション推進本部長
ダイエーに入社後、首都圏と名古屋で店長を、関西圏で事業部長を歴任後、2015年にイオン九州に転籍入社し、事業部長、営業企画デジタル本部長、営業本部長などを経て、2024年2月より現職。
後藤 聡
Satoshi Goto
イオンスマートテクノロジー株式会社 OMOディビジョン ディレクター
ダイエー入社後、店舗運営・商品企画・営業企画・マーケティング・ECまで幅広く経験。
トップバリュ出向やICT領域での事業責任者を経て、2024年より現職。
現在はイオンスマートテクノロジーでOMO・EC領域の戦略立案・実行を担う。
川村 泰平
Yasuhira Kawamura
イオン九州株式会社 上席執行役員
DX責任者 兼 コーポレートトランスフォーメーション推進本部長
ダイエーに入社後、首都圏と名古屋で店長を、関西圏で事業部長を歴任後、2015年にイオン九州に転籍入社し、事業部長、営業企画デジタル本部長、営業本部長などを経て、2024年2月より現職。
この記事を読むとわかること
・「1件配送するごとに赤字」という構造的課題を抱えたネットスーパー事業の、再生の出発点
・店舗出身のDX責任者・川村と、かつての部下でASTの後藤が再タッグを組むまでの経緯
・システム刷新ではなく“現場マインド改革”こそが鍵と気づくまでの葛藤と衝突
・赤字構造が現場の士気を奪い、店舗全体のエネルギーを蝕んでいた実情
・「現場起点のDX」を掲げ、赤字体質と意識の壁を同時に変えようとする改革の序章
九州全域に店舗網を持つイオン九州。そのネットスーパー事業は、地域住民の生活を支える重要なインフラでありながら、長年「赤字体質」という深刻な課題を抱えていた。1件配送するごとに損失が膨らむ構造、疲弊する現場……。
この負のスパイラルを断ち切るべく立ち上がったのが、イオン九州のDX責任者である川村だ。そして、イオンスマートテクノロジー(AST)でOMO領域を率いる後藤が、その改革の鍵を握るパートナーとなった。奇しくもかつて同じ店舗で汗を流した元上司と元部下である2人は、いかにしてこの難題に立ち向かったのか。
前編では、改革の序章となった2人の再会と、現場に根付く最大の壁との闘いの軌跡を追う。
【目次】
1件運ぶごとに赤字——事業継続の危機と、現場に渦巻く疲弊感
——まずはお2人のご関係と、今回の改革が始まるまでの経緯についてお聞かせください。
川村私は現在、イオン九州でDX責任者(DTO)を務めていますが、これまでのキャリアの大半は店舗の現場にあります。ダイエーにて複数店舗の店長を経て、事業部長としてエリアを統括し、さらに営業本部長も務めてきました。名古屋で店長をしていた際に、部下として一緒に働いていたのが後藤さんです。

※ご提供いただいた写真をもとにAIで再構成したイメージです。実際の撮影画像ではありません。
後藤私もダイエーで店舗運営から商品企画、マーケティング、ECまで幅広く経験し、その後ASTに移りました。川村さんがイオン九州のDX責任者に、私がASTの担当者になったのは、まさに偶然の巡り合わせです。かつての上司と、このような形で再びタッグを組むことになるとは、当時は想像もしていませんでした。
——まさに運命的な再会ですね。川村さんがDX責任者として向き合われているネットスーパーの課題とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
川村私がDX責任者として着任した2年前には、イオン九州のネットスーパーは九州全域(沖縄を除く)にお届けできる体制が整っていました。離島も含めてご注文いただけるサービス網は誇るべきもので、1日に1500件、年間では50万件ほどをお届けする規模にまで成長していました。
しかし、その裏側で深刻な問題を抱えていました。ひとことで言えば、「赤字体質」です。当初から、1件お届けするのに何百円もの赤字が出るという、持続不可能なビジネスモデルになっていた。50万件という規模でそれを続けていたわけですから、事業の永続性がまったく担保できていない状態でした。
そして、この数字上の問題以上に深刻だったのが、現場への影響です。店舗からすれば、収益が上がらないうえにオペレーションが非常に大変なネットスーパーは、正直なところやらなければならない義務であり、できれば本社の専門部署に任せておきたい存在になってしまっていた。これではお店のパワーが発揮されません。
我々の商売は、お店が「よっしゃ、お客さまが喜ぶぞ!」とポジティブな気持ちでモチベーションにあふれて頑張ることで、初めてキャッシュを生むんです。赤字という現実が、現場のポジティブなマインドまで蝕んでいる。これが最大の課題だと感じました。
——後藤さんはダイエー時代にネットスーパーを統括されていたご経験から、この課題をどう見ていましたか?
後藤まさに川村さんがおっしゃるとおりで、私もダイエーで目も当てられないほどの赤字に苦しんでいました。店舗をまわっても店長や担当者のモチベーションは低く、本来もっと注文を受けられるはずなのに、「どうせ運んでも赤字だから」と、レジや品出しに人を優先せざるを得ない。結果、私はダイエーでネットスーパーの店舗を閉鎖していくという苦渋の決断をしました。
ただ、ネットスーパーを単純にやめてしまうと、リアルの店舗を使ってくださる優良なお客さままで他社に流れてしまうリスクがある。事業としては絶対に必要なんです。
そんな葛藤のなか、ASTからは新しいシステムへの切り替え提案を受けていましたが、当時の私にはそれが「古いシステムを新しいものに変えましょう」というだけの、手段の目的化に見えていました。システムが変わっても現場のマインドが変わらなければ何も変わらない。そう思い、私はダイエー時代、ASTのシステム導入をずっと拒否し続けていたんです。
——その結果、イオン九州とASTのあいだで、プロジェクトは停滞してしまったのですね。
後藤はい。私がASTに移った当初、イオン九州とASTの実務者レベルでは、まさに侃侃諤諤の日々でした。イオン九州側は「今まで使っていた外部システムの、あの機能を再現してほしい」と主張し、AST側は「その機能はなくてもいい」と返す。そんな「あの機能がない、この機能がない」という不毛な議論が2年も続いていて、プロジェクトは完全に前に進めない、泥沼のような状況でした。

再会と共闘——「これでやれる」と確信した夜
——その膠着状態を、どう打ち破っていったのでしょうか。
後藤このままでは駄目だと思い、決定権を持つ川村さんに直接ご連絡したのが大きなきっかけです。ちょうど川村さんがイオン九州のDTOに着任されたタイミングでした。かつての上司・部下という関係でしたし、お互いの仕事の進め方や価値観を深く理解していましたから、実務者レベルではできない、本質的な話ができると信じていました。
川村後藤さんから連絡が来たとき、「これでやれる」と確信しましたね。名古屋の店長時代に一緒に仕事をして、彼が5%や10%の改善ではなく、物事を2倍、3倍に変えるという仕事を共に進めていける人間だと知っていましたから。
そのためには何が最も重要かをはっきりさせ、徹底的にやる。そして最終的には現場の皆が「頑張る」という状態を作らなければならないことを、お互いわかっている。だから、彼とならできる、と。
彼と会って、なぜプロジェクトが停滞しているのかを紐解いていくと、課題は大きく3つに分類できるとわかりました。1つはシステムそのものが抱える技術的な問題。2つ目は、現場の人間のマインドに起因する問題。そして3つ目が、我々リーダーのマネジメントの問題です。この3つが複雑に絡み合っていた。
そして、その根底にある最大の壁が、「今あるものが正しい」「今までこうやってきたんだから変えたくない」という、現場の根強い固定観念でした。
——その固定観念という、最も厄介な壁に対して、どうアプローチされたのですか。
川村まず、私が「すべての最終判断は自分が下す」と、社内外に宣言しました。現場から出てくる要望や反対意見を1つひとつ整理し、やるべきことと、諦めるべきことを明確にジャッジしていく。
たとえば、イオン九州側は「お客さまが混乱しないよう、今まで使ってきた外部プラットフォームの機能をすべて再現してほしい」と主張します。気持ちはわかりますが、それでは何も変わらない。私は「それは諦めろ」と、ばっさりと決めていく。
もちろん、ただ切り捨てるのではなく、なぜ変える必要があるのか、エビデンスを用意しながら丁寧に説明します。リーダーが覚悟を示し、意思決定の速度を上げることで、議論の迷走を断ち切ったんです。
後藤私はまず、徹底的に事業会社であるイオン九州の立場に立つことから始めました。「あなたたちの進め方が間違っていた」と、両者が集まる場でASTのメンバーに対して明言しました。2年間ご迷惑をおかけしたことを真摯にお詫びし、イオン九州が何に困っているのかを深く理解する。
そのうえで、「ただし、今までとまったく同じものを作っても何の成長もありません。オペレーションを1ミリも変えたくない、というのでは未来はない。そこをしっかり議論していきましょう」と提案しました。一方的にシステムを売り込むのではなく、共に課題を解決するパートナーとしての信頼関係を築くことが、何よりの推進力になったのだと思います。

「黒字でなければ、現場は明るくなれない」——プロジェクト再始動までのプロセス
——そして、お2人の直接対話から、改革の新たな方針が生まれたのですね。
後藤はい。2人で飲んだ席で、「これから何を軸に議論を進めていけばよいでしょうか。やはり黒字化ですよね」と切り出しました。私はダイエー時代、ずっと赤字を何とかしたいと思っていましたし、イオン九州も同じ課題を抱えていることはわかっていましたから。
すると、川村さんも「売上拡大も大事だが、まずは事業を黒字化しなければ意味がない」と、まったく同じ考えを持っていることがわかったんです。
川村駅の広場で待ち合わせた記憶がありますが、まるでドラマのワンシーンのように「やるんでしょ?」と。細かい打ち合わせはなくても、やるべきことはわかっている。そんな感じでしたね。
なぜなら、黒字でなければ、現場は絶対に明るくできないからです。これはもう理屈じゃない。赤字事業というのは、それだけで「みんなのお荷物」という意識を現場に植え付けてしまうんです。
実際に店舗を回って説明すると、リーダーの方から「本当に黒字になるんですか? なるなら私、何でもやります」と言われるんです。それほどまでに、彼らは負い目を感じながら働いていた。赤字でやっている以上、健康的に頑張ることはできない。そして、その雰囲気は必ずお客さまに伝わります。
だからこそ、経営的にも、そして現場の働く仲間のためにも、「黒字化」は絶対に必要な挑戦なんです。そのことを、私たちリーダーが覚悟を持って示し、共に汗をかく。それが、この改革の最も重要な核だと信じています。
——「黒字化」という共通目標が、プロジェクトを再始動させたのですね。
川村その軸が定まったことで、それまでの「機能がある・ない」という手段の議論から、「事業を継続させ、みんなが幸せになる」という目的のための議論に、ようやく転換することができました。
そこから私は、社内に対して改革の意義を4つのポイント――「配送コストの改革」「作業効率の改革」「データ活用の推進」、そして「内製プラットフォームへの転換」――で説いて回りました。
サードパーティー製のシステムは一流かもしれませんが、我々の都合は聞いてくれない。しかし身内であるASTとなら、共に悩み、共に作り上げていくことができる。この4つの歯車を回せば、必ず黒字化は達成できる。そう確信し、まずは実験店舗としてショッパーズ福岡での導入へと駒を進めることにしたのです。
現場の疲弊、組織の固定観念、そして1件配送するごとに積み上がる赤字——。その“負の連鎖”を断ち切るため、川村と後藤の覚悟が動き出した。次回、ショッパーズ福岡で明らかになるのは、「黒字化」を現実に変えた4つの打ち手。
後編はこちら:「ファーストペンギン」の覚悟。ショッパーズ福岡での改革が示す、DXの未来
イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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