内製×副業のハイブリッド組織を支えるIDPの実践例 “ドキュメント管理と自動化”

内製×副業のハイブリッド組織を支えるIDPの実践例 “ドキュメント管理と自動化”

2025/2/14

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この記事に登場している人

荒井 隆成

Ryusei Arai

イオンネクスト株式会社 IT部 DevOpsグループ 技術戦略チーム マネージャー
新卒で大手SIerへ入社し、インフラエンジニアとしてキャリアをスタート。FinTechスタートアップでSRE、クラウドプロバイダーでコンサルティングを経験した後、フリーランスへ。2023年11月より現職。

    この記事を読むとわかること

    ・Notionを活用したデータベース型ドキュメント管理で情報整理を効率化
    ・CTO主導のトップダウンアプローチで組織的なドキュメント文化を構築
    ・用語データベースを整備し、新規参画者のオンボーディングを迅速化
    ・IDPを活用したハイブリッド組織の知識共有強化術とは

    ネット専用スーパー「Green Beans」を運営するイオンネクストで起きた変革は、従来のドキュメント管理の概念を覆すものだった。CTOが自ら構築した仕組みをもとに、組織全体で取り組んだNotionによるドキュメント管理。それは単なる文書の保管庫ではなく、組織のダッシュボードとしても機能し、近年注目を集めるプラットフォームエンジニアリングの実践例となっている。今回は、この取り組みの詳細についてSREマネージャーの荒井に話を聞いた。

    【目次】

    「誰も全体像を把握していない」 - ローンチ後に直面した課題

    イオンネクストは、2023年にGreen Beansをローンチした。ローンチ後に入社した荒井によると、切迫した状況のなかでなんとかローンチにこぎつけたことが要因となり、システムの全体像や背景情報の整理が十分にできていない点が後の大きな課題になったという。

    「ドキュメントが残されていない、または整理されていないことで、新たに加わったメンバーは断片的な情報しか得られず、システム全体を理解している人は限られていました」と荒井は説明する。


    その経験から、ドキュメントを体系的に整備し、資産として活用していく必要性を痛感。2023年後半からイオンネクストは、本格的にドキュメント管理の取り組みを開始した。

    12のコンポーネントで紐解く、システム全体像

    現在、イオンネクストのドキュメント管理は大きく分けて2つの領域で構成されている。1つは利用者向けの領域で、システムの概要説明やFAQ、リリース情報などが集約されている。もう1つはIT部門内で使用する領域で、これはさらにプロダクトマネジメント用とエンジニア用に分かれている。

    イオンネクストのシステムプラットフォームは、12の主要コンポーネントで構成される。コンポーネントは、管理、会計、データ、マーケティングなど、機能的な意味を持つ単位で分類されており、各コンポーネントの下には、さまざまな粒度のシステムが配置されている。単純なWordPressサイトのような小規模なものから、大規模な業務システムまで、システムの規模はさまざまだが、それらがすべてNotion上に一覧化されている。

    特徴的なのは、これらの情報がNotionのデータベース機能を活用して、相互に関連付けられている点だ。たとえば、あるシステムの情報を見ると、そのシステムに関連する変更履歴、障害履歴、ミーティング記録などが自動的に紐付けられて表示される。

    基本的にドキュメントはデータベースとして設計し、必要な関連付けを行っています。(荒井)


    情報を整理し、誰でも簡単にアクセスできる仕組みを構築することは、課題解決の第一歩となる。イオンネクストが採用したNotionによるデータベース型ドキュメント管理は、効率化はもちろん、情報の一貫性を保つことにも貢献している。

    「報告資料作りから解放される」 - 自動化がもたらした変革

    ドキュメントを単なる情報の保管庫ではなく、組織全体のダッシュボードとして活用する――この発想がイオンネクストにおける新たな価値を生み出したといえる。下記では、自動化の仕組みによって支えられているこの特徴について、具体的に見ていきたい。

    1. レポート作成の自動化

    まず、自動化によって週次報告の作成プロセスが大幅に効率化された。

    毎週会議の数日前になると自動でテンプレートが生成され、各データベースから必要な情報が自動的に集約されます。以前は報告用の資料作成に多くの時間を費やしていましたが、現在は簡単なサマリーを追記するだけで済むようになりました。(荒井)

    たとえば、週次レポートには各プロジェクトの進捗状況、発生したインシデント、重要な変更履歴などが自動的に反映される。日付フィルターも自動化されており、該当期間の情報が自動的に抽出される。

    2. 通知の自動連携

    情報の更新や重要な変更については、Slackとの連携により自動通知される仕組みも整備されている。

    お知らせ系のデータベースにはオートメーションを組んでおり、ステータスが『公開』に変更されると、IT部門の全員が参加するSlackチャンネルに自動で通知が配信されます。(荒井)

    これにより、重要な情報が確実にチーム全体に共有されるとともに、情報の更新漏れや伝達ミスのリスクも軽減されている。

    3. Jiraとの連携によるタスク管理

    イオンネクストではタスク管理にJiraを採用しており、インテグレーション機能を活用してNotionとの連携を進めている。

    Jiraは各プロジェクトの実装タスクなどの細かいHowの部分を管理するツールとして活用しています。一方、NotionではWhyとWhatの部分を管理しており、この両者を連携させることで、包括的なプロジェクト管理を実現しています。(荒井)

    Jiraのタスク進捗状況はNotionに自動で反映され、プロジェクト横断での課題管理が可能になっている。「全プロジェクトの進捗状況を横断的に把握できる点は、大きなメリットです」と荒井は説明する。

    さらに、プロダクトのOKRや案件の目的やROIなどの情報もNotionで管理されており、日々のタスク進捗と合わせて、プロジェクトの全体像を常に把握できる環境が整いつつある。

    上位マネジメント層にとって、個々のスプリントタスクの詳細よりも重要なのは、案件が当初の計画どおりに進んでいるか、遅延はないか、リスクは存在するかといった全体像です。そのため、それらの情報を一目で確認できるページの整備も進めています。(荒井)

    マウスオーバーで即理解 - 知識共有を加速させる用語DB

    イオンネクストでは、小売業特有の専門用語やイオングループ独自の用語を効率的に管理・共有するための工夫も行っている。これにより、新規参画者も迅速に業務を理解することが可能となる。

    小売特有の用語や社内固有の表現が数多くあり、新規参画者の理解を妨げる要因となっていました。そこで、用語集をデータベースとして整備し、ドキュメント内で用語を参照できる仕組みを構築しました。(荒井)

    具体的には、文書内で専門用語を参照すると、マウスオーバーで即座に説明が表示されるNotionの機能を活用。業界用語からイオン独自の業務用語まで、文脈を離れることなく理解できるようになっている。

    ドキュメント管理の基本的な仕組みはCTO自らが構築

    この整然としたドキュメント構造は、イオンネクストCTO 樽石の尽力によって築かれた。

    この取り組みは、樽石が率先して基本的な仕組みを構築するところからスタートしました。データベースの構造やプロパティの設計、情報間の関連付けなど、樽石が具体的な指針を示しながら、組織全体でのドキュメント整備を進めていきました。(荒井)

    浸透方法にも工夫がある。週に1回マネージャー層が集まるモブワークの時間を設け、各自の担当領域の情報をまとめる作業を実施。このトップダウン型のアプローチにより、自然とドキュメント管理の文化が根付いていったという。

    内製×副業のハイブリッド組織を支えるIDP

    このような取り組みの背景には、イオンネクストの組織特性が大きく影響している。イオンネクストでは、副業人材をはじめ多様な形態で参画しているメンバーも多く、彼らにシステムへの理解を効率的に深めてもらうことが重要な課題となっている。荒井は、自身の入社当時を振り返りながらこう説明する。

    私自身、入社当初は必要な情報を自力で探し集める日々で、システムの全体像を把握するまでに相当な時間を要しました。その経験から、新規参画者がスムーズに業務に取り掛かれる環境づくりの重要性を痛感しています。特に複雑なシステム構成を持つ私たちの環境では、情報の整理と可視化が重要です。新しく参画される方々が、できるだけ早く生産的な活動を始められるよう、オンボーディング体験の向上に注力しています。(荒井)

    こうした取り組みは、プラットフォームエンジニアリング領域で注目されているIDP(Internal Developer Portal)の実践例ともいえるだろう。今後も組織特性を踏まえ、複雑なシステム構造を早期に理解してもらい、速やかに実務に取り掛かれる環境の整備を目指していく。

    ドキュメント管理改革のすすゝめ

    荒井に効率的な進め方のコツを聞いたところ、「エンジニアリングの観点からは、闇雲に作るのではなく、テーブル構造やリレーション構造をしっかりと設計することが大切だと感じています。まずは1つテンプレートとなるものを作り、それを横展開していくとスケールしやすいのではないでしょうか」と提案する。

    イオンネクストの事例は、トップダウン型のアプローチ、そして適切なツールの選択と運用によって、組織的なドキュメント管理が実現可能であることを示している。それは単なる文書管理にとどまらず、組織の生産性と知識共有を促進する「生きた」システムとなり得るのだ。



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