
日本の小売業でトップクラスの売上と規模を持つイオングループ。300社を超えるその巨大組織の中でDX(デジタル変革)を牽引するのが、創業から5年のイオンスマートテクノロジー(以下、AST)です。ASTはイオン公式アプリ「iAEON(アイイオン)」を開発し、約1,650万ダウンロード(2025年6月末時点)を獲得しました。ほかにも、小売の現場から社内システム、サプライチェーンまで、イオングループのDXを推進する役割を担っています。また、デジタル人材の育成拠点でもあります。
2025年3月には、ジェリー・ブラックさんが代表取締役社長に就任しました。組織が改変された第二創業のタイミングをきっかけに、新しい方向性を打ち出したブラックさん。2009年に初の外国人役員として就任以降、イオングループを熟知する彼はいったい、どのようなDXやイノベーションを目指すのでしょうか。詳しく伺いました。
【目次】
人の育成を重視した企業文化へ
——ASTの代表取締役社長に就任し、ブラックさんはリーダーとして多くの変革を行っていくと思います。その中でもっとも重要だと考えていることを教えてください。
ブラック私は企業文化の醸成がとても重要になると考えています。イオングループのDX推進を担うASTは、2024年12月にイオンアイビス株式会社のIT事業が分割・統合されて新生ASTとして初年度を迎え、より大きな規模の一つの会社となりました。その中で私は、企業文化を創る人を育てること、つまり「人材戦略と育成」をもっとも重視しています。
代表に就任してから、私は多くの皆さんと1on1ミーティングを重ねてきました。本当に素晴らしい人材が揃っていると実感し、これまでのイノベーションを高く評価しています。私はそれをさらに続けていくためのリーダーシップを発揮する役割を果たしたいと思っています。
デジタルテクノロジーやビジネスにおいて、才能ある人材の採用活動はもとより、コーチングやトレーニング、人事的サポートなどを会社側が皆さんに提供することで、人材開発や育成を推進します。その仕組みがあることでより一層、皆さんに活躍してもらえるようになるでしょう。
また、マネジメントを行う立場のメンバーは「指導する意識」だけではなく、ツールや大きな機会の提供、可能性の提示のほか、ASTが働く場として魅力的であり続けることや、成長を実感できること、イオングループでさまざまな良い影響を及ぼす開発に携われると思ってもらえることも重要です。
私の体験上、とりわけテクノロジー人材は、官僚的な体制を好まず、「自由にやりたい」「クールなことをやりたい」と思う人が多いと思います。そうした要望に対して、ASTならすべてが叶えられると伝えたい。私たちはそれほど、さまざまな可能性を提供できます。アプリを始め、イオングループに対して効率的なツールを提案できる環境があります。イオンにお越しになるお客さまが実際に使って体験してもらえるプロダクトを提供していますので、そのダイナミズムを通じて成長を実感できると言えるのです。
——ブラックさんご自身が経営の上で大事にしている考え方や信念はありますか?
ブラック「人が一番の資産」——これが私の信念です。そうであるためには、人同士がオープンに話すことや、イノベーションやクリエイティビティを肯定しお互いを助けること、人同士が信頼できる相互関係を築くことが必要です。
個人個人が主体性を持ち、お客さまやビジネスへ及ぼすインパクトを常に念頭に置きながら、「これはお客さまにとって良いことなのか」「店舗が良くなることなのか」「私たちの会社にとってプラスなのか」と絶えず考えながら仕事に取り組んでほしいと思います。そのような企業文化を創るには、コーチングなどのトレーニングを行う環境も必要です。
また、生産性や効率性を改善し、付加価値を生み出すイノベーションを起こすこと。それだけでなく、インクルーシブ(包摂的)な働き方や文化を醸成するための改革も必要です。リモートワークなど、もっと柔軟性やカジュアルさを導入しても良いですし、安全で多様性があり、ジェンダー問題のない環境を作ることも大事です。
いろいろな方がいる中で、どのように共に働けるのか。一人一人のゴールやキャリア、人生を尊重できる職場を運営していきたいと考えています。
一人一人の力が真のDXに
——組織の規模や位置づけが変更されたことで、ASTは第二創業期を迎えました。特に集中して取り組むべき課題を教えてください。
ブラック私がもっとも課題に感じている点は、その広がりのあるグループゆえの複雑性です。イオングループには事業会社や多くの関連会社があり、複雑であるため、最終消費者であるお客さまに対して大規模で効果的な価値を早くご提供することが難しいのです。DXを通じて良いインパクトをもたらすためには、グループでの一貫した取り組みが必要だと考えています。
例えばASTで新しいプロダクトを事業会社に向けて開発したとしても、複雑な体系がゆえに、その広がり方が限定されてしまうことがあります。そうならないためにも、最初からグループ内にあるさまざまな関連会社や部門で密に連携し、一緒になって変革を進めることが本質的な課題解決につながります。
私たちが第二創業期で集中的に行うべきは「真のDX」です。決してこれまでのような、IT化を進める「ITプロジェクト」だと思ってはいけません。確かにIT化は一定の事業展開がありましたが、変革ではなかったと考えています。
その一方で、これまで積み上げた価値を活用することが、イオングループにとってのチャンスになると考えています。本来はもっと活用ができるのに眠ってしまっているイオンの最大の資産は「顧客情報」です。もちろんお客さまのプライバシーを守ることは大前提なのですが、一方で、DXはスピード感を持って進めることが極めて重要です。私はその課題に対し、リーダーとしてチャレンジします。
——真のDXを実現するために、ASTのメンバーに求めることはありますか?
ブラック真のDXを実現するには、デジタルによる変革の重要性を全メンバーが理解し、責任を負う必要があります。トップからシニア幹部、経営層、CTO、人事部、財務部、現場まで、全社レベルで全員を巻き込んで一貫して取り組み、全員が役割を担い、根本的に働き方そのものを変える必要があります。
AIやCopilot、Azureなど新しい技術を活用することで、いったいどんなことが実現できるのかを全員が理解し、すべての層のメンバーがその一部を担ってほしいのです。特に幹部層は全員を巻き込み、全チーム全個人がDXに責任を示すことを求めてほしい。
お客さまが店舗でどのようにお買い物をしているのか、どのような体験をすると満足いただけるのか。この課題に対して私たちはどのようなマーケティングや店舗のオペレーションをご提供できるのか。
DXを推し進めれば、お客さまはどのようなことに満足するのかを知ることができたり、店舗をどのように改善できるのかのデータを取得できたり、生産性を向上させるツールとして活用できたり、調達・購買活動とデータを紐づけられたり——そんなことがDXで実現できます。この改革を早く前に進めたいと考えています。
私自身は、皆さん一人一人に力を付けてもらい、未来へ向けたさまざまなことを決めてもらえるようにしたいです。AIやデータ活用を広げると、それに基づいて物事を判断する権限を持つメンバーがどんどん広がっていくでしょう。そうなれば、トップで決めるのではなく現場やさまざまな立場で意思決定が行われるようになります。
1回で終わらないのがイノベーション
——真のDXを実現するために必要なことは他にありますか?
ブラックイノベーションをもっと推奨するべきだし、イノベーションを良しとする企業文化へと変革したいと思っています。それを実現するためには先述の通り、メンバーたちとの対話を通じた人材育成・指導・メンタリングの提供が不可欠です。
また一方で、データの見方そのもの、つまり基準を変える必要があります。ASTがまず果たすべき役割は、お客さまの行動や売れる商品などをKPI(重要業績評価指標)できちんと管理できるようにすることです。そして、「インプット」ではなく「アウトプット」で判断をすること。お客さまの満足度を測る際に、アプリのダウンロード数というインプットではなく、お客さまが本当に満足しているかを理解するための顧客満足度というアウトプットをKPIとし、結果を見るようにします。
こうしてユーザー体系を把握した上で、そのデータを基に「どのようなイノベーションを実現できるか」と発想できるようになることを目指します。リーダーの立場にあるメンバーたちはイノベーションの方法を学んだうえで、その規模をスケールアップさせて広げていくことが重要になります。
イオングループの皆さんや、これから入社を検討している方にお伝えしたいのは、「イノベーションは、1回きりで終わりではない」ということです。現在のイノベーションは、ABテストなどを通じた毎日の継続的な改善活動が前提です。その状態からテストをどんどん繰り返して、より良いものにしていく発想が求められます。イノベーションは私たちの企業文化や営みの一部であり、1回きりで終わるものではないと認識を改めていただきたいと思います。
10年後はパーソナライズが鍵
——ASTがこれから取り組んでいく挑戦はどのようなものでしょうか?
ブラックこれまで以上に、ASTの役割は核となる価値創造のプロセスに関わる企業へと変わっていき、テクノロジー面のサポートだけでなく、ビジネスの実行を担う一員になっていきます。
例えば、現場やアプリがお客さまとの接点であるという認識のもとに、データベースやプラットフォームなどインフラに該当するコアテクノロジーをより変革するサポートを提供。それと同時に、AIを導入・活用した価格最適化や、倉庫管理システムのようなサプライチェーンの最適化など、ビジネス面のコアシステムに対してもASTは参画。DXをさらに推進すべく挑戦を続けていきます。
——10年後にASTはどうなっていますか?
ブラック現在すでに、SNSを経由してスマホで商品を購入する過去にはなかった買い物の仕方が出てきています。さらに今後お客さまは、AIを駆使してお買い物をしているかもしれませんし、VRやARなどのグラスやヘッドセットを日常的に使うのが当たり前になっているかもしれません。
重要なのは、10年後のさまざまな可能性を見据えて未来志向の視点を持ちつつ、そこから逆算して、テクノロジーを活用する行動へ落とし込んでいくことです。例えば「10年後に、お客さまはどういうふうにお買い物をしているのか」といったことを考えます。私たちの第一優先は、お客さまがどのように買い物をするのかに合わせることです。
ではその時、商品をお届けするまでのコミュニケーション方法はどう変わるのか? オンラインの購買行動や宅配が今以上に増えているのか、その場合に店舗は小さくなっているのか。それならスタッフの数は減るのか。AIを需要予測や在庫管理にもっと活用できるのか。店舗でのお買い物が減ったら、店舗在庫は現在の80%ほどで済むかもしれない——。認知から購買まで、お客さまのあらゆる段階や状況の将来を予測し、それに向かってなるべく早くDXに取り掛かるべきです。
小売業にも使えるツールやテクノロジーがすでにたくさん入っていますし、遠くない将来、AIエージェントやボットを活用してお買い物をする方など、ショッピングの形態もさまざまな方法が出現するはずです。AIやデータ分析などを駆使してパーソナライズ(個人化)された情報をお客さまにお届けしないと、皆さんが本当は求めている情報まで辿り着けない世界にすでになっています。
——パーソナライズが一つの指針になるのでしょうか?
ブラックはい、その通りです。パーソナライゼーションが鍵を握っています。かつては街に家族経営の小さな商店通りがあって、近所の人がお客さま、お互いに顔を知っている仲でした。だから、この人はこういう商品が好きだとお店の人も把握していました。一方、ショッピングモールやECサイトでは、お客さまの顔がほぼ見えていないと思います。そうした側面をテクノロジーの力で解消するためにも、パーソナライズされるべきだと思います。
新しいイオンのDXに「期待して」
——どのような人にASTへ来てほしいですか?
ブラックキャリア志向を持つテック人材の方々にお伝えしたいのは、「私たちは旧来型のイオンではなく、Newイオンです」という点です。
日本の雇用環境は、私が初めて日本に来た頃と最近とでは随分と変化してきました。かつて皆さんが心配していたのは、どれくらい会社で長く働けるかという「雇用の安定性」です。大学を出て退職するまで1社に勤め上げたいという価値観の方が多かったと思います。
しかし現在において、とりわけテクノロジーに携わる人が重視するのは、「キャリアの安定性」です。つまり、テック人材は会社に残り続けることにこだわるのではなくて自分自身のキャリアを重視しているため、私たちも最適なツールやテクノロジー、あるいはビッグデータを扱えること、指導をしてもらえる環境があること、スキルを高められることにこだわっています。
また、ASTはテクノロジーを重視していて、そのためにエンジニアリングに関わるメンバーの「今」を発信するオウンドメディア「AEON TECH HUB」があり、トレーニングもツールも用意しています。私たちは「人材開発に対して長期的に責任を負うことを約束している」という意思をお伝えしたいのです。ASTは人材採用を通じて、どんどん人を育てることで、企業として成長できると考えています。どうぞ期待してください。
イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
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※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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