
「5年ごとに変化する技術に挑み続けて」イオンのDXを支えるグループ会社元代表の哲学|イオングループのエンジニアによる突撃インタビュー
2025/4/23
この記事に登場している人
この記事を読むとわかること
・40年以上にわたりITの変遷とともに歩み続けた金子氏が、イオングループのDXを牽引
・内製とアウトソースのバランスを見極め、イオングループ独自のDX組織「イオンスマートテクノロジー」を設立
・DX推進のためにグループ横断の「DXコミュニティ」に参加し、変革文化を醸成
・2030年までにイオングループ全体のライフサイクルをつなぐデジタルプラットフォーム構築を目指す
定年を超えてもなお、イオングループのプロダクト開発最前線で闘い続けるエンジニア出身経営者がいます。元イオンアイビス代表取締役社長/元イオンスマートテクノロジー取締役副社長 金子淳史さんは、1980年の自動車製造会社入社以来、COBOLで数百本のプログラムを書き、メインフレームからクラウドまであらゆるテクノロジー変革を生き抜いてきました。
「5年ごとに技術は変わる。常に次を見据え、変わり続けなければ生き残れない」—— そう語る金子さんの姿勢は、イオンという巨大組織のデジタル変革を牽引する原動力となっています。
私たちイオングループの若手エンジニアとして、このような豊富な経験をもつ先達から「変わり続ける覚悟」と「学び続ける姿勢」について学ぶことは大変貴重です。今回のインタビューでは、金子さんが時代の変化にどう対応し、何を学び、そしてイオングループのデジタル変革をどう進めようとしているのかを伺いました。
【目次】
メインフレームからクラウドへ - 変化し続けるITと歩んだ40年
林金子さんは1980年代から今日まで、ITの変遷を目の当たりにされてきました。当時と比べて、最も大きく変わったことは何でしょうか?
金子大学卒業後は自動車製造会社に入社しました。当時のコンピューターといえば、給与計算や部品発注などに使う大型のメインフレームが主流でした。プログラミング言語はCOBOLで、何百本ものプログラムを書きましたね。
その頃は本番環境とテスト環境の区別もなく、コンピューターは1台のみ。本社の地下にコンピューターを設置し、各工場とネットワークでつなぐというシステムでした。今では考えられませんが、ジョブコントロールランゲージ(JCL)で定義したジョブをいきなり本番で動かすんです。タイマーをセットして夜間に実行し、翌朝出社したらジョブが動いていなかったということもよくありました。
ただ、最も大きな変化は、技術だけでなく、私たち自身の対応力だと思います。技術は約5年サイクルで大きく変わります。メインフレームからクライアントサーバー、Webシステム、仮想化、そしてクラウド。プロジェクトがやっと終わったと思ったら、次に行かなければならない。その変化に対応し続けるには、「学び続ける覚悟」が必要です。
林エンジニアとして時代のニーズに合わせながら組織のシステムを変革されてきたんですね。イオンに入社されてからも、さまざまな変化を目の当たりにされてきたと思いますが、特に印象に残っている変化や判断はありますか?
金子イオンに入ったのは約10年前です。当時はアウトソーシングが流行しており、社内で行っていた開発や運用を外部に委託する流れがありました。しかし、アウトソースすると、技術力や開発プロセスといった大切な知見が社内から失われてしまう。依頼だけを行う"手配者"になってしまうと、システムの本質を理解する力が弱まってしまう。
この経験から、単にコスト削減だけを追求するのではなく、何を内製化し、何をアウトソースするのかの判断基準を持つことの重要性を学びました。これは今も変わりません。イオングループのような大規模小売業のITトップとして、常に「何を自社の強みとして持つべきか」を考え続けることが私の役割でした。
林内製化のバランスについては、現在もイオングループ内でよく議論になっています。イオングループ全体ほどの規模になると、その判断もさらに複雑になりそうです。
「レガシーの考え方では新しいことはできない」 イオンスマートテクノロジー誕生秘話
林近年金子さんは、DXによるイオングループのイノベーションに取り組まれてきました。具体的にどのように進められたのでしょうか?
金子2020年にイオン副社長の羽生さんがデジタル担当に就任され、DXを本格的に進めようという話になりました。当時、私はレガシーシステムを開発・運用するイオンアイビスの社長でした。羽生さんは「レガシーの考え方では新しいことはできない」と、新しく会社を作ることを提案されました。
これは単に古いシステムを刷新するという意味ではありません。既存の思考パターンやビジネスプロセス、さらには組織文化までも刷新する必要があるということです。どんなに優秀なエンジニアでも、古い組織のなかでは新しい発想が生まれにくい。だからこそ、新会社の設立が必要だったのです。
こうして誕生したのがイオンスマートテクノロジー(AST)です。新しいことをするには新しい人材と組織文化が必要という考えから、人事制度も特有のものを新設しました。社員の評価基準も、会社全体の目標に対してブレークダウンした各個人が重視すべき、年間の取り組むべき目標・KPIを設定し、期末に結果について評価を行う目標管理制度を採用しました。まだ多くの問題点があるので、今後更に改善する必要がありますが。
また、アジャイル開発やデザイン思考といった新しい手法を積極的に取り入れました。
林企業文化や業務プロセスを根本的に見直す必要があるDXにおいて、組織から変えるというアプローチは非常に理にかなっていると思います。ASTではどのようなプロダクト開発に取り組まれたのでしょうか。
金子羽生さんは早く効果を出すことを重視しており、ASTが設立して約1年でイオングループの公式アプリ「iAEON」をリリースしました。当時のASTの社員は20名程度で、そのうち半分はイオンアイビスからの出向者、残りの半分は外部から採用した人材でした。
林そのスピード感は相当なものだったのですね。
金子世の中のデジタル化の流れに追いつくために、限られた時間と人員でよりよい顧客体験の提供を目指しました。もちろん、急速に進めたことで設計上の課題も生じました。たとえば、iAEONとAEON Payの会員コードを別々に設計したことは、後から振り返れば改善の余地があったと感じています。
しかし、このような経験からも多くを学びました。迅速な市場投入と堅牢な設計のバランスをどう取るか、そしてリリース後の継続的改善をどう進めるか。これらはDX推進において常に向き合うべき課題です。エンジニアとしての品質へのこだわりを持ちながらも、市場の変化に対応するスピードも大切にする。この両立が現代のプロダクト開発には不可欠だと考えています。
「作ったら終わり」じゃない - プロダクトを育て続ける責任への目覚め
林昨年、イオンアイビスの社長/ASTの副社長を退任されました。現在、特に注力されていることは何でしょうか?
金子最大の課題は、「作って終わり」ではなく「作って育てる」プロダクト開発への転換です。従来のシステムは作ったら終わりという側面が強くありましたが、今は継続的に改善していく必要があります。
実はこれが、私が社長を退任した後もイオングループに残った最大の理由です。現在のiAEONはユーザー数1500万人、アクティブユーザーは500万人程度まで成長しました。しかし、プロダクトとしてはまだまだ発展途上です。ユーザーの行動や満足度を分析してデータに基づいて改善していく。このサイクルをしっかりと回せるような組織と仕組みを作りたいと考えています。
実は社長退任時、一度はプロダクトに携わるのを辞めようと思っていました。しかし、その考えを羽生さんに伝えたときに言われた「面白くないなら面白くなるように考えたら」との一言が、私の考えを変えたのです。
何が自分の仕事を面白くするか考えたとき、作ったプロダクトを真に世の中に通用するレベルに成長させたいという使命感が湧いてきました。それまでは「作る」ことに集中していましたが、今はそれを「育てる」ことに力を注いでいます。
林私たち現場にとって、経営層がプロダクトの成長に深い関心を持っていることは大きな励みになります。プロダクトを「育てる」ためにどのような取り組みをされているのでしょうか?
金子最近、他社の美容サロン検索・予約サイトのプロダクトオーナーと話をする機会がありました。彼らはユーザーの予約方法を改善するためにどうすべきかという課題を、徹底したデータマーケティングとヒアリングを通じて解決していました。
たとえば、オンライン予約と店舗での予約に別々のシステムが使われていると、店舗側はオンラインには土日の予約枠を出さないという問題がありました。そこでデータマーケティングや現場のヒアリングを重ねながら、予約システムの一本化を進め、プロダクトを育てていったそうです。
この例からもわかるように、世の中の先進企業はすでにデータドリブンな意思決定を当たり前のように行っています。この点で、イオングループは2〜3年遅れていると感じています。データマーケティングやユーザーインタビューを通じて、常にプロダクトを進化させていく必要があります。
この遅れを取り戻すため、私は68歳になった今でも新しいことを学び続けています。先進事例を調査し、若手エンジニアと対話をする。変化に対応するためには、私自身が率先して学び続ける姿勢を見せることが重要だと考えています。
三位一体のDX推進 - グループの壁を超えたDXコミュニティの挑戦
林データドリブンな意思決定を組織的に行うなど、変革をグループ全体に広げるためにどのような取り組みをされていますか?
金子イオングループは59万人もの従業員を抱える巨大組織です。この規模の組織で変革を進めるには、単発的な施策では不十分です。
現在、グループ内でDXコミュニティを強化するための取り組みを始めています。これは各事業会社のDTO(デジタルトランスフォーメーションオフィサー)という立場の人々を集めて、DXを「ホールディングス」「事業会社」「機能会社」の三位一体で進めようというものです。
林イオングループほどの規模の組織では、部門間の壁や事業会社間の壁を超えた協力というのは、技術的な課題以上に難しいものだと日々感じています。何か参考にされた事例があるのでしょうか。
金子このアプローチは私が自動車製造会社時代に経験したクロスファンクショナルチームを参考にしています。当時はプロセスのエンドツーエンドを一気通貫で見るような取り組みでした。責任者とリーダーがいて、決まったことは必ず実行する。「こんなのできるわけないじゃん」と思っても、やらなければならない。そしてやってみると、それなりに効果があったのです。
林過去の経験から得られた学びを現在のイオングループに適用するという発想は非常に重要だと思います。
金子今回のDXコミュニティでは、いくつかのテーマでワーキンググループを設置する予定です。たとえば店舗の効率化・デジタル化というテーマもあります。各グループには責任者とリーダーを置き、さらに事務局ではなく「ファシリテーター」という役割を設ける予定です。これは単に会議の進行や議事録作成をするのではなく、ホールディングスが立てた戦略をワーキンググループでどう進めていくかの舵取りをする重要な役割です。
ワーキンググループのメンバーは業態ごとに選出されます。GMS、スーパーマーケット、ヘルス&ウェルネスなど、イオンの各事業領域から代表者が参加し、そこにASTなどの機能会社のメンバーが加わります。また、AIが今後の重要な武器になることから、イオンデータイノベーションセンター(DIC)のメンバーも参加します。
林バラバラで動いていても、できることは限られますからね。そこに対する金子さんの働きかけも重要になってくると感じました。
金子そうですね。組織を変える、仕事を変えるためには、このような「枠組み」が必要になると思っています。そして、この体制の最大の特徴は、「やらされ感」ではなく「自ら変える」という意識を持ったメンバーが集まることです。組織が大きいとひとつの歯車だけでは全体は変わりません。しかし、変革への情熱を持ったメンバーが横断的に集まることで、大きな変化を起こすことができると信じています。
林2024年12月には、イオンアイビスのIT事業が分割・統合され、新生ASTが誕生しました。
金子単に「統合」するだけではダメです。本当の「融和」が必要です。私自身は「旧アイビス」という言葉をまだ使ってしまうことがあります。ただ、それをいつか使わなくなる日が来たら、それは完全に融和できた証だと思っています。そのために、組織構成を見直し、私自身も責任を持って仕事を進めながら、プロダクトの改善に取り組んでいきたいと考えています。
林このようなDX推進体制を通じて、金子さんが描く、これからのイオングループのデジタル戦略ビジョンについて教えてください。
金子私たちが目指しているのは、お客さまのライフサイクル全体に常に接点を持てるようなプロダクトを提供することです。イオングループでは、スーパーはもちろん、金融、スポーツ用品、ドラッグストア、書籍など、多様な業態を持っています。iAEONをベースに、これらをうまくつなげていきたいと考えています。
時間軸でいうと、組織の融合は1年以内に実現できたらいいと思っています。そして、世に通用するプロダクト、ライフサイクル全体をつなぐプロダクト群の整備は5年以内、2030年までに80%程度は実現できたらいいと考えています。
林イオングループの多様性を活かしたプラットフォーム構想は非常に魅力的です。ユーザー目線で考えると、買いものから金融、エンターテインメントまで一気通貫のエクスペリエンスが実現できるポテンシャルがありますね。
「大黒柱に車をつけよ」 イオン創業の精神と変革のDNA
林これだけのビジョンを実現するには、長期的にコミットする強い意志が必要だと思います。定年を超えた今も現役でプロダクト開発に関わり続ける金子さんの原動力は何でしょうか?
金子私の同僚からは、「私は仕事を辞めたら死んでしまう」と言われています。それは冗談だとしても、常に新しいことに挑戦し続ける、それが私にとっての生きがいだと感じています。イオングループは非常に大きな組織ですから、変革は簡単ではありません。でも、良いプロダクトがあれば、みんなが使いたいと思うはずです。
だからこそ、早く世の中に追いつき、そして追い越すような良いプロダクトを作り、それを皆に広めていくこと。それこそが私の使命だと考えています。最終的には若い世代に渡していきますが、それまでは全力で取り組み続けたいと思います。
林金子さんのように、生涯現役で技術やプロダクトに向き合う姿勢は、理想的なロールモデルだと感じました。最後に、次世代のエンジニアやプロダクト担当者へのメッセージをお願いします。
金子今に満足してはいけません。常に次はどうするか考えながら仕事をすることが大切です。それが良いものを作り、発展させる唯一の方法だと思います。
私自身、1980年から今日まで、技術の変遷を見てきました。5年ぐらいごとにテクノロジーが変わり、新しいことに取り組まなければならない。そうした日々の連続でした。そのなかで学んだのは、変化を恐れず、むしろ積極的に変わり続けることの重要性です。
イオンの創業者の言葉に「大黒柱に車をつける」というものがあります。これは常に変革し続けることの大切さを説いたものです。この創業の精神は、デジタル時代の今でもまったく色あせていません。DXとは単にデジタル技術を導入することではなく、それを通じて組織と個人が変革し続けることです。皆さんも、ぜひ自分自身を常に更新し続けてください。
林技術は常に変化しますが、「良いものを作りたい」という思いと「常に変わり続ける」という姿勢は、時代が変わっても変わらぬ真理なのだと感じました。金子さん、貴重なお話をありがとうございました。
イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
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※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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