物流のラストマイルの効率性を測る指標「DPV」を高めるデータサイエンスとイオンネクストの具体的事例 

物流のラストマイルの効率性を測る指標「DPV」を高めるデータサイエンスとイオンネクストの具体的事例 

2024/12/26

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この記事に登場している人

樽⽯ 将⼈

Masato Taruishi

イオンネクスト株式会社 技術責任者CTO
レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンを経てグーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。 その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。同社の上場の牽引後、22年1月に退職。22年3月より現職。

    この記事を読むとわかること

    ・ネット専用スーパーの物流は、お客さまの自由度の確保と配送効率のせめぎあい
    ・3つのKPIで、1台の配送バンが最も効率的に配送を行える状況を作る
    ・配送拠点の設置やクーポン配信など、実務のいたるところにデータサイエンスを活用
    ・データドリブンな意思決定で事業にインパクトを与えられるフィールド

    ラストマイル(ラストワンマイル)とは、物流の最終拠点から、お客さまの家の玄関先まで商品を届けることを指す。EC事業の肝であり、流通小売業各社が長らく試行錯誤を続けている部分だ。

    イオングループの多くはこの部分を外部の事業者に委託してきたが、ネット専用スーパーのGreen Beansを運営するイオンネクストは「ラストマイルネットワーク構想」として、戦略的な自社物流網構築を推進している。コストがかかる「ラストマイル」を、持続可能なものにするために、同社が掲げる3つの指標とは。同社CTOの樽石 将人に聞く。
    (取材・文:プレーンテキスト 鹿野恵子)

    【目次】

    事業の鍵を握る3つのKPI

    イオンネクストのネット専用スーパー「Green Beans」は、お客さまが朝7時から23時まで、1時間単位でいつでも自由に配送タイミングを選択できる。いわば非常に「自由度」が高いサービスだ。しかしお客さまにとっての自由度の高さは、配送効率の悪化に直結する。今の自由度を保ちつつ、どうやって配送効率を上げていけばいいのか。

    イオンネクストでは、いくつかの指標を策定し、これを向上させることで、自由度の確保と配送効率の向上の両立を目指しています。最重視する指標がDPV(Drops Per Van)です。一台の配送バンが、一回の配送で何件のお客さまのところに配送しているかを指します。そしてこの数字を向上させるためにさらに3つのKPIを追いかけています。(1)ステムタイム、(2)デリバリータイム、(3)インタードロップタイムです。(樽石)

    樽石によると、それぞれの定義は次の通りだ。

    Green Beansの3つの指標(1)ステムタイム、(2)デリバリータイム、(3)インタードロップタイム

    (1)ステムタイム:拠点と配送エリア間の移動にかかる時間のこと。CFC(顧客フルフィルメントセンター)やスポークなどの拠点から1件目のお客さまの家に到着するまでの時間を「往路のステムタイム」と呼び、最後のお客さまの家から拠点に戻るまでの時間を「復路のステムタイム」と呼ぶ。

    (2)デリバリータイム:停車してから商品を取り出し、お客さまに商品をお渡しして、配送が終了するまでの時間のこと。車を駐車している時間でもある。

    (3)インタードロップタイム:あるお客さまから次のお客さまのところに移動するのにかかる時間のこと。

    ここに休憩時間(レストアワー)を加えて、すべてがデリバリークルーの就業時間に収まる必要がある。たとえば勤務時間8時間+休憩1時間のデリバリークルーの場合、すべてを540分に収めるための数理モデルを検討し、どの数値をどう変化させれば最終的にDPVを向上させることができるかを検討していくのだ。

    (2)のデリバリータイムをいかに短くするかを考えた結果開発されたのが、こちらの記事でも紹介した「配送支援アプリ」だ。では、ステムタイムとインタードロップタイムはどのように短くしていけばいいのか。

    データで決める配送拠点とラストマイルネットワーク

    (1)のステムタイムを短くするには、配送拠点の設置の設計が肝になる。

    Green Beansにおいて、お客さまから受けた注文の多くは、商品が在庫されているCFCでロボットによって自動でピッキングされ、宅配荷姿に整えられ、ある程度のボリュームで10tトラックによって都心に立地している中継センターまで移送される。

    そして中継センターからは緑色の3.5tトラック(配送バン)でデリバリークルーがお客さまの家まで届ける。このCFCと、点在する中継センターの関係をイオンネクストは「ハブ&スポーク」と呼んでいる。

    CFCは圏央道周辺に設置されている。現在稼働しているのは千葉県の誉田CFCで、2026年には東京・八王子CFC、2027年には埼玉・久喜CFCが開業を控える。一方のスポークである中継センターは、外環自動車道の周辺をベースに、宅配するエリアの近隣に設置を計画していて、今後関東に数十拠点の設置が予定されている。

    Green Beansの拠点

    この3つの大型CFCと中継センターの「ハブ&スポーク」ネットワークによって、Green Beansは東京都、神奈川、千葉、埼玉の都市部の注文に対応していく。

    CFCはその規模の大きさゆえ、郊外にしか設置することができず、そこを拠点とする大量のデリバリークルーを近隣から採用するのは現実的ではない。配達エリアに近い住宅地に中継センターを設置すれば、近隣住民の応募も見込まれるだろう。

    この中継センターの配置場所の選定でも重要な鍵を握るのがデータサイエンスだ。たとえばGreen Beansが新エリアに進出する場合、CFCや他中継センターの配置などから、新しい中継センターをどこに配置するのが一番効果的なのかを分析していく。

    将来的には、現在ほとんど活用されていない、『静脈物流』と呼ばれる、商品の『受け手』から『送り手』に対する上りの物流を活用して、『ラストマイルを縦横無尽に商品が動き回る』状況を作ろうと計画しています。(樽石)

    エリアのロングテールを最適化するスマートクーポンプラットフォーム

    あるお客さまから次のお客さまのところへ移動するのにかかる時間を指す「インタードロップタイム」の効率化を進めるためには、エリア内での注文の密度を上げればいい。極端なことを言えば同じマンションの住民が同じ配送時間に注文をしてくれれば、インタードロップタイムは一気に下がる。

    そこで注文の密度をコントロールするために、Green Beansが開発しているのが「スマートクーポンプラットフォーム」だ。

    このスマートクーポンプラットフォームでは、お客さまそれぞれに、ある特定の日に商品を配送すると、配送料等が割引になるクーポンを配布する。この「配送日指定クーポン」の実験は既にある程度進んでおり、効果も実証済みだ。

    スマートクーポンプラットフォームが実現することの例

    「インタードロップタイム効率化」の深堀は、クーポンによる都心部の注文密度コントロールにとどまらない。

    現在実験を進めているのが「エリアのロングテール」の受注最適化である。

    ロングテールというと、一般的には商品のことを指す。販売機会の少ない商品でもアイテム数を幅広く取り揃えたり、対象となる顧客の総数を増やすことで、総体としての売上げを大きくするという考え方だ。

    配送における「ロングテール」とは、エリアを指します。たとえば過疎地で商圏が薄いエリアに、注文がバラバラと五月雨に入ると、配送効率が非常に悪くなってしまいます。そこで私たちはスマートクーポンプラットフォームを活用し、エリアAは月曜日に、エリアBは火曜日に…というように特定日に特定地区の注文が集中するよう誘導しようとしています。現在配送商圏のとある地域をAIの実験エリアとして定め、様々な実験を行っています。(樽石)

    クーポンによるオファーの内容はAIが算出する。現実世界の注文・売上・配送効率という数字の変化を追いながら、アルゴリズムを構築し、クーポンを配信して、購入するためのプロダクト「スマートクーポンプラットフォーム」を作りきろうとしている。「オンラインで完結する」世界とは異なった開発体験が期待できる。

    データドリブンで実務を動かし、未来を作る 

    樽石は「様々な判断にデータサイエンスが寄与しています。そして、配送効率とお客さまの買物の自由度のバランスの最適解を見つけるところに、この仕事の面白さがある。つまり数理最適の世界そのものです」と言い切る。

    配送効率だけを最大にすると、お客さまは不自由を強いられる。使いやすさを担保したまま、いかに配送効率を最大にするか。このような計算にはテクノロジーが1番生きるところです。これらはコンピュータの進化の賜物といっても過言ではありません。50年前にはこのような計算をすることができませんでした。(樽石)

    こちらの記事でも紹介したように、樽石はGreen Beansのエリア拡大にあたって、「樽石数理モデル」を開発し、エリア拡大の根拠を数学的に算出している。

    樽石数理モデル

    現在のコンピュータの計算能力向上によって、「利便性」と「配送効率」の両立が現実のものになろうとしているのだ。

    さらに重要なことは、DPVとそれに紐づく3つのKPIがすべて、イオンネクストの事業に直結しているという点だ。

    このKPIをよりよくすることで、配送効率を上げ、かかるコストを下げ、売上・利益を動かす。データから仮説を導き出し、施策を打つという、データドリブンな意思決定によって、現実が動くことを体感できるフィールドであることは間違いない。

    イオンネクストのネットスーパー事業は間違いなく後発参入組だ。最先端のテクノロジーの恩恵にあずかることができているのは、後発ゆえのメリットともいえよう。進化の果実を余すところなく活用することによって、将来的には、「お客さまの家の冷蔵庫の在庫管理」までもスコープに捉えていきたいと、樽石は言う。

    今までは出店というと土地を確保してお店をオープンするという事がイメージされていたと思いますが、イオンネクストにとっての出店とは会員の登録です。すでに存在するお客さまのご自宅の中にお店を出店していく。そういう目線で進めています。(樽石)

    イオンネクストが切り開こうとしているのは、新しい小売業の在り方そのものだ。


    イオンネクストではエンジニアを中心としたデジタル人材の採用を積極的に行っています。樽石と話をしてみたい、Green Beansの事業が気になる…といった方は、カジュアル面談も実施しておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。

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    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

    この記事を書いた人

    鹿野恵子

    小売・ITジャーナリスト、編集者
    1978年、宮城県仙台市出身。2001年、早稲田大学法学部卒業後、株式会社アスキー、株式会社商業界(月刊食品商業、月刊商業界)、ITベンチャーを経て2015年に制作会社のプレーンテキスト(http://plain-text.jp)を設立。流通小売業とテクノロジー、スタートアップについての取材・執筆を続ける。現在メルマガ「リテールアトラス(https://retailatlasjp.substack.com/)」運営中。著書に「店舗を読み解く技術シリーズ」、編著書に「リアル店舗は消えるのか?」(発行:日経BP)がある。

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