
この記事に登場している人
中島 正美
Masami Nakashima
イオンスマートテクノロジー株式会社 OMO開発ディビジョン ディレクター
新卒後、NTT及びそのシステム開発子会社にてシステム開発や新規事業開発に従事。その後、2008年にIBMへ転職し、ERPシステム導入を中心に製造業、小売、広告代理店向けの案件を数多く手がける。2022年ASTにJoinし、2024年4月より現職。主にイオングループの店舗におけるデジタルトランスフォメーションを推進するシステムの開発/導入を進める。
北川 肇
Hajime Kitagawa
イオンスマートテクノロジー株式会社 ASP開発ディビジョン ディレクター
TV通販会社やスピーカーメーカの情報システムでWarehouseシステムやアプリ開発に携わり2016年にイオンアイビスに入社。WAONPOINT関連の開発やネットスーパーのリプレースを経てイオンスマートテクノロジーに移動。2021年9月にシステム開発責任者としてiAEONアプリとバックエンドシステムのASPBをリリース。iAEONアプリのスクラムチーム・体制構築を経て、2024年3月より現職。
中島 正美
Masami Nakashima
イオンスマートテクノロジー株式会社 OMO開発ディビジョン ディレクター
新卒後、NTT及びそのシステム開発子会社にてシステム開発や新規事業開発に従事。その後、2008年にIBMへ転職し、ERPシステム導入を中心に製造業、小売、広告代理店向けの案件を数多く手がける。2022年ASTにJoinし、2024年4月より現職。主にイオングループの店舗におけるデジタルトランスフォメーションを推進するシステムの開発/導入を進める。
北川 肇
Hajime Kitagawa
イオンスマートテクノロジー株式会社 ASP開発ディビジョン ディレクター
TV通販会社やスピーカーメーカの情報システムでWarehouseシステムやアプリ開発に携わり2016年にイオンアイビスに入社。WAONPOINT関連の開発やネットスーパーのリプレースを経てイオンスマートテクノロジーに移動。2021年9月にシステム開発責任者としてiAEONアプリとバックエンドシステムのASPBをリリース。iAEONアプリのスクラムチーム・体制構築を経て、2024年3月より現職。
この記事を読むとわかること
・イオンがデジタルシフトを加速のために設立した”DMC”の体制
・大規模システム開発における海外拠点との効果的な連携Tipsの紹介
・真のグローバル展開を実現するには、文化的な違いや言葉の壁を乗り越えること
グローバル化が進む現代のビジネス環境において、大規模システムの開発を海外拠点と連携して進めることは、多くの企業にとって重要な課題の1つだ。海外と連携したプロジェクトの成否は、現地とのコミュニケーションや、品質管理が適切に実施されるかどうかに大きく左右される。本記事では、イオンの大規模開発における事例を通じて、海外拠点との円滑な連携を実現するための8つのTipsを紹介していく。
【目次】
イオングループにおける中国の開発拠点DMC
イオンは2019年、イオングループのITソリューション事業を展開するイオンアイビスとの共同出資により、デジタルシフトを加速するための新会社「Aeon Digital Management Center(以下、DMC)」を中国に設立した。現在、イオンスマートテクノロジー(AST)とDMCが協力し、大規模なシステムの開発プロジェクトを推進している。
DMCの主な役割は、ネットスーパーやEC、イオンの公式アプリiAEONのバックエンドシステムであるASPB(ASPB: Aeon Smart Platform for Business)および大規模データ分析基盤ASPD(ASPB: Aeon Smart Platform for Data)の開発だ。これらのシステムは、イオングループ全体の事業を支える重要なインフラストラクチャーとなっている。
イオングループの一員として、DMCはイオンの事業を深く理解したパートナーとして位置づけられており、日本側ではイオンスマートテクノロジー(AST)がDMCと連携し、DMCで開発されたシステムを日本に導入・展開している形だ。
DMCは、全体で約230名の従業員を擁する組織体制となっている。その中核を成すのが、約80名のエンジニアからなるASPB開発チームと、約60名を抱えるASPD開発チーム。これらの技術チームに加えて、日本語通訳や窓口業務を担当する国際部のメンバーが日本を含んだ海外とのスムーズなコミュニケーションを支援している。さらに、産品と呼ばれるチームが、要件定義・詳細設計・仕様管理も含めたプロジェクトマネジメントを担当し、プロジェクトの円滑な進行を支えている。
今回は、実際に3ヶ月間DMCに常駐経験のあるAST ASPB開発ディビジョン ディレクターの北川と、AST プロジェクトマネジメントディビジョン ディレクターの中島に話を聞いた。以下では、彼らの経験をもとに、主にコミュニケーションと品質管理という観点から、大規模システム開発における海外拠点との効果的な連携のためのTipsを見ていきたい。
Ⅰ コミュニケーション
1. 文化の違いを理解する
日本と中国は地理的に近接しているにもかかわらず、ビジネス文化、社会規範、そしてアプリやサービス品質に対する許容度において顕著な違いが存在する。
北川は、中国のビジネス文化の特徴として、スマートフォンを中心としたデジタル化の進展を挙げている。 たとえば飲食店では、机の上にある2次元コードを読み取ってメニューを確認し注文する方法が主流だ。北川は「スマートフォンがなければオーダーもできないし、支払いもできません」と説明する。

また、イオンのデジタルサービスという観点から見ても、日本とは少し事情が異なる。中国版iAEONは、単体のアプリもあるが、ほとんど市場に出回っていない。代わりに、WeChat PayやAlipay上で動くミニアプリとして提供されている。ユーザーはこれらのプラットフォーム内でイオンを検索し、通常のECアプリと同様の画面で購買を行う。さらに、ユーザーの感覚も日本と中国とでギャップがあるという。
WeChat PayもAlipayも、アプリが動かなくなってしまうことが頻繁にあるのですが、中国の人たちを見ていると『アプリが落ちたらまた再起動すればいいじゃん』という感覚が一般的なようです。日本の場合、そういうことが起こればアプリの低評価につながりますし、二度と使わないというユーザーも一定数いると思います。(北川)
こうした文化の違いは、大規模システムの設計にも影響を与えている。中島は「日本では本番環境でのバグは極力避けたいという考えが強いのですが、中国では、多少の不具合があっても後から修正すればよいと考える傾向がありました」と、品質に対する認識の違いがあるとする。
北川は当初のDMCとの関係性についても「私たちは最初、国内のSIerと同様に接していましたが、DMC側はイオングループの一員としてより深い関与を期待していました」と齟齬があったことを明かしている。
これらの違いを乗り越えるため、中島は「文化の違いがあることを前提にコミュニケーションして、まずは同じスタート地点に立つことが大切」と、相互理解の重要性を強調している。
TIP: 相手の文化や仕事の進め方を理解し、尊重する姿勢を持つ。また、相手国のビジネス環境や日常生活の特徴を理解することで、より適切なシステム開発が可能となる。
2. 市場環境の違いを考慮してシステム設計する
14億という人口を抱える中国の市場規模の違いが及ぼす影響も大きい。配達員の数も日本とは比較にならないほど多いなかでは、ネットスーパーやECなどのシステムで重要視すべきポイントも異なってくる。さらに、インフラコストの違いも重要な要素となる。
中国ではそもそも電気代をはじめとする重要インフラのコストが安いんです。そのため、高スペックのサーバーを何百台も使うような設計も可能となりますが、日本ではそうしたアプローチは現実的ではありません。(北川)
一方で、イオングループという観点で見ると、日本のほうが圧倒的に市場が大きく、店舗数では中国の50倍ほどの規模となる。このため、中国ではうまく稼働していたシステムも、日本へ持ち込むとまったく動かないケースもあったという。
こうした中国の実情を踏まえ、ASTでは日本の特性に合わせたシステム最適化を行っている。北川は「日本向けのシステムでは、ロジックでいかにスピードを上げるかなど、より効率的なリソース利用やAKSやDBなどインフラリソースの分割・最適化が必要となります」と述べている。
TIP: システムの設計や開発を行う際は、各国の市場環境、インフラコスト、人口規模などの違いを十分に考慮する。
3. face to faceのコミュニケーションで相互理解と信頼関係を構築する
こうした文化や市場環境の違いを深く理解するためには、やはりface to faceのコミュニケーションが効果的だ。北川は「エンジニアと直接対話し、彼らの考えや懸念点を直接聞くことが大切だった」と現地常駐の効果について振り返る。
もともとDMCのメンバーとは、資料や図などをあまり用いないで口頭で議論することが多く、空中戦になりがちでした。さらに、オンラインでのコミュニケーションとなると、誰が何を話しているのかわかりづらく、時間ばかり経っていくことにフラストレーションを感じていました。
通訳を介すのは同様ですが、実際に現地に行って、ロジックの考え方などをエンジニアと直接話したり、会議中にいろんな人に話を振ったりなど密なコミュニケーションを取ることで、思っていた以上に議論が円滑に進むようになりました。(北川)

こうした経験から北川は、最低でも半年程度の常駐期間が効果的だと提案する。さらに今後は、年間を通じて数ヶ月ずつローテーションでチームメンバーをDMCへ派遣することも考えているという。
TIP: 大規模システム開発プロジェクトでは、可能な限り定期的に対面でのコミュニケーションの機会を設ける。短期の相互訪問や常駐などを通じて、チーム間の理解を深める。
4. 視覚的なコミュニケーションツールを活用する
構成図やフローチャートなど視覚的なツールを利用してコミュニケーションをとることは、言語の壁がある海外連携では特に重要となる。
品質の考え方について齟齬が発生していた際、ホワイトボード上にフローチャートを書いてロジックを説明してもらいました。また、こちら側も、日本の市場が中国の50倍ほど大きいため、日本では0.1秒の遅延が積み重なると大きな問題になることを視覚的に示し、納得してもらうことができました。絵であれば、言葉が通じなくとも伝えやすいため、お互いの考えをより理解しあえるようになります。(北川)
TIP: 大規模システムの複雑な概念や技術的な内容を説明する際は、視覚的ツールを積極的に活用する。これにより、言葉の壁を越えた理解が促進される。
Ⅱ 品質管理
5. プロセスを標準化して認識を合わせる
海外拠点との連携においては、品質管理も大きな課題の1つとなる。特にイオンのASPBの場合、ライセンス方式で製品が提供されているため、品質向上や安定供給を実現する難易度は高い。
品質管理の難しさは、上記で挙げたようなコミュニケーションの課題も要因となるが、中島は、プロセスの標準化の重要性についても強調する。
各プロジェクトでプロセスや要件定義のフォーマットが異なっていたため、さまざまな取り組みを行っているにもかかわらず、なかなか品質が上がらないという状況でした。そこで、開発プロセスをフロー化し、共通のフォーマットや手順を定義。その背景や目的を明確に伝えるようにしました。(中島)

中島は、現在も試行錯誤の途中としながらも、特に要件定義ドキュメントのレビューが効果的だったと振り返る。
当初、DMCがきちんとしたドキュメントを作成していないのではないかと懸念していましたが、出張のタイミングで詳細を確認してみると、DMCは日本側から伝えられた要件をベースに自分たちの解釈をドキュメント化していたのです。そこで、このDMC作成の要件定義ドキュメントをレビューすることにしました。(中島)
この取り組みにより、大きな改善が見られたという。
それまでは、ASTがDMCに要件を伝えてから、開発が終わって日本の環境でテストされるまで、どんなものができあがるかわからない状態でした。しかし、DMCが作成した要件定義ドキュメントをレビューすることで、要件が正しく理解されているかどうか、認識にずれがないかを早い段階で確認できるようになり、結果として品質の改善につながりました。(中島)
TIP: 大規模システム開発プロジェクトの進め方、ドキュメンテーション、コミュニケーションのプロセスを標準化し、両拠点で共有、同じ認識を持って取り組む。
6. 十分な開発・テスト時間を確保する
海外連携では、前述した文化の違いを考慮して、十分な開発・テスト期間を確保することの重要性を明確に伝える必要がある。
DMCには『100人月の作業が必要なら100人を投入すれば済む』という"人月神話"的なカルチャーが根強く残っていました。たとえば、我々が3ヶ月かかると見積もった作業を、DMC側は3倍の人員を投入すれば1ヶ月で完了すると考える傾向にありました。結果として、テスト期間が十分に確保できず、受け入れテスト時のバグが多かったり、本番環境でもバグが見つかって追加でリリースが必要になったりと、品質に問題が生じていました。(北川)
現在は、品質向上のために十分な開発・テスト時間を確保することの重要性を伝えているほか、リリースサイクルを見直し、各フェーズに十分な時間を確保するよう改善を進めている。
TIP: 大規模システム開発では、無理のないスケジュールを組み、特にテストフェーズに十分な時間を割り当てることで、品質の向上につなげる。海外連携の場合、この点を明確に伝え、合意を得ることが特に重要となる。
7. 品質に対する共通認識を構築する
品質向上に向けては、そもそも「品質」とは何か、同じ目線で語れる状態にする必要がある。つまり、品質に対する共通認識を構築しなければならない。そこでASTでは、具体的な取り組みとして現在、バグ分類の統一を進めているところだという。
日本側では、テスト結果を確認する際、バグの件数だけでなく、コーディングミスによるバグ、設計ミスによるバグ、環境に起因するバグ、といった具合に、バグの原因も重要視します。これらのバグ原因の分類をもとに、バグ発生の傾向を分析し、設計・開発プロセス、テストプロセスの振り返りを行います。
実は、このバグ分類がASTとDMCでバラバラでした。バグの見方が違うと、同じ目線で品質を語ることはできません。そこで、ASTのQA担当とDMCのQA担当が協力して、バグ分類の統一を行うことにしました。この取り組みは、まだ着手したばかりの段階で、今後品質改善のためのインプットとしていきます。(中島)

TIP: 品質管理の指標を統一することで、より効果的な品質改善が可能となる。
8. 組織構造を最適化する
大規模システム開発プロジェクトの成功には、適切な組織構造と各チームメンバーの専門性が重要な役割を果たす。ASTのASPB開発チームは、この点に着目し、大幅な体制変更を計画しているという。具体的には、機能ごとに担当を配置して理解を深め、全体的な安定化とサポート体制を強化していく考えだ。
ASPBチームの現状の課題として、マーケティング・プロモーション部分の開発、全体的な安定化、システムのリリースという3つの領域に注力するあまり、ネットスーパーやECなど特定の事業領域へのサポートが十分でなく、ASPB自体の理解もあまり進んでいないという状況がありました。
そこで、注文、在庫、商品……といったような、ASPBの11個のセンター(機能)ごとに担当を配置することで、各機能やアーキテクチャの理解を深めていきたいと考えています。(北川)
TIP: 大規模システム開発プロジェクトでは、組織構造を定期的に見直し、最適化することで、品質向上、開発効率の改善、そして事業ニーズへの迅速な対応が可能となる。
文化や言葉の壁を越えたグローバル展開への道筋
北川は最後に、海外拠点との連携における文化や市場環境、開発アプローチの違いについて、以下のようにコメントした。
確かに、文化や市場環境、開発の考え方にはギャップが存在します。しかし、能力や技術レベルに関しては、どちらが優れているということはないと考えています。重要なのは、これらの違いを認識したうえで、日本市場に導入する際には日本の環境に適した形に調整していく柔軟性です。(北川)
一方、中島はコミュニケーションの重要性と、それに伴うコストについて警鐘を鳴らす。
海外拠点との開発プロジェクトでは、コミュニケーションコストが通常の3倍以上かかる可能性があることを覚悟しなければなりません。これには十分な時間と労力の投資が必要です。また、相互理解を深めるためには、プロジェクトの初期の段階で、直接顔を合わせてコミュニケーションを図ることがやはり効果的だと思います。(中島)
イオングループとしては、日本と中国だけでなく、ASEANにもDXを展開していくことを視野に入れている。文化的な違いや言葉の壁は確かに存在するが、それらを乗り越えることで得られる価値は計り知れない。一歩ずつ着実に前進しながら、真のグローバル展開を実現していくことが、これからの企業にとって重要な課題となるだろう。
イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
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※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

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