
この記事に登場している人
岸本 哲生
Tetsuo Kishimoto
イオンスマートテクノロジー株式会社 iAEONディビジョン iAEON企画ユニット ビジネス開発チーム マネージャー
元イタリア料理の調理人。その後IT業界に転じ、ヤフー(現LINEヤフー)、PayPayで数々のサービスの企画、事業開発、プロダクトマネジメントに携わる。現在はイオングループのトータルアプリ「iAEON」アプリのプロダクト企画と事業開発を担当。
この記事を読むとわかること
・2024年6月に全国リリースしたiAEONアプリ レシートレス機能が誕生した理由とは
・最難関だった「現場オペレーションの理解」を促したのはグループ企業間の連携だった
・すでに利用率5%超える企業も登場。少人数チームでの開発でも多くの人の行動を変えていく
小売業に関わるシステム開発は、深いドメイン知識が必要だ。外部の企業に開発を依頼したものの、ドメイン知識の浅さに頓挫したプロジェクトの話は至る所で聞かれる。イオングループは、グループ一丸となった開発体制で、この壁を乗り越えようとしている。
2024年6月、イオングループのスマートフォンアプリ「iAEON」は「レシートレス機能」を実装した。そのプロジェクトも、現場オペレーション理解の壁があった。それをどう乗り越えたのか。企画担当であるイオンスマートテクノロジー(AST)の岸本 哲生と、イオンアイビスの櫻田 良郎に開発の経緯を聞いた。
【目次】
「ちょっとした便利」を提供するレシートレス機能
買物のたびに渡されるレシートは、全く不要という人もいれば、絶対に持ち帰りたい人もいて、その扱いが難しい。不要な人にとっては、受け取ってすぐにゴミ箱に直行ということが少なくないだろう。
iAEONアプリが提供を開始したレシート機能は、ユーザーのこのようなレシートに関する煩わしさを解消する。お客さまがアプリ上で電子レシートの利用を選択すると、紙のレシートは発行されずに、アプリに紙のレシートと同じデザインのレシートを保存する仕組みだ。どの店舗でどんな買物をしたのか、後でレシート画面から参照することもできるし、ある店でその月に何円分買物をしたのかも確認できる。ちょっとした便利さがうれしい機能だ。
月の買物の合計金額が見られる
個別のレシートもレシートの形状で見ることができる
このレシートレス機能開発の背景について、開発に関わったイオンアイビスの櫻田はこう語る。
5~6年ほど前からPOSベンダーさんが電子レシートのサービスを提供しはじめました。当グループでも、当然電子レシート導入について検討は進めていて、一度POSベンダーさんが提供する電子レシートパッケージの導入も考えたのですが、セキュリティ上の懸念などを背景に、自社でお客さまのレシートデータは管理すべきという結論に至りました。(櫻田)

イオングループのPOSや基幹システムを開発・運用しているイオンアイビスでは、2021年頃からイオングループだけで完結する電子レシートシステム構築の検討を開始。実際に開発に着手したのは2023年のことで、既にグループ統一アプリの「iAEON」がスタートしていたため、レシートレス機能はそちらに組み込む方が適切だという結論になった。
そこでiAEONアプリ開発を行っているイオンスマートテクノロジー(AST)とイオンアイビスがタッグを組んで、レシートレス機能の開発をスタートした。
POSレジで発行されたレシートのデータを蓄積する機能の開発をイオンアイビスが、サーバ上に保存された電子レシートデータを照会して、iAEON利用者が使いやすいようにアプリ上に表示する部分をイオンスマートテクノロジーが担当することとなった。
ドメイン知識の壁を越えたグループの知見
ASTでこの機能の企画に携わった岸本が「最も難易度が高かった」と振り返るのがドメイン知識の把握とレシートに関する細かいオペレーションの理解だった。通常の電子レシートサービスにないような、イオングループならではの、細かい運用上の仕様を盛り込む部分は何度も試行錯誤を繰り返したという。
「レシート」と一口に言っても、背後にはさまざまなオペレーションが隠れている。
たとえば「返品」の扱い。返品を求めるお客さまに対し、紙のレシートで返品に応じる場合でも様々なオペレーションが存在している。領収書を発行したときの対応や、イベントの抽選券の扱い、メーカーが実施しているキャンペーンへの応募…などなど、実店舗という現場において、実は紙のレシートを軸に多種多様なオペレーションが回っている。
その世界観を、いかにアプリ上に実現するのか。
要求整理、要件定義は非常に難易度が高い部分でした。加えて詳細設計部分が難しかったように思います。(岸本)

転機になったのが、開発の途中で、小売のグループ中核企業といえるイオンリテールのオペレーション部隊がプロジェクトに参画したことだった。同社は現場に精通したメンバーを抱えている。本当に現場での利用に耐えうるのかを、ともに検証した。イオンリテールから多くの厳しい意見をもらいつつ、岸本たちは一つ一つ仕様を固めていった。
1番ありがたかったのはイオンリテールさんからのたくさんの指摘でした。彼らは常に店舗に入り込んでいますので、何かオペレーションについて聞きたいことがあればだいたいの答えは返ってきます。(岸本)
イオンリテールという現場の知見を熟知した集団によるアドバイスが本機能の開発を順調に前進させた。
岸本がイオンリテールのメンバーと相談をしつつ要求を整理し、ASTのPM、エンジニア、デザイナーが一緒になり議論して仕様を固めていった。実現方法を含めて、お客さまに対するUI/UXをゼロベースから検討する。
ASTは小売以外の出身の人が多い。だから0ベースで考えることが多く、他社事例はあまり参考にしませんでした。アジャイルな開発体制の中で、どんな形であればお客さまや従業員さんたちにとってよりよいアプリになるのか。システム的にも実現できるのかを考えるところが、一番苦労したところであり、一番面白い部分でもありました。(岸本)
たとえばキャンペーンなどに応募するためのオペレーションは、アプリの中でも何回かクリックを経ないとたどり着けないところに配置する。返品対応であればアプリ上のレシートに表示されたバーコードをスキャンする必要があるが、バーコードを拡大表示する機能を実装する…など、さまざまな現実世界のオペレーションのアプリへの実装方法を皆で検討して実装した。
受発注の関係ではなく、アジャイルなチームでの開発は、岸本にとってはモノづくりの楽しさを感じられる部分であったという。
開発メンバーは少数精鋭だ。AST側は企画を担当した岸本やPM、フロントエンドのエンジニアが5名、バックエンドが2名。テストやデザインのメンバーを含めても10名程度という非常に小さなチームである。
イオンアイビス側は外部に開発を委託しているところもあり2名のみ。十数名のチームで、日本全国のiAEONアプリユーザーの行動に大きな影響を与えるプロダクトを開発できるのは、「現場がある小売業×デジタル」という仕事ならではといえるだろう。
2023年10月から数店舗でパイロット版をリリース。店舗での検証を経て、2024年6月より19社4,000店舗でレシートレス機能の全国本格展開がスタートした。同年9月19日には電子レシートの発行枚数が500万枚を突破した。
利用率は想定していたより好調だと岸本はいう。
イオンでは、買い物をしたお客さまのうち約10%が電子レシート機能を利用すると、店舗で削減されるロール紙が、樹木に換算して年間約7.8万本分削減できると試算している。10%が一つの目標になっているわけだが、岸本によると、2024年9月現在で既に利用率が5%を超えている事業会社もあるという。
これまで日本で電子レシートが一般消費者の間で話題になったことはほとんどなかったと認識しています。新しい行動の提案なので、一気に広がるものではないと考えていますが、そのなかで5%を達成できたのは、個人的にはとても順調な利用率の推移と考えています。(岸本)

生活にとって大きな変化は、静かにスタートするものなのかもしれない。
熱心なファンの多い「黄色いレシート機能」を実装したい
岸本が「今取り組めていなくて今後していきたいこと」として考えているのが、「黄色いレシート機能の実装」だ。
黄色いレシートは、2001年からイオングループが取り組んでいる社会貢献活動である。毎月11日にイオングループ各社の店舗で発行される黄色いレシートを、店舗に設置されている「応援したい団体」のボックスに投函する。店舗では集まったレシートの合計金額を団体ごとに集計し、レシートの合計金額の1%を各団体の活動に役立つ贈呈品の提供という形でサポートしていく。お客さまの中でも熱心なファンが多い取り組みの一つである。
黄色いレシートはiAEONアプリ上でシステム的な対応ができていない状態です。今後、iAEONアプリ上でレシートを任意のボランティア団体に宛てて投函するような仕組みを作っていきたいと考えています。黄色いレシートのオペレーション自体かなりアナログな世界なので、レシートレスの立ち上げ以上の大変さがあるかもしれません。アイビスさんやイオンリテールさんのお力を借りながら、共同開発していきたいと考えています。(岸本)
岸本は、このプロジェクトを通じてプロダクトマネージャーとして大きく成長したと実感している。全国同時リリースという前例の少ない大規模プロジェクトにおいても、いかにステークホルダーを巻き込むのか、緻密にコミュニケーションを続けるべきか…その重要性に気づけたことが、自身の成長に大きく寄与したという。
小売業の深いドメイン知識がない中で、関係各所との密な連携によって紙のレシートのオペレーションを徹底的に理解することができたのも大きな学びでした。新機能に関わる従業員のストレスを増やすことなく、スムーズなオペレーションを実現できるUI/UXをチームでゼロから構築できたことは、私にとって非常に貴重な経験です。(岸本)
小売業がお客さま向けに提供しているアプリは、一見単純そうなものでも、その背景には膨大な現場のオペレーションが関わってくる。その整理されていないオペレーションの一つ一つを解きほぐし、エンジニアやPM、デザイナーが知恵を出しながら、アプリ上に新しい機能を展開していくのは、モノづくりの面白みの真骨頂といえよう。
自分たちのチームが開発したプロダクトが膨大な人に利用され、社会に、生活に影響を与えていくのは、エンジニアリングの本懐といっても過言ではない。

イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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