累計51億円の寄付の仕組みのDX化。「実店舗×デジタル」の難関に挑むiAEON“黄色いレシート”機能の開発ストーリー

累計51億円の寄付の仕組みのDX化。「実店舗×デジタル」の難関に挑むiAEON“黄色いレシート”機能の開発ストーリー

2025/6/10

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この記事に登場している人

岸本 哲生

Tetsuo Kishimoto

イオンスマートテクノロジー株式会社 iAEONディビジョン iAEON企画ユニット ビジネス開発チーム マネージャー
元イタリア料理の調理人。その後IT業界に転じ、ヤフー(現LINEヤフー)、PayPayで数々のサービスの企画、事業開発、プロダクトマネジメントに携わる。現在はイオングループのトータルアプリ「iAEON」アプリのプロダクト企画と事業開発を担当。

    持田 透

    Toru Mochida

    株式会社ベイカレント・コンサルティング
    新卒でアクセンチュア株式会社に入社し、エンジニアおよびPMOとして複数のシステム開発案件に従事。2024年に現職へ転職し、iAEON開発チームの支援プロジェクトに参画。現在はPOとして複数の案件をリードしながら、iAEONの機能開発を推進している。

    この記事を読むとわかること

    ・紙レシート×デジタルレシートの“二刀流”イベントとは?
    ・巨大キャンペーンのオンライン化、その舞台裏
    ・“RPG級”の業務システム開発に挑む
    ・「イオンらしさ」を活かした今後のiAEONアプリの進化

    毎月11日になると、イオングループの店頭に、引出しのついたボックスが設置される。「イオン 幸せの黄色いレシート」(以下、黄色いレシート)の投函ボックスだ。これは、イオングループの地域ボランティア団体に対する貢献活動の一つで、お客さまが毎月11日に発行される「黄色いレシート」を応援したい団体のボックスに投函するとイオンがレシート金額合計の1%と同額の品物をその団体に寄贈するというもの。

    2001年にスタートした本取組は、2024年2月までに累計約45万団体へ約51億円相当の品物を贈呈している。地域の活性化に貢献している団体と、その団体を「応援したい」というお客さまの気持ちを、イオンがつなぐ活動だ。2025年3月11日、その黄色いレシートの投函機能がiAEONアプリ上にリリースされた。多くのステークホルダーが関わる巨大キャンペーンのオンライン化は、業務内容の理解と把握が一つの山だった。開発の背景を聞く。

    【目次】

    iAEONアプリ、レシートレス機能実装の直後から開発スタート

    今回「黄色いレシート投函機能」の開発を担ったのはイオンスマートテクノロジー(AST)で、 iAEONディビジョン マネージャーを務める岸本と、iAEONフロントエンド開発チームの持田を中心としたチーム。岸本は以下の記事で、iAEONアプリへのレシートレス機能の実装について語り、その際「黄色いレシート投函機能」についても構想として言及していた。

    イオンの“レシートレス機能”開発秘話。現実世界の複雑なオペレーションをどう実装したのか。

    イオンの“レシートレス機能”開発秘話。現実世界の複雑なオペレーションをどう実装したのか。

    黄色いレシート投函機能の開発は、2024年6月、レシートレス機能の実装がひと段落したのちすぐにスタート。

    レシートレス機能開発の当初から「黄色いレシート投函機能」は実装しなければならないとわかっていたものの、レシートレス機能リリース時には、その余力がありませんでした。ですが、お客さまや各小売事業会社からの強い要望もあり、レシートレス機能のリリース直後から、黄色いレシート投函機能の開発に着手することになったのです。(岸本)

    実際の開発は、iAEONアプリの開発を担うASTと、基幹システムやPOSレジ周りの開発を担当するイオンアイビスが手分けして行った。2024年10月にはASTとイオンアイビスが統合されたこともあり、以降は文字通りワンチームでの開発となった。

    オンラインとオフラインのキャンペーンを両立する

    iAEONアプリ上の黄色いレシート投函機能は、以下のような流れだ。

    毎月11日にお買い物をすると、iAEONアプリの電子レシート一覧画面上で、該当するレシートに「黄色いレシートのアイコン」が表示される。そのレシートを選択し、投函するボタンを押した後「応援する団体」をタップすれば、キャンペーンへの参加が完了。店頭にBOXが設置される、各月11日~13日の間であれば、時間や場所を選ばずアプリからレシートを投函できる。

    一見、単純なキャンペーン機能のようにも感じるが、裏側には非常に入り組んだ業務が絡んでいる。レシートレス機能の開発のときにもドメイン知識の壁に阻まれたが、今回の開発も仕様の理解に多くの工数がかかった。

    オフラインで実施されている1年の業務フローを理解しないと、オンラインで何を作ればいいのかを想像することができませんでした。(持田)

    岸本たちが参照したのは3冊のマニュアルだった。1つは店舗向け「黄色いレシートキャンペーン」の実施マニュアル。さらに、黄色いレシートキャンペーンのために用意された「環境社会貢献システム」、「レシート集計システム」のマニュアルだ。これらのマニュアルや業務フローを理解しなければならず、ここにかなりの時間を要した。

    また今回の開発ではすべてをオンライン化するわけではない。オフラインの業務フローも残したまま、オンラインの業務フローと統合していかなければならない。難易度の高さがうかがえる。

    ステークホルダーも多岐にわたる。イオンの各事業会社はもちろん、お客さま、団体、そしてプロダクトオーナーであるイオン株式会社の環境社会貢献部も関与する。

    リリース日に設定したのは年度の切り替わりである2025年3月11日。リリース時期は絶対にずらせないというプレッシャーがあり、使える予算も限られているなかで、持田はさまざまな取捨選択を行わざるをえなかった。

    そこで今回は、レシートレス機能のときと同様に、店舗の現場業務について深い理解がある事業会社イオンリテールのITシステム部や、システムオーナーであるイオン株式会社の環境社会貢献部と議論を重ねながら、最適解を探っていった。

    RPGのような難解さがある業務システム開発

    もう一つ、岸本たちのチームにとっての挑戦となったのは業務アプリ部分の開発だ。店舗の従業員がレシートの投函状況を確認したり、システムオーナーであるイオン株式会社が全体の状況を確認する際などに利用するための管理画面である。岸本たちのチームは、これまで基本的にスマートフォンアプリ開発が中心で、業務システムの開発経験は薄かった。

    業務システムを開発するために、既存のインフラだけではなく、別のインフラのことを理解したり、新しいインフラを作る必要があり、そこはかなり大変でした。
    また、管理画面は、リッチに作ろうと思えばどこまでもリッチにすることができるのですが、スケジュールや予算の兼ね合いで、すべてを叶えることはできません。利用者の意向を汲みつつ、ちょうどいい着地点を探りました。(持田)

    持田は、普段のアプリ開発とはアーキテクチャから異なる業務システム開発に挑戦することになった。たとえば、今回の業務システム側にはフレームワークにSPA(シングルページアプリケーション)を採用しているが、これも彼にとっては初のチャレンジ。SEO対策しなければならないようなものには不向きだが、管理画面のように滞在時間が長く情報量が多いシステムには向いている手法である。

    ユーザーに対する画面の動きへの配慮とは異なり、業務システムは実際の運用で利用者によってどう使われるのかまで考慮しなければなりません。難しい部分ではありましたが、開発PMOとして大きな学びになりました。(持田)

    これまでの経験から、アプリ開発には、チームのメンバーもだいぶ慣れてきていましたので、そちらはスムーズに進んだのですが、裏のシステムづくりはロールプレイングゲームのような難解さがありました。ボランティア団体をどうやって管理するのか、認証をどうするのか、データをどこに配置するのかなど、すべて手探りで。

    認証だったら、「ID/PWでログイン?いや、それは管理が大変だな、いつも使っているVPNの仕組みで認証すればいいのか!…でもあれって誰に相談してどうやって入るんだっけ…?」というように、一つ一つ出てくる疑問について、人づてに話を聞きながら進めていきました。

    私もこれまでユーザー向けのサービスに携わり続けていたので、裏のオペレーションに必要な業務システムの開発ははじめての経験でした。シンプルなシステムなのですが、持田さんと日々チャットや会議で悩み相談しながら、分からないながらも何とか前に進めるといったような、想定していたより大変な開発になりました。(岸本)


    紆余曲折を経て、2025年3月11日に、黄色いレシートの投函機能は無事リリースされた。一部緊急対応などがあったものの、システム的なトラブルというよりオペレーション的なトラブルだったという。

    記念すべき初回の黄色いレシートキャンペーンにはiAEONアプリから1万人以上が参加し、大きな手ごたえを感じた。iAEONユーザーや、レシートレス機能のユーザーが増えるに伴い、今後さらに黄色いレシート投函機能のユーザーも増えていくだろう。

    電子化率が上がれば店舗の工数もより削減できる

    この「黄色いレシート」のオンライン投函機能は、お客さまにとってはいつでもどこでも(※毎月11日~13日)レシートが投函できたり、手元でゆっくり団体を見比べることができる上、環境保護にも貢献できるといういいことづくめの機能だ。一方、店舗にとっても大きなメリットがある。紙のレシートに関わる作業コストの削減だ。

    店舗で実施されるさまざまなキャンペーンは、売場に賑わいを生み出す一方、店舗の従業員に負荷をかけることが多い。黄色いレシートのキャンペーンも例に漏れず、店舗の従業員は「お客さまが提出したレシートを一枚一枚スキャンしてシステムに登録する」という作業が必要で、それなりの人時を要していた。

    しかしアプリから投函された電子の黄色いレシートは、スキャン作業の手間がない。電子化率がより上がれば、店頭作業の負担はさらに減るだろう。どこの店舗も、人手不足で悩んでいる。社会貢献によって働く人に負荷がかかるのは本末転倒だ。電子レシートによるキャンペーンの推進は、店舗の働き方改革にも寄与する。

    次の目標は「イオンらしい」レポート画面

    今後iAEONアプリには、WAON POINTがどれぐらい付与されたか、クーポンでどれぐらいお買い物で節約できたのかを参照するレポート機能も開発していく予定だ。

    そこに、「黄色いレシートでどれだけ環境や地域に貢献したか」という数字を入れたり、電子レシートでエコにどれだけ貢献したのかなどを表示することで、イオンらしいレポートに仕上げていきたいと考えています。(岸本)

    ASTは、今後黄色いレシートとしてBOXに投函されるレシートのうち、20%をアプリ経由での投函にするという目標を掲げている。とはいえ、黄色いレシートを店頭で投函するというイベントは今後も継続するだろうとも岸本は予測する。

    すべてをデジタル化すると、どうしても店頭の盛り上がりが欠ける部分も出てきてしまいます。参加されているボランティア団体様が、店頭でレシートの投函を働きかけるイベントなどを実施されたりすることもあるそうです。その部分はきっと残っていくことでしょう。(岸本)


    実店舗での盛り上がりを支えつつ、従業員の生産性向上に寄与する仕組みを作る。関与する多くのステークホルダーが納得するような最適解を探る。オンラインとオフラインの業務を両立させる…。

    それこそが、実店舗を持つ小売業におけるシステム開発の難所であり、同時に醍醐味なのである。



    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

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    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

    この記事を書いた人

    鹿野恵子

    小売・ITジャーナリスト、編集者
    1978年、宮城県仙台市出身。2001年、早稲田大学法学部卒業後、株式会社アスキー、株式会社商業界(月刊食品商業、月刊商業界)、ITベンチャーを経て2015年に制作会社のプレーンテキスト(http://plain-text.jp)を設立。流通小売業とテクノロジー、スタートアップについての取材・執筆を続ける。現在メルマガ「リテールアトラス(https://retailatlasjp.substack.com/)」運営中。著書に「店舗を読み解く技術シリーズ」、編著書に「リアル店舗は消えるのか?」(発行:日経BP)がある。

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