
数分の作業効率化が数十億円規模の効果に - イオングループの小売DXが示す、スケールメリットを活かした変革の力
2024/12/18
この記事に登場している人
中島 正美
Masami Nakashima
イオンスマートテクノロジー株式会社 OMO開発ディビジョン ディレクター
新卒後、NTT及びそのシステム開発子会社にてシステム開発や新規事業開発に従事。その後、2008年にIBMへ転職し、ERPシステム導入を中心に製造業、小売、広告代理店向けの案件を数多く手がける。2022年ASTにJoinし、2024年4月より現職。主にイオングループの店舗におけるデジタルトランスフォメーションを推進するシステムの開発/導入を進める。
この記事を読むとわかること
・イオングループ全体で約1万店舗超のオペレーションをデジタル技術で業務効率化するASTのソリューションとは
・総合スーパー約500店舗に導入し、数十億円のコスト削減につながるモバイルアシスタント
・作業コスト30%削減、年間百数十億円の増収効果が見込まれる予約販売のデジタル化
・イオングループのDXの真髄は、1店舗の小さな改善が全体で100億円規模の効果を生み出す「スケールの技」にある
バックヤードに戻って在庫確認をする手間が数十分減る。ネットスーパーにおける商品のピッキングが数分短縮される——。一見些細に思えるこれらの改善が、日本最大級の小売業を展開するイオングループにおいては、年間数億円から100億円規模のインパクトを生み出す。
イオンスマートテクノロジー(AST)が推進する店舗DXは、まさに“スケールの技”だ。本記事では、AST プロジェクトマネジメントディビジョン ディレクター 中島へのインタビューを通じて、1店舗あたりのわずかな効率化が、イオングループ全体で巨大な成果につながる様子を紐解いていく。
【目次】
小さな改善であっても、莫大な効果を生み出せる
日本最大級の小売グループとして、総合スーパーや食品スーパー、ドラッグストアなど、多様な業態で全国に店舗を展開しているイオングループ。店舗数は約1万店舗を超える。その膨大な数の店舗と、それに伴う大規模な顧客基盤は同グループの強みである一方で、業務効率化やサービス向上を図るうえでの課題でもあった。
中島は、ASTの取り組みが始まる前の状況をこう説明する。
店舗や業態ごとに課題はさまざまですが、手作業が多く残っている、さらには使うシステムごとに利用する端末が異なるため非効率が生まれているといった課題は共通しています。結果としてより多くの工数や時間が必要になっていました。(中島)
ASTの役割の1つは、こうした課題に対してデジタル技術を活用したグループ共通のソリューションを提供することだ。特筆すべきは、1店舗あたりでは小さな改善であっても、イオングループの規模で展開することで、莫大な効果を生み出せるという点だ。コスト削減効果はもちろん、そこで生み出された工数を店舗サービスの拡充などにつなげていくことで、顧客満足度向上という効果も期待できる。
本記事では、ASTが推進する3つの店舗デジタル化施策の事例をもとに、その詳細について見ていきたい。
事例1. モバイルアシスタント:リアルタイムな店舗管理
従来、店舗の売上や在庫状況を確認するには、バックヤードの作業室にあるパソコンを使用する必要があった。さらに、POSデータが店舗システムに反映されるまでには数時間のタイムラグがあり、リアルタイムの情報が得られないという課題もあった。
これらの課題に対して、ASTが開発した「モバイルアシスタント」では、スマートフォンや専用端末を利用して、売上、在庫、欠品、廃棄情報などの包括的な店舗データをほぼリアルタイムに閲覧することができる。店舗間の比較やグラフでの表示が可能なほか、欠品アラート機能や廃棄ランキングなども備えている。場所を選ばず、誰でも簡単に操作できる点も特徴だ。
モバイルアシスタントの導入によって、バックヤードまで戻る時間や資料作成時間が不要になったことで、大規模な総合スーパー1店舗あたりで月間総労働時間の8%程度の作業時間削減効果があるという。中島は「1店舗当たりの削減効果から算出すると、総合スーパー約500店舗だけでも月あたり20数億円のインパクトがあります」と語る。現在、モバイルアシスタントは小規模店も含め約1500店舗に導入されており、その影響の大きさが際立つ。
また、今後の展開として、経営層向けシステムとの統合を計画しているという。
現場の従業員、店舗マネージャー、本社スタッフなど、さまざまな立場のユーザーが同じシステムを利用できるようにしたいと考えています。ユーザーの役割に応じて表示するメニューや情報を変更するだけで、1つの端末からすべてをカバーできるようにする。そうすることで、情報の一元化と業務の効率化をさらに進められると期待しています。(中島)
事例2. 「承りシステム」の統合:予約販売のデジタル化
イオングループの各店舗の店頭では、お中元やお歳暮、おせちなど、季節の贈答品や特別商品の予約販売を行っている。同社ではこの業務を「承り」と呼んでいる。従来は、店頭受け取り用と贈答用(ギフト)で異なる承りシステムを使用しており、従業員は状況に応じて使い分ける必要があった。また、手書きの注文書を使用するなど、非効率な面もあった。
ASTは、これらの課題を解決するために、承りシステムの統合を実施。店頭受け取りとギフト発送を統合し、タブレット端末を使用したデジタル注文受付を可能にした。同システムは、2024年のお中元販売からPoCとして数店舗に展開されており、お歳暮やおせちなどの冬ギフト販売でさらに導入店舗が拡大される予定だ。
中島は、この新システムで期待される効果を次のように説明する。
システムの画面遷移なども工夫したことで、1つの注文を受けるのに平均30分程度かかっていた作業が約30%削減できます。現時点では全国約1600店舗で展開しており、我々の試算では年間数億円のコスト削減につながります。実際に導入可能な店舗数は今後増えていくため、効果はさらに高まると見込んでいます。(中島)
新システムによる作業効率化は、処理可能な注文数の増加にもつながる。これにより、予約販売商品の売上が前年比で約20%増加する可能性があり、年間で百数十億円の増収効果が見込まれている。
また、デジタル化によるDM(ダイレクトメール)発行コストの削減効果も期待されている。従来、お中元やお歳暮の時期には紙のカタログ冊子をDMとして発送していたが、新システムの導入により、その一部をデジタルで代替できるようになる。これにより、年間数億円のDM発行コスト削減効果が試算されている。
コスト削減効果だけでなく、顧客体験の向上も期待できる。たとえば、ランドセルの予約では、画面上で色や肩紐の形状などをカスタマイズしながら注文できるようになり、よりインタラクティブな購買体験を提供できるようになった。テレビ取材を受けるなど、注目度も高い取り組みだ。
今後は、同システムとECプラットフォームの統合を目指しているという。
近い将来、ECシステムでも承り業務をできるようにしていきたいと考えています。今まで店舗のカウンター横のスペースに行って従業員さんと対面で注文していたお中元を、お家でソファーに座って選べるようになる。そうした世界観を目指して準備を進めています。(中島)
事例3. デジタルピッキング:ネットスーパーの効率化
ネットスーパーでは、注文された商品を実店舗の商品棚からピッキングし、梱包して配送する必要がある。従来は、実店舗で紙のリストを見ながら商品を集め、手作業でチェックしていた。この方法では作業効率が悪く、1日に処理できる注文数に限りがある。
そこでASTが開発したのが、デジタルピッキングシステムだ。このシステムでは、ハンディターミナルを使用し、注文情報のデジタル表示、商品の陳列棚情報の表示、最適なピッキングルートの提示といった機能を提供している。現在、デジタルピッキングは関東地域を中心にイオンリテールの160店舗で導入されており、即時配達サービスへの適用も計画されている。
ピッキングの方式によって異なるが、作業効率としては1.5倍程度の効率化を実現。昨対比で114%と売上向上にもつながっているという。
イオングループの店舗DXは、点と点を線でつなげるフェーズへ
今後の展望について、「これまで個別に開発してきたモバイルアシスタントと経営層向け機能との統合、ネットスーパーとデジタルピッキングの一体化、更に即時配達機能の具備など、『点』で作ってきたソリューションを、今では『線』でつなげていく段階にあると考えています。また、承りシステムとECの統合の先にはマーケットプレイスへの展開も視野に置いています」と語る中島。マーケットプレイスは、ASTが開発しているECシステムをベースに構築される計画だ。

イオングループの店舗DXは、ASTを中心に着実に進展している。今回紹介した3つの主要施策により、店舗業務の効率化と顧客体験の向上が実現されつつある。注目すべきは、これらの取り組みがイオングループの規模で展開されることで、1店舗あたりでは小さな改善が、全体では数億円から100億円規模の効果を生み出している点だ。この「スケールの技」こそが、イオングループのDXの真髄といえるだろう。
ASTの挑戦は、日本の小売業の未来を形作る重要な一歩となっている。技術革新を通じて、効率化だけでなく、顧客サービスの向上、さらには食品ロス削減や労働力不足対策といった社会課題の解決にも貢献していく可能性を秘めている。
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