イオングループのIT部門は「守り」から「攻め」へどう変わったのか?

イオングループのIT部門は「守り」から「攻め」へどう変わったのか?

2025/9/25

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この記事に登場している人

内藤 由美

Yumi Naitou

イオンスマートテクノロジー株式会社 コーポレートシステムディビジョン 専門システムユニット シニアマネージャー
チェーン調剤薬局およびグループ会社のウエルシア薬局にて調剤事務教育や調剤システムのオペレーションなどに従事。
2018年イオンアイビスへの出向を経て2024年イオンスマートテクノロジーに転籍。バックオフィス系システムの維持運用やエンハンス、ヘルプデスクの統一などに取り組む。

    この記事を読むとわかること

    ・薬局事務からIT部門のシニアマネージャーへ、異色の経歴でチームを牽引
    ・「受け身」から「攻め」へ、発言数倍増・残業24%減を実現した改革の軌跡
    ・現場視点と心理的安全性を重視し、従業員満足度から顧客満足度向上へ
    ・次世代のエース育成とIT部門のDX推進で、巨大グループの生産性向上に挑む

    発言数倍増、残業約24%減――。

    巨大イオングループのIT部門でチームに大きな変化をもたらしているのが、異色の経歴を持つ女性リーダー・内藤由美さんです。薬局事務からキャリアをスタートし、現在は複数部門のシニアマネージャーとして、組織を“受け身”から“攻め”へと変革しています。

    本記事では、内藤さんのユニークなキャリアパスとマネジメント哲学について深く掘り下げていきます。

    【目次】

    巨大イオングループの「攻めのIT」を牽引する異色のリーダー

    — まず、現在のイオンスマートテクノロジー(以下、AST)における内藤さんの役割についてお聞かせください。

    内藤はい。現在は、ASTで維持運用やエンハンスを担うコーポレートシステム運用ディビジョンに所属しています。私はその中で、約30のバックオフィスシステムと、調剤システムを運用する専門システムユニットと、ヘルプデスクの管轄および運営サポートを行っているサービスマネジメントユニットという2つの部のシニアマネージャーを務めています。

    専門システム運用ユニットには、調剤システム運用チームと、専門・総務システム運用チームの2つのチームがあるのですが、今は調剤システム運用チームのマネージャーも兼任しています。

    ― 多岐にわたる役割を担っていらっしゃるのですね。ここに至るまでにどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

    内藤実は私は家庭の事情で大学には行っておらず、高校卒業と同時に就職をしました。最初に勤めたのは調剤専門薬局で、薬剤師のサポートをする調剤事務員としてキャリアをスタートさせました。

    薬局の現場には3〜4年ほどいましたね。その後、店舗の業務を理解しているという点が評価されたのか、本部にあるシステム部に異動になったのが、システム部門への道のきっかけです。

    最初は周りの人が話すIT用語が全く分からず、「とんでもないところに来てしまったな」と感じたことを覚えています。調剤業務やオペレーションのことはよく分かっているし、調剤システムに限ればある程度理解しているものの、それ以外のことは全く分からず、苦労しました。

    ただ、システムを使うユーザーの気持ちは理解できるので、ユーザーとシステムを作る人たちの橋渡し役を一貫して担ってきたと自負しています。

    ― 現在チームの改革を進められていると伺っています。その異色のキャリアが、現在のIT部門の改革、特に「攻めのIT」を推進する上でどのように強みになっているとお考えですか。

    内藤今申し上げた通り、私のブレない軸は「店舗を知っていること、オペレーションを知っていること」です。メンバーと話す時も、何かの判断をする時も、現場視点を最も大切にしています。

    例えば、システムにトラブルや不具合が発生した際に、その先にいるお客さまや患者さま、そして店舗の従業員の方々への影響を考えられるかどうかが大きな違いだと考えています。

    システム部門に長くいるとどうしてもシステム目線になりがちなのですが、トラブル発生時には特に、最前線でお客さまの対応をしている従業員の方々の身になって考えるように促しています。

    薬局時代に現場のトレーナーもしていたので、何かあった時に謝らなければいけない立場だった経験が、メンバーにその視点を伝える上で非常に役立っています。

    IT部門を「攻め」の組織に変えるマネジメント

    ― そもそも、チームの改革が必要だと感じたきっかけを教えてください。

    内藤必要性を感じたきっかけは、昨年、イオングループの女性経営者育成プログラムという1年間の研修に参加したことです。その中で自社や自部門の課題を整理する機会があり、初めてシニアマネージャーになった専門システムユニットの課題を整理しました。

    課題は色々とあったのですが、特に「受け身」の姿勢が強いと感じました。ASTは機能会社なので、直接的な利益を生みません。事業会社が稼いでくれたお金でシステムを提供し、給料をいただいている立場です。だからこそ、事業会社視点や事業会社への貢献を常に意識することが重要だと考えています。

    そして本来、顧客満足度を上げ、事業会社に貢献するためには、言われる前に提案をすることが必要です。事業会社が楽になったり、便利になったり、生産性が向上するようなことをシステムを通じて提供しなければならないのに、目先の業務に追われ、積極的になれていないと感じました。

    これが「受け身型から提案型に変わり、攻めの組織になっていかなければならない」と思ったスタート地点です。

    プログラムを通じて、イオンの中期3カ年経営計画などの全社的な数字を知る機会もあり、売上は伸びていても営業利益率が下がっているという厳しい現状を知りました。機能会社として、生産性向上やコスト最適化に寄与し、グループ全体の利益率向上に貢献することが重要だと強く認識しましたね。

    社員一人ひとりが、大きな目標に向かうチームの一員であるという意識を持ち、具体的な行動に移していく必要がある。我々の行動は小さなことかもしれないけれど、その積み重ねがグループ全体の大きな数値達成に繋がるという考えで、モダナイズを進めています。

    ― グループへの貢献のためには、チーム全体が「攻め」のマインドを持ってシステムのモダナイズを進める必要があるということですね。「攻め」のチームへの変革で、内藤さんが大切にしていることや、具体的に取り組んできたことを教えてください。

    内藤顧客満足度を上げるためには、まず従業員満足度を上げることが重要だと考えています。自分に余力がないと、人に優しくしたり、相手の困り事を想像したりすることが難しくなりますよね。

    そこでまずは、人手不足の解消のための業務支援メンバーの投入、マネージャーの交代、若手採用など、人員配置を見直しました。

    また、「攻め」に転じるためには心理的安全性の確保が非常に重要だと感じています。人はポジティブなことは言えても、ネガティブなことや後ろ向きなことは言いにくいものです。しかし、現実を見るためにはネガティブなことにも取り組まなければなりません。

    ですから、「何でも言っていいんだ」「悪いことを言っても叱られない、否定されない」といった雰囲気を作ってきました。

    さらに、一人ひとりに寄り添った丁寧なコミュニケーションを心がけています。定期的に1on1を実施し、バックグラウンドが異なるメンバーそれぞれの悩みに耳を傾け、解決する場としています。担当者が思い悩んで解決できなかった案件があれば、私も一緒に入って解決したり、「こういう風にやると解決できるんじゃない」と背中を見せるようにしています。

    そして、私自身のコミュニケーションの仕方も意識的に変えました。以前は質問されたらすぐに「こうしたら?ああしたら?」とアドバイスをしてしまっていたのですが、提案型に変えるためには自分で考えて提案する力を養う必要があります。

    そこで、質問を増やすようにしました。「どうしてそう思うの?」とか、「こういう視点で考えてみたらどうだろう?」と問いかけることで、相手が本当に望んでいることは何か、担当者自身に考えて気づいてもらうことを促しています。

    ― チームはどのようなプロセスで変化してきましたか。

    内藤最初は、大勢の前だと発言しにくいメンバーもいるので、「チャットで入力してください」と促したり、それでも難しければ「個別で連絡ください」という形から始めました。

    当初は私が「こうしたい、ああしたい」と言う、一方通行のメッセージが多かったのですが、徐々にリアクションが増えました。チャットで「いいね」や「賛成です」といったポジティブなリアクションが増え、黙って聞いているだけだった状態から変化が見られました。

    その後、チャットでしか入力しなかった人がより積極的になり、ポジティブなことは直接発言するようにもなりました。次に、ネガティブな発言も促すために、私が率先して「でもこういうこともあるよね」とネガティブな意見を言うようにしました。

    すると、「内藤さんもそう言っているんだから、言ってもいいのかな」と思ってくれたのか、ネガティブな発言やチャットも増えてきました。「いいね」だけでなく、「ちょっとイマイチです」「しっくりきません」といったリアクションが見られるようになりましたね。

    マネージャーやシニアマネージャーからの発言が多かった中で、担当者から「いいですか」と発言や提案が増えたことも、大きな変化だと感じています。

    特に、昨年の4月から取り組みを始めた専門システムユニットは、双方向のコミュニケーションがかなり活発になり、ネガティブなことも含めて発言するようになりました。今年の4月に着任したサービスマネジメントユニットはまだスタート地点ですが、同じようなやり方で進めていきたいと思っています。

    ― 発言が活発になったことで、チームワークも良くなったと感じることはありますか。

    内藤そうですね。私自身が「一人ひとり得意なことと不得意なことがある」という考えを大切にしています。私はシステム畑出身ではないので、システムに関しては部下やメンバーの方が強いわけです。

    だから、初めは恥ずかしかったですが、彼らには「私はそういう勉強をしてこなかったから、みんなの方が詳しい。だからみんなに頼りたい」と伝えました。その代わり、私は人との距離感やコミュニケーション、運用オペレーション、事業会社視点という部分で強みがあるので、それはみんなにシェアしたいと。

    いわゆる「GIVE & TAKE」の精神です。心理的安全性が確保できたのなら、不得意なところは「これ苦手だから助けて」と周りに助けてもらえばいい。その代わりに、自分が得意なことは自分の担当領域でなくても、手伝ってあげようと。

    これをやることで、一人ひとりの力の解放度が高まり、それが結果的にチームのパフォーマンス向上に繋がると考えています。早い段階から「私はそういうチームを作りたいんだ」と伝えているので、お互いに助け合ったり、困った時には声を掛け合ったりするチームになってきていると感じています。

    個の集合体の力が大きくなることで、チームとして会社や事業会社に貢献し、評価され、感謝されるということがみんなに伝わりつつあるのだと思います。

    ― チームの変革の結果、具体的な実績などは出てきていますか。

    内藤まだまだ道半ばで、具体的な実績は少ないのですが、例えば、残業時間は専門システム運用ユニット全体で約24%減りました(※)。以前は全員がまんべんなく長時間残業をしていましたが、今は残業時間が減ったにもかかわらず、対応できる案件数が増えています。

    これは、業務の棚卸しをして優先順位をつけ、インパクトのあることや効果のあることに集中するようにした結果です。一人ひとりの処理スピードが上がり、キャパシティが増えたと感じています。

    これはまだ第一歩ですが、非常に良い傾向だと捉えています。さらに進めば、案件数が増えたり、売上が増えたりすることにも繋がるはずです。

    ※2025年1月度~8月度(8か月)の専門システム運用ユニットにおける残業時間を集計。月間平均残業時間が最も多かった月と、直近3か月の平均を比較して算出。

    未来を担う「エース級人材」を育てる!戦略的人材育成

    ― 人材育成という観点で、内藤さんの方針やこれまでの取り組みを教えてください。

    内藤一人ひとりの能力を伸ばすためにワークを実施し「自分がやりたいこと」「将来像」「理想の働き方」(WILL)、そして「今できること」「活かしたい強み」「克服したい弱み」(CAN)、さらに「会社や組織がやるべきこと、求められていること」「将来的に必要なスキル」(MUST)といった項目を各自にアウトプットしてもらいました。

    「やりたいこと」と「会社がやってほしいこと」と「できること」が重なる部分が多い状態が理想です。もし、やりたいこととやるべきこと、できることが離れていると、離職したりモチベーションが下がったりする可能性が高いと考えています。

    1on1の際に、自分がどのタイプなのかを問いかけ、必要に応じてアドバイスをしています。集計した内容を全員にシェアすることで、他の人の考え方を知り、自分の考えを深める機会にもなります。

    ― その他に実践されたことはありますか。

    内藤30代のメンバー2名に、コーポレートの会計システムという、イオンの基幹システムの中でも非常に忙しい部門に異動してもらいました。システムの中でも会計や人事、店舗システムのPOSレジのような基幹システムは「花形」とされ、良くも悪くも目立ちます。

    専門システムは「小粒」と見られがちで、障害が発生しても迅速な解決を目指さなかったり、言葉を選ばずに言えば業務がだらだらと進む傾向がありました。それが、他の部署から見ると「緩い」と思われてしまうこともあったのです。

    今回の改革の中で「このままではいけない」というマインドセットが芽生えてきたと思っています。私はこの状況をチャンスに変えたいと考えています。エース級のメンバーを他の忙しい部署に出したのは、専門システムユニットにいるだけでは気づけない「もっと忙しい世界」を経験して欲しかったからです。

    彼らは「内藤さんが言っていたことが分かりました」「全然緩かったです」と気づいたようです。本来は全員にジョブローテーションをしてもらいたいのですが、それは難しいため、30代のこれからを担う人材に挑戦をしてもらっています。

    彼らが活躍してくれればAST全体にとってもプラスですし、最終的には彼らが戻ってきて、今のメンバーを鼓舞してくれたらと願っています。

    巨大な舞台で、「攻め」のIT部門を率いる内藤さんの挑戦は続く

    ― 「攻め」のIT部門のシニアマネージャーとして、今後どのような挑戦をしていきたいですか。

    内藤まず、IT部門なのに手作業が多いことを何とかしたいと考えています。例えば、部門コードの変更や会社統合などの際、担当システムへの影響度調査を手作業で行っています。社内の様々なチェック業務や提出なども手作業が多いのが現状です。

    IT部門自身の中でDXが進んでいないと感じています。これは生産性が非常に低いので、私一人や私たちの部だけでなく、全社を巻き込んで改善していきたいです。

    オペレーションの統一化やDXによって生まれた時間を、人の指導や教育、そして事業会社への貢献といった「人でなければできないこと」にフォーカスし、力を注げるような環境、組織、仕組みに変えていきたいと思っています。

    ― 最後に、チームの変革を続けていくうえで、大切にしていきたいことを教えてください。

    内藤やはり原理原則、原点回帰で言うと「感謝をする」ということですね。当たり前だと思われるかもしれませんが、私は「ありがとう」や「助かった」という言葉を細めに言うようにしています。そうすると、部下も「役に立ったんだ」と感じて、「よし、また次も頑張ろう」という気持ちになるんです。

    挨拶を増やしたり、感謝の言葉を伝えることでコミュニケーションが良くなり、活性化されたという事例はよく聞くと思います。非常に初歩的なことですが、意外とみんなできていないのではないかと感じています。私は自分から積極的にコミュニケーションを取り、感謝や労いの言葉を丁寧に伝えることを心がけています。

    また、「ウェルビーイング」という考え方にも非常に共感しています。一時的なハピネス、例えば「今週末頑張ったら美味しいものを食べに行こう」というご褒美は誰もがやることですが、それは一時的な幸せです。そうではなく、心も体も、そして社会的繋がりや仕事の上でも、「ずっと幸せでいられる状態」を保つことが非常に重要だと考えています。

    私も頑張りますが、メンバーにも頑張ってもらって、どうせやらなければいけないことなら、生き生きと楽しく仕事をしてほしい。辛いことを乗り越えた先に「良かった」と感じたり、「あの時誰かに感謝された一言があったから救われた」と感じたりするような、そういった瞬間を大切にしながら、これからもやっていきたいと思っています。


    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

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