
Agentic Codingがもたらす「開発の民主化」と、エンジニアの新しい価値って何だ? | 今月のイオンネクストCTO樽石~2025年9月号~
2025/9/4
この記事に登場している人
この記事を読むとわかること
・生成AIが事業の現場にもたらす価値とは?
・非エンジニアがAIを使いこなせた背景にあった「対話力」
・エンジニアに必須となるのはAIを活用した生産性の向上
・AIがデジタルを担う未来と、高まるアナログの価値
ソフトウェア開発は、もはやエンジニアだけの領域ではありません。イオングループのネットスーパー「Green Beans」を運営するイオンネクストでは、CRE(ITヘルプデスク)の担当者が生成AIを駆使し、現場の課題を解決するさまざまなツールを開発しています。「開発の民主化」が現場にもたらすものは何なのでしょうか?そしてエンジニアが次に担うべき役割とは。イオンネクストCTO、樽石将人の言葉から探ります。
【目次】
ソフトウェア開発の民主化、その本当の意味
これまで、業務課題を解決するシステム開発はシステムの専門家たるエンジニアの仕事とされてきましたが、生成AIの登場がその常識を覆しつつあります。
今までもノーコードツールをはじめとするさまざまな取組はありましたが、複雑なことをやろうとすると制約が多く、挫折するケースがほとんどでした。しかし、生成AIを使うと、複雑なロジックがいとも簡単に作れてしまいます。これによって、真のソフトウェア開発の民主化が実現されたと、私は認識しています。
かつてクラウドがインフラを民主化したように、生成AIはソフトウェア開発そのものを、エンジニアという職能の枠を超えて解放したのです。
始まりは「Jiraのダッシュボード」―現場が自ら動いた理由
イオンネクストのIT部が2024年から取り組んでいたのが、「トイル」の可視化とその削減でした。
「トイル」とは、
プロダクションサービスを動作させることに関係する作業で、手作業で繰り返し行われ、自動化することが可能であり、戦術的で長期的な価値を持たず、作業量がサービスの成長に比例するといった傾向を持つもの
(出典:SRE サイトリライアビリティエンジニアリング、オライリー・ジャパン)
とされていて、自動化は可能なのにもかかわらず、繰り返し手動で行われている、付加価値の低い作業を指します。
イオンネクストのCRE(ヘルプデスク)業務においてもさまざまなデータ取得や問い合わせ対応という「トイル」がありました。昨年(2024年)の調査では、ヘルプデスクに寄せられるチケットの実に78.9%がトイルで、未来への投資であるシステムの改良に割ける時間は、わずか2割程度に過ぎないことが大きな課題として認識されていたのです。
この悪循環を断ち切りたかったのですが、トイル解消のためのツール開発自体が追いつかない。まさに鶏と卵の状態でした。
この膠着状態を打ち破ったのは、エンジニアではなく、現場のヘルプデスク担当者です。
「開発経験ブランクあり」のヘルプデスク担当者が生成AIでJiraダッシュボードを自作 | イオン Agentic Coding Study No.1


2人は、日々多くの時間を費やしていたJiraのレポート作成や、プロモーションの調査というトイルを解消するため、生成AIツール「Cline」を手に取りました。私が簡単な使い方を実演してみせると、2人は自らの手で試行錯誤を重ね、ついに自動化によってトイルを駆逐するツールを完成させたのです。このことによって、これまで数時間かかっていた作業が、一瞬で終わるようになりました。
なぜ、非エンジニアがAIを使いこなせたのか?
プログラミング経験の少ない2人が、なぜ自ら課題を解決できたのでしょうか。
私は2つのポイントがあったと感じています。
第一に、2人が「現場の課題を最も深く知る専門家」であったことです。日々の業務を通じて、どこに非効率があり、何がボトルネックになっているかを肌で理解していました。その深い知見が、本当に価値のあるツールの着想につながったのだと思います。
第二に、「対話能力」の高さです。ヘルプデスクの業務は、顧客や他部署とのチケットを通じたコミュニケーションが中心になります。テキストでのやりとりを通じて相手の意図を正確に汲み取り、的確な回答を返す訓練を日々積んでいるのです。この能力が、AIに対して的確な指示(プロンプト)を与え、対話を重ねながら望む結果を引き出す上で、極めて有効に働いたのでしょう。
課題を最も知る人間が、AIという武器を手にした。これが、ソフトウェア開発の民主化の本質なのです。
エンジニアの仕事は消えるのか?―短期と中長期の未来像
現場主導でツールが作られる時代、エンジニアの役割はどう変化するのでしょうか。私は短期的には「AIを圧倒的に使いこなす能力」が求められていくと考えています。
システムの構造を理解しているエンジニアは、AIの動きを予測し、的確な指示を与えることで開発速度を飛躍的に高めることができます。私自身、AIを駆使することで、大きな生産性の向上を実現しました。この新しい基準に適応できなければ、エンジニアの市場価値は失われるでしょう。
一方で、中長期的な視点では、エンジニアの役割そのものが大きくシフトすると考えています。デジタルの世界は、いずれAIが自律的にコントロールするのが当たり前になるはずです。そうなれば、人間がデジタルを操作すること自体の価値は相対的に低下していくと思われます。
私の仕事も、会議へのAI秘書の参加やレポート作成の自動化で、多くをAIに任せられるようになりました。その結果生まれた時間で何をするか。私は今、配送拠点に足を運び、クルー一人ひとりと直接対話し、手書きの手紙に手書きで返事を書く、というアナログなコミュニケーションを始めています。
機械的に処理できることは全てAIに任せ、人間にしか生み出せない価値の創造に注力する。これからのエンジニアに求められるのは、デジタル世界をAIによって「完全自動運転」させ、その上で、より高度で人間的な価値を追求することです。
そういう意味で、デジタルとリアルの両方に広大な事業領域を持ち、お客さまとの接点を何より大切にするイオンは、これからのエンジニアにとって、非常に魅力的な挑戦の場となるはずです。
(聞き手・構成:プレーンテキスト 鹿野恵子)
イオンネクストではエンジニアを中心としたデジタル人材の採用を積極的に行っています。樽石と話をしてみたい、Green Beansの事業が気になる…といった方は、カジュアル面談も実施しておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
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