
「JTCは褒め言葉」変革をリードするCTOたちがイオンの今を語った白熱の2時間|AEON TECH HUB #1開催レポート
2024/2/21
この記事に登場している人
山﨑 賢
Ken Yamazaki
イオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO
新卒で大手SIerに入社。その後、Yahoo! JAPANへ転職し数々の新規サービスの立ち上げに携わる。リクルートに入社。大規模サービスの開発責任者を兼任。ゼネラルマネージャーとして組織マネジメントを実施。
その後、複数のベンチャー企業CTOを経て2023年より現職。イオングループ全体を統括するイオン株式会社のCTOとして従事。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)理事。
樽⽯ 将⼈
Masato Taruishi
イオンネクスト株式会社 技術責任者CTO
レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンを経てグーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。 その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。同社の上場の牽引後、22年1月に退職。22年3月より現職。
沖中 優宜
Masayoshi Okinaka
イオン株主会社 ICT企画チーム イオンデジタルアカデミー担当
2007年マックスバリュ西日本㈱に入社後、兵庫・中四国エリアで水産担当と店長に従事。
2022年よりデジタル技術を学び、個人開発WEBアプリでクラウドファンディングに挑戦。
翌年イオン㈱、現チームへ出向。『グループ内40万人超のDXに対するマインド変革』をチームのミッションに掲げ、現場目線でのアプローチを続ける。
この記事を読むとわかること
・イオン副社長とCTOたちが語るデジタル変革への本気度
・JTC脱却、内製化率の向上、エンジニア評価適正化のための工夫など、CTOが常に考えていること
・「ぶっちゃけレガシーなんじゃないの?」に、彼らの答えは…?
2024年2月から、イオンにおける技術の中継地と位置付けた「AEON TECH HUB」を本格的に始動しました。
2024年2月21日に行われた第一回目の主催イベントでは、「JTCを本気で変えるエンジニア開発組織づくりと技術戦略の全貌」と題し、イオンの技術変革を支える経営層や現場のリーダーによるセッション、そしてQ&A形式のクロストークが行われ、イオンのエンジニアリングの「今」と「これから」を熱量高く届けしました。
その模様をお伝えしていきます。
▼イベント詳細ページはこちら
JTCを本気で変えるエンジニア開発組織づくりと技術戦略の全貌 | AEON TECH HUB #1
【目次】
- Key note「イオンはなぜデジタルに投資をするのか?」
- 小売業の「適時・適品・適量」は時代とともに言葉の意味合いが変化している
- Session #1「働き方を変革する。Employee DXのチャレンジ」
- JTCから脱却するためには組織自体が変わっていく必要がある
- 現場で働く従業員こそ、DXの当事者であり改革者である
- Session #2「エンジニアが事業を創る、事業会社イオンネクストの開発組織」
- イオンのデジタルシフト戦略を担うイオンネクスト
- エンジニアが事業を創り、ボトムアップでDXを推進
- Session #3「56万人一丸のDXに向け〜イオンデジタルアカデミーが目指す開かれた学びの場」
- 課題解決に向けた自走力を身につける「プロトタイプ作成トレーニング」
- Session #4「AEON TECH HUBで目指すもの」
- 「AEON TECH HUB」で取り組むイオンのDevRel活動
- Q&A:イオンネクストの自前率の話から「ぶっちゃけ抵抗勢力もいるのでは?」など、他では聞けない話も盛り沢山
- イオンネクストのプラットフォームは、どこまで自前でシステム構築している?
- 接客など人が対応すべき仕事が多い小売業界、デジタルで解決できる課題と、人で改善できる課題の線引きは?
- 「アジャイル」や「小さく始める」を言うだけでなく、本当に現場で実行するために意識していることは?
- 現場に変革意識を持たせるための、最初のアプローチは?
- ぶっちゃけ、抵抗勢力がいたりしてやりづらいとかあるのでは?
- 開発組織に対しての経営陣の理解はある?エンジニアの評価をあげるために何をしている?
- 巨大なイオングループのエンジニアリング組織、今後の展望は?
Key note「イオンはなぜデジタルに投資をするのか?」
冒頭ではイオン株式会社 取締役/執行役副社長 デジタル担当・羽生より、「イオンがデジタルシフトや技術変革を推進している理由」をビデオメッセージにて語りました。
小売業の「適時・適品・適量」は時代とともに言葉の意味合いが変化している
近年、お客さまの消費スタイルがリアルからネットに変わるなか、イオンの掲げる5カ年の中期経営計画の中で「デジタルシフト」を大きな柱のひとつに据えています。
2019年に中国でAeon Digital Management Center(DMC)を設立し、次いで2020年10月にイオンスマートテクノロジー(AST)を立ち上げ、この2社でイオンのデジタルシフトのコアとなる基盤づくりやソリューションの提供、プロダクトの開発などを行っています。
こうした取り組みを進めていく上で、最も重要なのは「“技術”というよりも人“材”が鍵を握る」と羽生は説明しました。

イオンスマートテクノロジーでは、約64%が外部から来た人材で構成されています。
先進的な技術ノウハウを持っている外部の人材と、小売業を知り尽くしたイオン内部の人材を有機的に組み合わせることで、よりレベルの高いデジタルサービスの提供を目指しています。
コーディングの先にはお客さまがいることを想像し、どのようにサービスを提供していけば、お客さまに喜んでもらえるのかという新たな体験を得られるのが、イオンスマートテクノロジーでやりがいを感じてもらえる部分だと思っています(羽生)
イオングループ全体としても、デジタルの力でどのように日本の小売業を変えていけるかを考えています。テクノロジーを活用して、生産性を無限に引き上げていくとともに、将来的には伝統的な小売業のマニュアル作業を65%以上カットすることを見込んでいます。
小売業における大事なキーワードに「商品やサービスは適時・適品・適量でなくてはならない」というものがあります。
昔であれば、季節ごとに合わせてお客さまの必要とする商品を店頭に陳列することが求められていました。それが今では、アルゴリズムを活用して個々のカスタマイズされた情報として、リアルタイムにお客さまへ届けていくことが必要になりました。
言葉は変わりませんが、時代とともに中身は変わってきており、デジタルの力でいかに伝統的な小売業をより良い方向にアップデートしていけるかを胸に、引き続き事業に取り組んでいく予定です(羽生)
Session #1「働き方を変革する。Employee DXのチャレンジ」
続いてはイオングループ全体のデジタルシフトを統括するイオンスマートテクノロジー株式会社 CTO・山﨑が登壇し、「働き方を変革する。Employee DXのチャレンジ」をテーマにプレゼンテーションを行いました。
JTCから脱却するためには組織自体が変わっていく必要がある
Web業界では時代とともに「マルチメディア」や「IoT」、「クラウド」といったバズワードが生まれ、企業もそれらの言葉を意識しながら事業に取り組んでいく流れが続いています。
今まさにトレンドになっているのが「DX」ですが、山﨑は「IT系のバズワードは極端に抽象度が高く、人によって解釈が異なるので“手触り感”が低く、自分ごと化しづらい」と述べました。そんななか、山﨑はDXの捉え方について次のように示しました。
DXは、IT化ではない
DXは、専門性が必須なものではない
DXは、誰かがやってくれるものではない
DXは、革命的な何かではない
DXは、現状を変える志そのもの
つまり、DXは誰かがやってくれるものではなく、現場で働く従業員それぞれが考えていくことが大切であり、翻ってJTC(伝統的な日本企業)を抜本的に変えていくには、組織自体が変わっていく必要があるでしょう。
現場で働く従業員こそ、DXの当事者であり改革者である
DXには「トップダウン型(TDX)」と「ボトムアップ型(BDX)」の2種類があります。

前者はビッグデータに基づいて業務のあり方を変えたり、莫大な投資によって企業全体にソリューションを提供したりと、経営層の意思決定が必要となり、現場からのDX推進は生まれにくくなっています。
一方で後者は、非エンジニアの従業員が日々の煩雑な業務を改善していく意識と志が求められることから、「現場で働く従業員こそ、DXの当事者であり改革者である」という意識を持つことが重要だと山﨑は話しました。
イオンでは、紙の値札から電子棚札への切り替えやタブレット端末の導入、AIを使った商品の需要予測など、トップダウン型でさまざまなデジタル化を進めていますが、現場で働く従業員の意識改革こそEmployee DXの本丸だと言えます。
イオンが取り組むDXの全体像としては、最先端のテクノロジーを用いた「専門性の注入」と、現場で働く従業員の「変革意思の発現」の両面から取り組んでいます。
DXはどうしてもデジタル化の手段に目を向けがちですが、本当に見なければならないのは現場で働く従業員の目線です。従業員が常に業務の効率性を疑って、それに対してどう変革していくかの意識醸成が大きな肝になっていると考えています(山﨑)
山﨑によると、イオングループ全体で働く56万人の働く時間が1分でも短縮されれば、それだけで70人月分削減できるそうです。
「現場に神宿る」という言葉もあるように、DXを自分ごと化していくためには、エンジニアが主導するのではなく、ボトムアップによる現場の改革がDXの一丁目一番地と言えるのではないでしょうか。
※こちらの記事では、より深くエンジニア組織や価値観について語っています。
Session #2「エンジニアが事業を創る、事業会社イオンネクストの開発組織」
セッション #2では、イオンネクスト株式会社 技術責任者CTO・樽⽯が登場し、「エンジニアが事業を創る、事業会社イオンネクストの開発組織」と題したテーマで発表を行いました。
イオンのデジタルシフト戦略を担うイオンネクスト
「買い物を変える。毎日を変える。」というビジョンのもと、イオンのデジタルシフト戦略を担う位置付けで、新規事業を創出する事業会社として、2019年12月にイオンネクストが設立されました。
2023年7月にはイオンの新しいネットスーパー事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」を立ち上げ、対応可能なサービスエリアを順次拡大しています。グリーンビーンズの主なサービスの特徴は以下の通りです。
大容量品を含めたネット専用の品揃えの充実
採れたて野菜の鮮度を保ったまま配送が可能なコールドチェーンの仕組み
ショッピングカートによるまとめ買い需要への対応
イオンネクストは図で示すように、商品の注文から倉庫でのピッキング、お客さまのもとへ配送するところまで、全てソフトウェアで統合制御する「イオンネクスト・プラットフォーム1.0(ANP1) 」を開発し、洗練されたデマンドチェーン(需要予測×サプライチェーン)の実現に向けて取り組んでいます。

エンジニアが事業を創り、ボトムアップでDXを推進
こうしたなか、イオンネクストでは「エンジニアが事業を創る」ことを心がけています。
デジタルの細部を熟知した人材がオーナーシップを持ち、お客さまへ提供する価値を創り出すこと。従来の店舗主体からオンライン主体の買い物体験を届けていくことが、イオンネクストのエンジニアが担う役割となっています。
イオンネクストではエンジニアが中心となって、事業成長に必要な全てのソフトウェアやAIの開発・運用を行い、事業成長や社会変革を牽引する組織を目指しています。
つまり、トップダウン型のDXは『経営が現場に降りる』ことであり、ボトムアップ型のDXは『現場が経営目線になる』ことだと私は考えています(樽石)
今年は各業務部門と連携しながら、販促費の効率化、バスケット単価(グリーンビーンズの購入単価)と配送効率の向上という3つの事業KPIにコミットし、「イオンネクスト・プラットフォーム2.0」の開発に着手していく予定です。

デジタルを熟知した人材と、業務部門の両輪でPDCAを回していきつつ、デマンドエンジンAIを開発するなど、「人とAIの協業」も模索しながら、過去に誰もできなかった未踏へのチャレンジをしていく。
こうすることで、エンジニアが事業を創ることを体現できると考えています。
※こちらの記事では、「Green Beans」開発秘話もお読みいただけます。
Session #3「56万人一丸のDXに向け〜イオンデジタルアカデミーが目指す開かれた学びの場」
続いてのセッションは、「56万人一丸のDXに向け〜イオンデジタルアカデミーが目指す開かれた学びの場」を表題にしたプレゼンテーションを、イオン株式会社 ICT企画チーム イオンデジタルアカデミー担当 沖中が実施しました。
課題解決に向けた自走力を身につける「プロトタイプ作成トレーニング」
ボトムアップ型のDXを目指し、JTCからの脱却を目指す組織として、2021年6月に立ち上げたイオンデジタルアカデミーは、デジタル人材の育成に力を注いでいます。
イオングループ全体の56万人に上る従業員のうち、そのほとんどが店舗での業務に従事しており、現場の従業員からデジタル化のマインド醸成や「何かを変えていこう」という志を生み出していくことが、ボトムアップ型のDXを実現しするための重要な要素になっています。
しかし、イオンは小売業という性質上、本部で小さな成功事例を作り、それをグループ全体で徹底することで成長してきたからこそ、「DXを自分ごと化できていない」、「現場を変えるよりも目先の業務や売り上げを優先」といった風土が強く残っていました。
こうした背景のなか、不確実性の高い時代を生き抜くために、「現場の従業員自ら実験検証を行い、結果を把握した上でPDCAのスピードを速めていくことが重要だという認識を持つようになった」と沖中は話します。

イオンデジタルアカデミーで行う施策のひとつに3年前から実施している「プロトタイプ作成トレーニング」があります。
店長や農産担当、水産担当など、現場の従業員を集めて、まずは自らの担当領域での課題を見つけ、それを解決していく企画を立てます。
次に、ローコード/ノーコードツールを使ってプロトタイプを作り、実際に他の従業員に使ってもらったり、SNSやブログで発信したりすることでフィードバックをもらい、PDCAサイクルを回し続けるトレーニングとなっています。
目標としているのは、「3カ月で非エンジニアの現場の従業員が自走できる状態まで育て上げる」こと。
技術的にわからないことは基本的に自分で調べ、それでもわからない場合は技術系Q&Aコミュニティに投稿して教えてもらうなど、とにかく“自走”を意識した形でトレーニングの受講をしてもらっています。
今まで100名超のメンバーが、自らプロトタイプを作成し、即リサーチやユーザーテストを行う経験を積んできました。小さくリリースしてからPDCAを回していくという、サービスやプロダクト開発の基本的な考え方を実体験を持って学べるのが、プロトタイプ作成トレーニングを受講するメリットになっています(沖中)
こうした取り組みを継続することで、とにかく「早く結果を知る」というマインドが少しずつ根付いているそうです。プロトタイプ作成トレーニングを受講した卒業生は、イオンの各事業会社で活躍を見せており、直近でもイオングループ90社1,000人を対象とした「生成AIの利用」を卒業生が主導しています。
Session #4「AEON TECH HUBで目指すもの」
続いて、オンスマートテクノロジー株式会社 CTO室SREチームリーダー・香西が、「AEON TECH HUBで目指すもの」をテーマにセッションを行いました。
「AEON TECH HUB」で取り組むイオンのDevRel活動
2023年8月に香西が入社したタイミングで、まずは情報発信できる基盤を作るため、QiitaやZennでOrganizationを作成し、同年10月にはAEONテックブログを開設しました。
テックブログ開設後、業界内での反響が予想以上に大きく、さらには同時期から精力的なイベント登壇によるアウトプットの機会も増えていたこともあり、「採用広報やブランディングの観点でDevRelを始めた方が良いのでは」と考えたのが、DevRelチームを立ち上げたきっかけになっています。

AEON TECH HUBでは、テックブログやアカデミー、メディア、SNS、ミートアップ、採用サイトといったコンテンツを軸に、イオンにおける技術(TECH)の中継地(HUB)を目指していくプロジェクトです。
▼ TECH BLOG
https://zenn.dev/p/aeonpeople
2023年10月に開設。AEONグループに在籍するメンバーが、エンジニアリングの視点でアウトプットする目的で執筆を行っています。
▼ DECK
https://speakerdeck.com/aeonpeople
Speaker Deckで運営していて、エンジニア採用ピッチ資料や登壇資料などを掲載しています。
▼ PORTAL
https://engineer-recuruiting.aeon.info/
AEONグループのエンジニア向け採用サイトとして2023年12月にローンチ。STUDIOで制作、運営を行っています。
▼ MEDIA
https://engineer-recuruiting.aeon.info/aeon-tech-hub
2024年1月にローンチしたテック系オウンドメディア。社員のインタビューや登壇レポートなどの記事コンテンツを配信しています。
▼ MEETUP
https://aeon.connpass.com/
connpassで運営しており、月1を目標にオンラインを中心としたイベントを開催していく予定です。
▼ SNS
https://twitter.com/aeontechhub
2024年2月に開設したX(旧Twitter)アカウント。DevRel活動やAEON TECH HUBに関する情報発信をしていきます。
AEON TECH HUBでは、今後も継続的なミートアップの開催やオウンドメディアの記事拡充、AEON TECH HUBを介したグループ間の連携強化、採用イベントやカンファレンスの開催などができるようなプロジェクトに育てていければと考えています。
Q&A:イオンネクストの自前率の話から「ぶっちゃけ抵抗勢力もいるのでは?」など、他では聞けない話も盛り沢山
イベント後半は、参加者からの質問に登壇者全員が答えていきます。たくさんの質問もいただき、当社の予定を30分延長して、できる限り多く回答してくださいました。100名以上が延長戦も聞き続けてくれた点からも、登壇者・参加者の双方の熱量の高さが伺われます。
※ここからは全文書き起こしでお届けします
イオンネクストのプラットフォームは、どこまで自前でシステム構築している?

樽石:セッションの中でお見せしたイオンネクスト コンポーネント図をベースに自前率を図っています。白い四角で囲っているものは全部で101個あるのですが、そのうちの19個はイギリスの自動倉庫システム「Ocado」を導入しているため、自前率は8割ほどになります。

あとは、もしサービスが落ちた場合に直す人は誰なのかという観点からオーナー率もウォッチしています。それで言うと、サービスでトラブルが発生した場合に自社のエンジニアが対応する割合は20%くらいになっています。
一方、オンコールという話では、オーナーであろうがなかろうが、お客さまにサービスを提供しているのはイオンネクスト側なので、「ブラックボックスモニタリング」を実施していますね。たとえ、他のベンダーが作ったシステムでも、オーナーシップを持って障害の問題の推測にあたっています。そうしたDevOpsの見方をすれば、内製化率は100%と言えるかもしれません。
一連の商流における内製化に関しては、Ocado社のコアプラットフォームがワンストップでさまざまなことをやってくれるので、ソリューション単体で内製化できていると言えますが、サービスを動かす場合、それだけでは足りないわけです。
商品の発注や配送、売り上げの計上など、そうした流れを会社としてもしっかりと管理していかなければならないため、一部はOcado社で、全体を統合するところはイオンネクストのシステムで内製化しているような状況です。
先ほどお伝えした「内製化率20%」は、さらに細分化することができて、個別の業務システムの内製化率は10%なのに対し、データパイプラインのインテグレーション内製化率は30%になっています。そういう意味では、いろんなものを統合処理しているのが、うちのサービスの特徴と言えるでしょう。
今期はイオンネクスト・プラットフォーム2.0の開発に着手していく予定ですが、内製化率は8〜9割を見込んでいます。
また、Ocado社のシステム自体は結構よくできているのですが、デマンドチェーンを構築していく上で、例えば「お客さまは来ません。だから発注は一つです」という風にしてしてしまえば、事業が成り立ちません。どうやって注文を100個にするのか、その100倍の10,000個にするのかを作り出す仕掛けをAIで実装できればと考えているんですね。現在は人力でやっているので、ビックデータを活用して自動で需要を創造できるようにすることが、イオンネクストとして投資していくべき部分だと捉えています。
接客など人が対応すべき仕事が多い小売業界、デジタルで解決できる課題と、人で改善できる課題の線引きは?

沖中:イオンデジタルアカデミーではデジタルで解決できる課題領域と、人で改善できる課題領域は分けてないですね。ちょっと考えてみて自動化できたらいいなと思う部分を、人間が身の回りから探してくるので、「これは人がやって、これはDX化する」といった意識はあまり持っていないかもしれません。
山﨑:イオン自体が全国で雇用を創出している企業でもあるので、働いている人を機械で代替していく考え方よりかは、人ならではの温かみを活かしながら働き方をもっと楽にしていく考え方が大事だと考えています。なので、質問でいただいたデジタルと人で解決できる課題領域は、特に分けているわけではありません。
沖中:私が実際にプロトタイプ作成トレーニングを経験した当時は、あまりテレワークが浸透していなかった時代で、Web会議が終わったあとはお礼のメールを送る社内文化がありました。それも自動化できるのではと、Zoomを閉じた瞬間にメール送付できる仕組みを作ってみたんです。そしたら、「いいね」と言ってくれる人もいれば、「それって人の温かみがないんじゃない」と言ってくれる人もいて。
そこで感じたのは、単純に人と機械を切り分けてしまうのは良くないということでした。
自動でメールの叩き台を作ってもらい、送る前の段階で自分の気持ちを込めて送信するとか、そういう使い方も本来できるわけなので、人と機械の役割でバッサリ切ってしまわないようには気をつけていますね。
「アジャイル」や「小さく始める」を言うだけでなく、本当に現場で実行するために意識していることは?

山﨑:小さく始めることのメリットを繰り返し、伝えていくことが大事なのではないでしょうか。
アジャイルの本質は、市場に早くプロダクトを出してフィードバックを受ける方が最終的に良いものができるという考え方です。あれもこれも機能を乗っけてしまうような、MVPになりきらないプロジェクトをいかに潰していけるかが焦点になってくるでしょう。ただ、0→1のサービスであればアジャイル開発で対応できますが、既存のシステムをリプレイスしていく場合には、従前のシステムとの兼ね合いからアジャイルで取り組むのがなかなか難しい場面もある。それも含めて、上位レイヤーとの建設的な対話が重要なのではと感じています。
樽石:私の場合は自分でやって見せた上で、上位レイヤーの人とコミュニケーションをとるようにしていますね。そうすることで周囲を巻き込んでいけるように意識しています。私が現場で配送トラックに乗ったのも、そこでの課題を知りたかったからなんですよ。
また、現在エリア戦略を考えていますが、どこかひとつのエリアを選択して、まずはそこでテストを実施してみると、戦略を立てる上での肌感を掴めると思うんです。エリア内にあるマンションのリピート率を上げるために施策を考えたりとか、本当に小さなアクションから始めて、それをトップが実際にやってみる。それがとても重要になってくるのではないでしょうか。
現場に変革意識を持たせるための、最初のアプローチは?

樽石:インスパイアしていくことが大切だと思います。まず、そもそも“気づき”がないことには、現場の変革意識を持たせるのは難しいのではないでしょうか。何か新しいものを生み出すわけではなく、過去に似たようなことを経験していれば、そこで得た知見を掛け算してみるとか、そういったアプローチをしていくことで、もっと違う視点にたどり着くと思うんです。そのため、現場に情報をうまく提供して、インスパイアしてもらうことが、ひとつのやり方として考えられるでしょう。
もともと、イオンには変革を担ってきたカルチャーがあり、お客さまは変わり続けるという捉え方をしているので、現場ではあまり変革を意識していなくて、むしろ「原点に戻りましょう」といった働きかけをしてきました。イオンで働く従業員には「変革していきたい」という意識が根幹にあるからこそ、それに気づいてもらうアプローチを自分が入社した初期の頃は心がけていましたね。そうすると、デジタルとイオンカルチャーがうまく結びついたので、イオンネクストは変革意識を持った組織になれていると感じています。
沖中:この質問については、上位レイヤーの方が現場の人たちに対して、どのように意見を挙げてもらえばいいのかということだと思いますが、私は小さく始めることを伝えることに加えて、上位層も身の回りの課題を挙げて、現場の人たちと共有することが大切だと思います。
「自分の課題は何ですか?」と現場の人に聞くと、すぐに答えが出てくると考えている人もいるかもしれませんが、全然そんなことはなくて。現場も上層部もすぐに身の回りの課題は見つけにくいと思うんですよ。このような背景があるのに「現場にいるなら、今抱えている課題を出して、意識を変革してくれ」と言われても、それは無謀な話になるわけです。
まずやるべきなのは、現場も上層部も身の回りで変えたいことを声に出し、さぼらずに課題を探していくこと。この意識が非常に重要だと考えています。
山﨑:僕はコーチングだと思っていますね。前職はリクルートで働いていましたが、「お前はどうしたいんだ?」しか聞かれないんですよ。人間の脳みそは、何か質問されると絶対に答えなくてはいけないという仕組みになっているそうで、常に「自分はどうしたいのか」が問われ続けるわけです。
コーチングという言葉は、コーチ(馬車)を運転している人が由来になっています。運転手は勝手にどこかへ行くわけではなく、行き先は乗客が決めるものです。つまり、「君はどうしたいの?」というところに対して、適切に導いてあげるのが、僕らスペシャリストの果たす役割だと考えています。
現場で変革意識を浸透させていくには、特定の技術を押し付けるのではなく、「何に困っていて、どうしたいですか」という問いから、一緒に考えていくのが大事になるでしょう。
ぶっちゃけ、抵抗勢力がいたりしてやりづらいとかあるのでは?

沖中:私はイオンに入社してから15年くらい、ずっと現場にいた人間で、今でもJTCだとは正直感じています。抵抗勢力があるというより、まだまだ「アップデートしがい」がある部分が多いというか(笑)
やはり、人口の増加とともにビジネスの規模が大きくなってきた会社なので、チェーンストアの理論がいまだに根強くあるという印象ですね。まずは成功モデルを本社で構築し、それを徹底していく。あるいは、昔に成功したやり方をしっかり踏襲していくという考え方が主軸の会社だと思っています。教育の面でも、マニュアルを改定していくのではなく、OJTが基本になっています。
それが悪いということではないのですが、世の中の変化はあまりにも早い。私は2007年入社なんですが、ちょうどその頃から日本の人口が減少し始めたこともあり、言われた通りにやっても数字が出ない、人口減少の中でのどのように営業していけばいいのか、といった苦労に直面していた時期でした。こうしたことからも、現場の目線ではまだまだ変えていくべきところはある会社だと認識しています。だからこそ誰か任せではなく現場のメンバーが自ら課題を解決し、JTCを少しずつ解きほどいていく世界を、イオンデジタルアカデミーは目指していきたいです。
樽石:少なくともIT部と呼んでいる部署はJTC感はゼロだと思いますね。なぜかというと、イオンネクストが出島だからです。
イオンは店舗を構えればお客さまが来るという前提のもと、さまざまな事業を展開しているなかで、イオンネクストは店舗を持たない事業であり、グリーンビーンズは店舗もなければ、お客さまも来ないものです。そもそも前提が異なるからこそ、JTCの雰囲気は全くなく、それでも公募で入社してきた人の多くは、イオンの何かを変えていきたいという志を持っていますね。
また、イオンネクストがコロナ真っ只中の中でできた会社なので、テレワークや成果物の提出などオンラインでの働き方とエンジニアの相性が非常に良かった。そのため、イオン内部の人も新しいカルチャーのもとでやっていきたいという思いが強く、外部から入ってきた人もコロナネイティブで生まれたイオンネクストの風土とうまく噛み合ったと感じています。
とはいえ、バックオフィス系はいろんなグループ会社との繋がりもあるため、ガバナンスの面で大変なところはあります。それでも、イオンの社長からは「今までにないことをやりなさい」と言われていることもあり、レガシーな部分は変えていこうという雰囲気が醸成されていますね。また、イオンネクストの社長はインド系アメリカ人で、コアなソリューションもイギリスのシステムで、グローバルな環境なのも、JTCを感じない理由のひとつになっています。
山﨑:私自身、「JTCは褒め言葉」だと思っているんですよ。確かに古いシステムはたくさんあるし、一般的なIT会社よりも年齢は高く、非エンジニアの割合も多い。でも、先ほど樽石さんが触れたように、イオングループ自体が常に変化し続けている会社なんです。50年前のイオンと今のイオンでは全然違う会社に進化しているし、いろんな会社と合併することで異文化も受け入れ続けている。
そもそも、イオン自体は変わり続けることができる会社である以上、我々エンジニアによる技術発信もその一角に過ぎません。イベントへ登壇し、積極的な情報発信も行っていますが、一度もやめろと言われたことはありませんし、抵抗勢力も存在していません。どちらかと言うと「頑張ってください」「何か協力できることがあれば教えてください」といったポジティブな意見が多いんです。
冒頭で登場した羽生のプレゼンに関しても、イオンの副社長がイベントのためにビデオ出演してくれることって、本当に、めったにないんですよ。それでもお願いしたら、「エンジニアの採用につながるのであれば協力する」とOKをもらえるくらいです。
開発組織に対しての経営陣の理解はある?エンジニアの評価をあげるために何をしている?

樽石:経営者側の理解はあると思いますね。デジタルがないとサービスは動きませんし、店舗をなくした背水の陣で取り組んでいるのがイオンネクストなんですよ。
経営陣に対してエンジニアの評価を上げていくには、やはり経営指標に落とし込んで、結果を示していく必要があるでしょう。経営レイヤーになると、いろんなものを数字で見ていくので、エンジニアが数字へのインパクトとなる成果を出すことが求められるわけですが、売り上げ以外にも数字は作れると思うんです。
イオンネクストの場合だと、事業グロースのためのKPIを設定しているほか、サービスの信頼性を数値化し、それを追うようにしています。あとはユーザー数やMAU、配送効率の向上などの数値もそうですし、山﨑さんが挙げていた「イオン全体で生産性を1人あたり1分削減すれば、70人月の削減になる」といった類のものでもいいわけです。
このように数字で語ると、経営陣からの評価は全然変わってくると思いますね。
結局のところ、EMやCTOなどのマネジメントレイヤーが重要だということに帰結する話で、定量と定性の両面で経営陣にアピールするといいのではないでしょうか。
僕も含め、マネジメントレイヤーの業務の8割くらいは数字とは関係ないことをやっている場合が多く、「8割遊んで、2割で結果を出す」というスタンスで仕事ができるようになると、エンジニアも働きやすくなるのではと考えています。遊びを入れられるような開発組織にしていきつつ、経営指標につながることも混ぜ込んでいく。そのバランスが大事になってくるでしょう。
山﨑:私はイオンスマートテクノロジーの経営者側の立場ですが、ある種私のような異分子を採用してきてトップ層に据えること自体、イオンの経営者側はエンジニアへの理解があると感じていますね。
私が主に見ているイオングループやDX担当である羽生副社長とのコミュニケーションでも、エンジニアのやっている業務内容や生産性はあまり問われたことがありません。非エンジニアの経営層の方たちがエンジニアを尊重し、リスペクトしてくれていて、疑うような気持ちは抱いていないわけです。むしろエンジニア側が自分たちを律するために、定量的な経営指標との接点を持っておかなければならないでしょう。ただ、グロースハックなどのKPIを持って活動することは楽しいことではあるものの、あまり数字ばっかり追求すると疲弊してしまうので、そこはバランスを保つのが大切になってきます。
繰り返しになりますが、イオンは経営陣に対するエンジニアの理解があり、経営陣はエンジニアを正しく評価したいと願っています。イオンの中でやりがいを見出し、自分の市場価値が上がって、次の仕事に就いていくという環境をどのように作っていけばいいのかを常に考えていますね。
巨大なイオングループのエンジニアリング組織、今後の展望は?

山﨑:イオングループの中でも、エンジニア組織を中心としたIT系の会社はイオンスマートテクノロジーとイオンネクストの2つですが、グループ全体では300社くらいの子会社があります。各子会社ではそれぞれのシステムがあって、それと向き合っている従業員がいるわけですけど、私や樽石さんが全てをサポートできているかと言うと、現状は全くできていません。なので、いろんな人に協力してもらいながら、イオン全体のシステムを束ねていけるような組織をグループの中心に作っていく将来像を描いています。
まずはその取っ掛かりとしてイオンスマートテクノロジーとイオンネクスを立ち上げ、しっかりと軸を作って、人材を含めて横展開していきたいですね。
イオンが主催するAEON TECH HUB #1、少しでもイオンの今が皆さんに伝わればと思っています。より深い技術テーマの話なども予定しておりますので、今後もAEON TECH HUBをよろしくお願いします!
イオングループでは、一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。カジュアル面談も実施しておりますので、少しでも気になった方はお気軽にご連絡ください。まずはざっくばらんにお話しましょう。
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

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24時間稼働の店舗を止めずにMDシステムを刷新せよ。イオン東北システム統合、若手エンジニアの成長とチームの挑戦
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