情報システムとDX子会社の融合は必然なのか?イオングループのDX子会社と情報システム子会社の統合を紐解く

情報システムとDX子会社の融合は必然なのか?イオングループのDX子会社と情報システム子会社の統合を紐解く

2025/7/9

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この記事に登場している人

山﨑 賢

Ken Yamazaki

イオン株式会社 CTO 兼 イオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO
新卒で大手SIerに入社。その後、Yahoo! JAPANへ転職し数々の新規サービスの立ち上げに携わる。リクルートに入社。大規模サービスの開発責任者を兼任。ゼネラルマネージャーとして組織マネジメントを実施。
その後、複数のベンチャー企業CTOを経て2023年より現職。イオングループ全体を統括するイオン株式会社のCTOとして従事。
一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)理事。

    この記事を読むとわかること

    ・日本最大級の小売グループであるイオンが「基幹系×DX」を一体化させる意義とは
    ・“守り”を重視する基幹系エンジニアと“スピード”を重視するWebエンジニアのカルチャーをどう交わせるのか
    ・大切なものはシステムを守ってきた先達に対する「リスペクト」
    ・新生ASTが、サプライチェーンと配送に重点を置こうとしている理由とは

    日本国内で最大の流通小売企業であるイオングループ。そのDX推進企業として2020年に設立されたイオンスマートテクノロジー(以下、AST)が、イオングループの基幹系やPOSなどを統括するイオンアイビス(以下、アイビス)のIT事業を2024年12月に統合した。

    しかし、DXを推進する企業と情報システム担当企業との統合が、そのカルチャーのギャップによって容易に進まないという事例はこれまでも多くみられている。新生イオンスマートテクノロジー(以下、AST)は、そのギャップをいかに解消し、何を目指すのか?狙いを考察する。(執筆:小売・ITライター  鹿野恵子)

    【目次】

    統合によるシナジー効果とDX人材の育成環境づくりなどが目的

    2024年12月、「iAEONアプリ」などのフロントエンドや、イオンスマートプラットフォームなどのデータ基盤を担うASTと、POSや基幹系、商品マスタなどを開発・運用してきたアイビスが統合し、新生ASTが誕生した。統合のプロジェクトは「ビスタ」と呼ばれており、2023年頃から議論が進められていた。アイ「ビス」と「AST」が一緒になるから「ビスタ」だ。

    筆者は、これまでの同社に対する取材活動などから、今回の統合の背景に、以下2点があると考える。

    1つ目は、当然のことながら、統合によるシナジー効果だ。ASTの開発するソリューションは、最終的には必ずアイビスが運用する基幹システムと連携する必要がある。これまでは毎回別会社としてコミュニケーションを取っていたが、一つの会社になれば、コミュニケーションロスは減り、開発のスピードアップが期待できるだろう。

    2つ目は、DX人材の育成環境づくりだ。特にアイビスは、基幹系をはじめとする「守備力の高さ」が求められるシステムを数多く担う。この分野は専門的なパッケージも多く、ベンダーに開発を依頼するものも少なくない。一方で、アイビスにも少なからず「自分の手を動かしてもっとプログラムを書きたい」というエンジニアが在籍しているという。2社が統合すれば、エンジニアに対してバックエンドからフロントエンドまで、幅広い活躍の場を提供することができる。

    CTOの山﨑氏は以下のように言及する。

    この1~2年、アイビスは”守り”だけでなく”攻め”のシステム開発にも挑戦していました。ほとんどのシステムをクラウドに切り替えて、倉庫の自動化や配送ルートのAI計算のようなところにまで踏み込んでいました。そういう意味では、今回の統合に対する気運は、アイビス側でもそれなりに高まっていたのではないかと思います。(山﨑氏)

    情報システム部とDX部の統合は宿命か?

    しかし、いくら気運が高まっていたとしても、情報システム子会社と、後発のDX子会社の合併は、開発への姿勢やカルチャーの違いの面で、そうやすやすと進むものではないという意見もあるだろう。

    確かに、3~4年前頃までであれば、情報システム子会社(部門)とDX子会社(部門)の統合は難しいという社会的な認識があった。しかし筆者はこの統合は昨今ではもう「宿命」ではないかと考える。

    DXやイノベーションはスタートアップからはじまり、その後徐々に多くの企業を巻き込み、今や大企業まで変化は不可避という状況でだ。さらにその変化の波はフロントエンドや情報系だけでなく、業務システムや基幹系にまで押し寄せている。「変えていかねばならない」という危機感はすでにあらゆる規模の企業で共通認識だ。

    今回のように、「守り」が主体とならねばならない情報システム子会社であるアイビスと、「攻め」や「スピード」「柔軟性」を重視するDX子会社であるASTではカルチャーが大きく異なる。それを統合しようというのは、そう簡単なことではないのではないか?それについて山﨑氏は、リスペクトこそが相互理解には重要と言及する。

    アイビスが運用しているシステムに障害が起きると「イオンの店舗のレジが全部止まる」「発注が全部止まる」「支払いができなくなる」というような、大障害を引き起こしかねない。つまりアイビスにとっては、安全性・クオリティが最も優先されるべきものです。一方でASTが担うアプリやウェブのような部分には、もちろん安定性も重要ですが、スピードを持って改善したほうがいいという価値観が重んじられるカルチャーもあります。

    そのギャップを埋めるのはとても難しいことですが、一番重要なのはお互いをリスペクトすることだと思っています。なかでも、僕はこれまでアイビスで活躍されてきた方たちをリスペクトする文化を作ることが、交わるための第一歩だと考えています。(山﨑氏)

    オープンで身軽なWEB系のエンジニアが、基幹系を守るエンジニアを「古い」と評する状況をときどき目にする。しかしイオンの心臓と血管を支えているのは、基幹系を守るエンジニアだ。そこを理解し、お互いをリスペクトすることによって、カルチャーのギャップを埋める。これがこの統合の最大の肝といえるのかもしれない。一足飛びに結果が出るものではないだろう。

    約60万のグループ従業員からエンジニア候補をすくい上げる

    新生ASTは、イオングループ全体のDXを推進させるため、デジタル人材育成の拠点としての役割も担っていく予定だ。これまでは外部から即戦力を採用してきたが、今後は、社内で教育の機会を提供し、研究開発・R&Dなどができる体制を作り上げていくという。将来的には新卒の方や開発の未経験者も採用や、店舗で働いている人材のなかから、エンジニアを目指したい人を受け入れられるような体制の構築も視野に入れる。

    60万人の従業員を擁するイオングループ。デジタルの知識を身に着けることでさらに活躍できる従業員も多いはず。現場経験がある人が、エンジニアリングの知識をつけたら最強だ。以前こちらの記事でも紹介したように、イオンはグループでデジタル人材育成のためのさまざまな取り組みを行っている。

    新生ASTは、今後サプライチェーンや配送分野における開発をより深めていきたいと考えているという。人口減少局面に入った日本国内の小売業は、これまでのような出店による売上増加を見込むことができない。各店舗当たりの生産性を高め、利益率を上げていくことが重要だ。

    もちろんお客さま向けのアプリ開発や、店舗の労働生産性の向上に資するアプリ開発も大切だが、今後戦略的にリソースを割くべきはサプライチェーンと配送分野における開発であることは想像に難くない。現在製・配・販で分断されている情報と物流の流れをつなぎ合わせ、より効率化していかないと競争環境の中で勝ち残ることはできないだろう。

    小売業界での生き残りを決めるポイントは、これまでアイビスが担当していた部分だ。新生ASTのミッションは、その分野へのチャレンジなのかもしれない。システム開発というと、最新技術に対する華やかな話を想像する人も少なくない。しかし、先端の技術ももちろん大切だが、事業にとってリターンが大きいのは泥臭い「既存の分野」の改善だ。

    システム開発の現場では、日常的な運用や改善をコツコツ積み重ねてきたエンジニアが数多くいる。新生ASTが成果を出すためには、その地道な努力を正しく評価し、リスペクトする姿勢が欠かせない。基幹システムを支える経験豊かなエンジニアと、迅速に新しい価値を生み出すDXエンジニアが、お互いを理解し合い、協働できるかどうかが鍵となる。

    どの組織にも染みついたカルチャーと固定観念はあるが、それを変えていかなければ組織としての生き残りは難しい。イオングループは失敗に対して寛容な組織文化を持つ。変えることを恐れず、失敗が承認され、評価されるような人事制度作りも求められるはずだ。「守り」と「攻め」の両立の難易度が高いということは想像に難くない。その難事業にどう立ち向かうのか。イオンの本領が今試される。


    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

    この記事を書いた人

    鹿野恵子

    小売・ITジャーナリスト、編集者
    1978年、宮城県仙台市出身。2001年、早稲田大学法学部卒業後、株式会社アスキー、株式会社商業界(月刊食品商業、月刊商業界)、ITベンチャーを経て2015年に制作会社のプレーンテキスト(http://plain-text.jp)を設立。流通小売業とテクノロジー、スタートアップについての取材・執筆を続ける。現在メルマガ「リテールアトラス(https://retailatlasjp.substack.com/)」運営中。著書に「店舗を読み解く技術シリーズ」、編著書に「リアル店舗は消えるのか?」(発行:日経BP)がある。

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