
この記事に登場している人
川鍋 智之
Tomoyuki Kawanabe
イオン株式会社 グループSCM改革PT リーダー
流通小売り業複数社の物流・SCM責任者を務めた後、2023年イオン株式会社入社・現職
小林 謙太郎
Kentaro Kobayashi
イオンスマートテクノロジー株式会社 SCM・DXシステムディビジョン 兼 グ機能会社システムディビジョン ディレクター
1997年IT・物流プロジェクト。以降2011年まで物流システム一筋。その後MDや店舗システム等を担当。2014年よりイオンアイビス㈱システム開発本部長として、システム全般を管轄。2025年より現職。
川鍋 智之
Tomoyuki Kawanabe
イオン株式会社 グループSCM改革PT リーダー
流通小売り業複数社の物流・SCM責任者を務めた後、2023年イオン株式会社入社・現職
小林 謙太郎
Kentaro Kobayashi
イオンスマートテクノロジー株式会社 SCM・DXシステムディビジョン 兼 グ機能会社システムディビジョン ディレクター
1997年IT・物流プロジェクト。以降2011年まで物流システム一筋。その後MDや店舗システム等を担当。2014年よりイオンアイビス㈱システム開発本部長として、システム全般を管轄。2025年より現職。
この記事を読むとわかること
・10兆円企業が挑むイオンの物流システム刷新プロジェクトの全体像と背景
・物流システム改革が目指す本質的な価値
・参画するエンジニアが得られる前例のない成長機会
小売業にとって物流システムは、まさに事業の生命線。商品を確実かつタイムリーに店舗に届けなければ、売上や顧客体験はたちまち低下してしまう。昨今、デジタル技術の進歩によって、効率的で柔軟な物流システムは企業の競争力を左右する重要な要素となっている。
売上高10兆円を誇るイオングループが、20年ぶりの大規模な物流システム刷新に踏み切った。イオングループの物流システムは2000年頃に構築されたもので、老朽化によって柔軟性を失い、最新技術への対応が困難になっていた。そこで動き出したのが、物流システム刷新プロジェクトだ。目指したのは、AIやロボティクスを活用した次世代の物流網。その挑戦の全貌に迫る。
【目次】
イオングループが物流システム刷新に迫られた理由
現在稼働しているイオングループの物流システムは2000年頃に構築されたものだ。当時、食品小売業の中では他社に先んじて優位性のあるサプライチェーンを構築していた。しかしそこから20年以上が経つ。当然システムや物流センターは老朽化している。
SCM(Supply Chain Management)改革の一環として、物流システム刷新のプロジェクトが持ち上がったのは2021年のこと。イオングループSCM改革プロジェクトチームの川鍋は、「20年前、数兆円規模だった売上高は、今や10兆円を超えました。さらなる競争力強化には最新技術への対応が不可欠ですが、古い物流システムのままでは対応できません。また、以前と比べて飛躍的に流通網が進化しているので、在庫管理が複雑化しており、可視化の範囲や深さを広げる必要がありました」と振り返る。
プロジェクト発足後、あるべき姿のグランドデザインを描くだけで1年以上を要した。通常のシステムであれば数カ月で描けることも多いことを考えると、いかに大規模で複雑なプロジェクトかがわかる。
スパゲッティ化した20年超の物流システムの深刻な課題
現在の物流システムは、卸売向けのパッケージシステムを大幅にカスタマイズして構築された。 20年以上の時を経て、すでに原形を留めないほどにカスタマイズされ、いわゆるスパゲッティ化した状態になっている。
2000年頃の物流システム構築に携わり、今回の刷新も担当するイオンスマートテクノロジーの小林は、「20年前の技術で作られているので、柔軟性がまったくありません。システム各所にヒビが入り、改修時には、時間と費用がかかる状態です」と話す。
データ活用も難しい。「今の物流システムは、センターへの物の出入りと自動倉庫の稼働記録しか捉えられていません。数千万もの店舗の販売データや商品のデータが存在するにもかかわらず、それをリアルタイムで活用することができず、物流計画等に活用できていない状況です」と小林。
たとえば繁忙期などにはトラックの配車計画や倉庫の人員配置を効率化したい。しかし現行システムでは、分析や予測に使うデータを物流システムと連携する仕組みがないのだ。
最新技術への対応も困難な状況だと小林は言う。「たとえば、現行のシステムでロボットとつなごうとすると、かなり大規模なインターフェースの改修が必要になり、むしろ一から作ったほうが早く、かつコストを抑えられるでしょう」
システムは本来、5年~7年くらいの周期で更新していくのが理想。「しかし、現在の物流システムは周期が止まってしまっています。凝り固まって柔軟性がまったくないため、既存システムの開発メンバーはヒーヒー言いながら必死にシステムを支えている状態です」と小林は率直に語った。
物流システム刷新の3つの大方針
物流システム刷新の大きな方針は3つある。
1つ目は、時代の先端技術を活用して物流を進化させること。具体的には、ロボティクスとAIの本格導入だ。倉庫内の搬送ロボットや自動仕分けシステムとリアルタイムでデータをやり取りし、作業効率を向上させる。たとえば自動倉庫のロボットの稼働状況をリアルタイムで分析できれば、最適な経路や作業量を自動調整できるようになる。
2つ目は、イオングループの事業成長に合わせて物流ネットワークを最適化すること。数百社におよぶグループ企業の物流拠点をつなぎ、需要変動をリアルタイムで分析しながら在庫を調整。たとえば、ある地域の商品需要が急増した際に、自動的に近隣の物流センターから追加在庫を移動させるような仕組みを構築する。
3つ目は、需要予測を活用して作業や配送の効率を高めること。店舗の売上予測データを物流部門が活用し、その情報を上流の調達部門に連携する。これにより、商品手配から人員計画、トラック配車まで、データに基づいた効率的な計画立案を可能にする。なお、調達部門のデータを活用した需要予測はすでに開発中で完成間近だ。
システムはこの3つの大方針をふまえて開発する。今回はまったく新しいシステムを、パッケージを活用して構築。既存の物流システムを根本から変革する。
なお、既存の物流システムは、WMS(倉庫管理システム)とPSS(商品供給システム)、で構成されている。WMSは各物流センター内の在庫管理や入出荷などを担うシステム。PSSは、WMSを束ねるシステムで、マスターや物流センターの在庫データを管理し、メーカーへの補充発注や、受注データから在庫を引き当て、出荷指示を出す役割を担う。
新システムではこれに、グローバルでもポピュラーな「コントロールタワー」を追加し、サプライチェーン全体の見える化や計画策定をスムーズにする予定だ。
新しいシステムはクラウド上に構築し、クラウド技術によってシステムの拡張性や柔軟性を確保する。物流データは季節変動が激しいが、クラウドであれば繁忙期と閑散期でスペックを変えてコストを抑えられる。運用監視の自動化も推進し、運用負担を減らしたい考えだ。
BCP対策*にも力を入れていく予定で、「物流は災害時に止まってしまうと一大事。災害時や大規模な障害発生時は、稼動している近隣の物流センターから自動的に出荷する仕組みなどを整えたいです」と小林は説明する。
「単純にSCMにおける機能だけでなく、新しい技術と現場の運用の悩みなどをトータルで改めて考えています」と小林。一部は仕様を再検討し、よりイオングループらしい、イオングループのやり方に合ったシステムを作り上げようとしている。
*BCP(Business Continuity Plan):企業が災害やシステム障害などの緊急事態に遭遇しても、事業を中断させない、または早期に復旧させるための計画。
肝入りプロジェクトゆえの本気のリソース投下
物流システム刷新は、イオングループにとって肝入りプロジェクトだ。2000年頃の物流システム刷新で1000億円規模を投じているが、それを大きく上回るかつてない規模になる見込みだ。
20年前は数兆円だった事業規模が、今や10兆円を超えました。当然、システム投資の規模も膨らむでしょう。普通に考えれば手が震えるような規模で、食品小売業界最大規模のプロジェクトだと胸を張っていえるレベルです。これは言い換えると、日本中の消費者に貢献できるプロジェクトであり、非常にやりがいを感じています。(川鍋)
プロジェクトの重要性は体制からも明らかだ。イオングローバルSCMや全国各地の事業会社の重要なキーパーソンが連携し、ステアリングコミッティだけで30人が参画し、実務を検討しているメンバーはさらにその何倍もの規模になる。
物流担当だけでなく、商品開発や調達部門も横断的に参画し、本部長や役員レベルまでもが関与する体制を構築。数百社におよぶグループ企業の壁を越え、一丸となって取り組むというのは前例のない挑戦だ。
開発チームは、既存システムと新規システムの2チーム体制で、最終的には統合する予定だ。システムは、物流センターの刷新にあわせて段階的にリリースする。2025年秋の第1号物流センターの稼働に合わせて、新WMSの一部機能をリリース。2年後の大規模センター稼働時にフル機能をリリースする計画だ。
小林はこの進め方の理由を明かす。「物流システムは事業の要。確実に店舗に商品を届けなければなりません。そのため確実性を考慮し、段階的なリリースやウォーターフォール型の開発を採用しています。物流センターにはマテハン機器やロボットがあり、関わる人も多いため、頻繁な変更は現場に混乱をもたらすからです」
2030年を目途に全センターの刷新が完了する予定。並行して、AIやデータ活用など新たな機能開発も進める。川鍋は「これまでに取り組んだことのないデータ準備が必要なので、慎重に構想を練っています」と語る。物流システムは100個のオーダーを受けたら、100個必ず決められた時間に届けなければならず、80や90では不十分。絶対的な品質が求められるため、慎重にならざるを得ない面も多い。
物流システムが目指す究極のゴール
今回の物流システムを含む、SCM改革の最大のゴールは「お客さまが競合他社ではなく、イオングループの店舗を選びたいと思ってもらうための差別化要因になること」だ。
そのための物流システムの本質的な役割は2つある。1つは、必要なタイミングで必要な場所に必要な量があることで、お客さまの買い物体験を向上させること。もう1つはサプライチェーンを効率化してコストを削減し、お値ごろな価格で商品を提供すること。
「その結果、お客さまに自然とイオングループの店舗を、そして商品を選んでいただくこと。そのゴールは忘れないように心がけています」と川鍋は強調する。
求める商品が店頭にない欠品は売上機会の損失につながるし、逆に過剰な在庫は無駄なコストとなって商品価格に跳ね返る。物流システムの最適化は、顧客満足度の向上とコスト効率化を同時に実現する、まさに競争力の源泉なのだ。
新システムは他社への優位性を生むものになるが、決して自社のことだけを考えているわけではなく、業界全体として切磋琢磨していきたい考えだ。経済産業省をはじめ、各方面から注目されているプロジェクトでもある。
食品流通・小売業界は人手不足対策やデータ活用が遅れています。業界ナンバーワンを自負する我々がチャレンジすることで、業界の常識や固定観念を変えていきたい。結果として、お客さまや世の中が今よりもっと幸せな世界になるといいなと思っています。競合他社が追随してきても、常に一歩先に行ける存在でありたいですね。(川鍋)
日本有数の物流システムがエンジニアに開く可能性
このプロジェクトでエンジニアが得られるキャリアや成長の機会は極めて大きい。
システム開発で陥りがちなのは、作ることが目的化してしまうこと。スケジュールを守ることだけに終始するのではなく、将来を見据えた柔軟な開発が重要です。新しいシステムは5年サイクルで進化し続ける仕組みを取り入れたいと考えていますので、常に変化し、成長し続けるシステムを一緒に作っていくことができます。(小林)
システムはまだ設計段階にあり、ゼロベースで構想できる状況。小売業や物流に留まらず、製造業のノウハウや医療系のトレーサビリティ技術など、異なる業界の知見を柔軟に取り入れられる環境にある。
日本の物流システムでもトップ3に入る規模を誇るこのプロジェクトに携われるのは「エンジニア人生において、一生のうちにあるかないかの機会」だと小林。
川鍋も「『世の中の役に立ちたい』という志の高いエンジニアを求めています。トップバリュからイオンモールまで多様なフィールドがあり、自分の実力を試すチャンスがあります。幅広い門戸があるので、きっと自分のやりたい仕事が見つかるはずです。ぜひ探して、チャレンジしてみてください」と力強く語った。
イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。
どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!
※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。
この記事を書いた人
古屋江美子
ライター。1977年山梨県生まれ。大阪大学基礎工学部卒業後、通信会社の情報システム部で、顧客管理システムの運用や開発に従事。その後、ライターとして独立。技術系Webメディアやテック企業のオウンドメディア、システム導入事例、エンジニア採用インタビューなどを中心に執筆している。神奈川県在住。

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