閉店後のExcel作業から脱却。800億円を支える「承り業務システム」の刷新ストーリー 

閉店後のExcel作業から脱却。800億円を支える「承り業務システム」の刷新ストーリー 

2025/8/19

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この記事に登場している人

高橋 豊

Yutaka Takahashi

イオンスマートテクノロジー株式会社 OMOディビジョン ECユニット シニアマネージャー
イオンリテールにて、マーケティング企画、ECサイト「イオンショップ」の責任者を務め、EC戦略を推進。
現在はイオンスマートテクノロジーで店舗とデジタルの融合による新たな顧客体験の創出に取り組むシニアマネージャー。

    後藤 聡

    Satoshi Goto

    イオンスマートテクノロジー株式会社 OMOディビジョン ディレクター
    ダイエー入社後、店舗運営・商品企画・営業企画・マーケティング・ECまで幅広く経験。
    トップバリュ出向やICT領域での事業責任者を経て、2024年より現職。
    現在はイオンスマートテクノロジーでOMO・EC領域の戦略立案・実行を担う。

    この記事を読むとわかること

    ・年間売上800億円を支える「承り業務」、タブレット対応で店舗体験を刷新
    ・14社1600店舗に1年で導入、誰でも使える直感的UIで業務効率を改善
    ・ランドセル接客も変えた「見せる接客」、顧客体験の質を向上
    ・店頭とECの垣根を超える、“あらゆる予約“をデジタルでつなぐ挑戦

    閉店後、電気が消えた暗い店内で、従業員が1人でカタカタとExcelへデータを入力し、お中元の申込用紙をFAXでメーカーやギフトセンターへ送信。文字だらけの店頭受付PC画面とカタログと照らし合わせながら顧客へ商品の説明をして、プリンターまで歩いて注文の確認書を取りに行く——。こんな非効率な光景が当たり前だった「承り」業務が、今大きく変わろうとしている。

    イオングループ全体で年間売上約800億円を支える承り業務。その基盤となるシステムを、わずか1年という短期間で刷新し、14社1600店舗に導入したプロジェクトがある。文字だらけの無機質な画面は、ECサイトのような直感的な操作が可能なシステムへと生まれ変わった。タブレットを使った新しい接客スタイルも生まれ、思わぬ場面で顧客体験の向上をもたらしている。

    この変革を推進するイオンスマートテクノロジー(AST)OMOディビジョン シニアマネージャー高橋とディレクター後藤に、その背景と道のり、そして未来への展望を聞いた。

    【目次】

    「プロフェッショナルでなければ使えない」旧システムの課題

    イオングループの各店舗では、お中元やお歳暮、母の日・父の日ギフト、土用の丑といった季節の催事品や、ランドセルなどの予約商品を顧客から承る「承り業務」が日々行われている。イオングループ全体では、年間約800億円規模の売上を担う基幹業務でもある。しかし、その根幹を支えるシステムは長年、多くの課題を抱えていた。

    「以前のシステムは非常に古く、インターフェースも昔ながらのものでした。店舗の従業員にとっては使いにくく、お客さまとの対話や接客をスムーズに行ううえでの大きな障壁となっていたのです」と高橋が説明するように、旧システムは文字情報が中心の無機質な画面で、直感的とは言い難いものだった。顧客情報を呼び出すにも複数の画面を開かなければならないなど、複雑な操作が必要とされていた。

    さらに、オペレーション上の課題も深刻だった。たとえば、旧システムはPC上でしか作業ができず、会計システムとも連携していなかった。そのため、承り後に確認書をプリンターまで取りに行き、顧客をレジまで案内して会計処理を行うという、手間のかかる動線が常態化していた。閉店後には、従業員が紙の伝票に記入された情報をExcelに打ち込んだり、メーカーへFAXを送ったりする作業も必要だった。

    現場からの要望で特に印象的だったのは、商品情報の見せ方だったという。

    旧システムの画面は文字だらけで、それだけではどんな商品なのか想像できないという問題がありました。そのため従業員は、カタログを横に置きながらお客さまと会話をしなければなりません。店舗によっては、ラミネート加工されたチラシを片手にやり取りしていました。実際、従業員からは「画面1つでご案内できれば簡単になるのに」という声も寄せられていました。(高橋)

    従業員に高い学習コストを強いるこうした状況について、高橋は「昔のシステムによくある『その仕組みを使うだけでプロフェッショナルと呼ばれるような人がいる』という状況」と表現する。

    これらの課題を解決するべく、新システムでは作業効率が最重視された。

    UI/UXが悪いとあちこち画面を見なければならず非効率です。お客さま情報を呼び出す際、複数の画面を開く必要があったところをワンクリックで呼び出せるようにするなど、短時間で受付ができることを重視しました。(高橋)

    新「承りシステム」がもたらした、効率化と新たな接客スタイル

    2025年夏、お中元の承りで新しいシステムが本格稼働を開始した。現在は14社1600店舗で導入されている。

    新しいシステムでは、大手ECサイトで買いものをするのと同じような感覚で承り業務ができるようになりました。商品画像が豊富に表示され、従業員はドラッグ&ドロップで商品をカートに入れるといった直感的な操作も可能です(高橋)

    特に、旧システムに馴染みのなかった新規ユーザーや、これまで紙伝票でアナログな運用をしていた事業会社からは「非常に使いやすい」との声が上がっているという。新システムでは、誰でも簡単に使えることを目指しており、新しいスタッフが操作を覚えて業務に入るまでの時間が大幅に短縮されている。

    さらに、新システムはタブレットにも対応。これにより、接客スタイルにも大きな変化が生まれている。

    これまでお客さまにはカウンターに座っていただき、固定されたPC画面越しに対応するのが一般的でした。しかし新システムでは、従業員がタブレットを持ってお客さまのそばに寄り添い、画像を見せながら「こちらはいかがですか」「この商品のここが良いですよ」といった会話をしながら受付ができるようになりました。(高橋)

    催事場などでお中元やお歳暮の専用カウンターを設けて対応していた状況から、従業員が売り場を動きながらお客さまと会話をするといったシチュエーションにも対応可能になったというわけだ。このタブレット活用は、思わぬ場面で顧客体験の向上にもつながった。


    最も意外だったのは、ランドセルの受付です。イオンには「MYカラー」という、色やパーツを組み合わせて約265万を数百万通りものカスタマイズができる商品があるのですが、以前はシミュレーション画像もなくご案内していました。

    新システムでは、タブレットでお子さまと一緒にシミュレーション画像を見ながら、楽しくランドセルを選んでいただけるようになりました。その結果、「こんなランドセルが届くのね」とお客さまの期待感も高まり、購買体験そのものが向上したという手応えを感じています。(高橋)

    本格導入からまだ日が浅いものの、全事業会社で昨対比を超えて売上が推移しており、新システムがビジネスにも好影響を与え始めていることがうかがえる。まさに、従業員の働きやすさ向上と顧客満足度向上の両立を実現しつつあると言えるだろう。

    開発現場は、複雑な旧システムの解読と現場の「慣れ」との戦い

    成果の裏には、開発・導入における数々の苦労があった。

    最も時間を要したのは、旧システムの現状把握だったという。旧システムは稼働から5、6年が経過。長年にわたって各事業会社からの要望で改修を重ねてきた結果、非常に複雑なものになっていた。

    また、イオングループの規模の大きさも、課題をより複雑にした。さまざまなシステムと連携しており、ある箇所を修正すると別の連携箇所に影響が出てしまう。高橋は「あちらを立てればこちらが立たない、といった複雑な依存関係を解き明かすのに多大な時間を費やしました」と話す。

    実際にシステムを導入する段階では、仕様の抜け漏れや、現場からの予期せぬフィードバックにも直面した。もともとイオングループの事業会社であるダイエーに所属しており、承りシステムの提案を受ける立場にあった後藤は次のように振り返る。

    旧システムでは、配送が伴う承りと、店頭でお渡しする承りが2つの仕組みに分かれており、新システムで1つの承りシステムに統合するという構想でした。それ自体は非常に良いと感じていたのですが、最初に完成したものは、実際に使う立場の視点で見ると、抜け漏れが多くあり、UI/UXも十分考慮されたものとは言えませんでした。当初、開発側が2つの仕組みを1つに統合することだけを目標にしてしまったのが、その原因の1つにあると感じています。(後藤)

    特に困難だったのが、データ連携だった。お中元やお歳暮では、過去に購入した顧客の情報を呼び出す必要があるが、これらのデータは旧システムから引き継ぐことになる。

    旧システムではこのデータの持ち方が複雑で、新システムでお客さま情報をうまく呼び出せなかったり、連携できなかったりという点が非常に難しかったです。データの不備や欠落——たとえばお客さまの電話番号が文字化けしたり、電話番号にハイフンが含まれているか否かといった細かい点が連携エラーを引き起こす原因となり、大きな問題となりました。(高橋)

    膨大な顧客データの一部で発生するエラーは、その特定と修正に多大な労力を要した。

    さらに、長年旧システムに慣れ親しんだ“プロフェッショナル”な従業員からは、「前のほうが良かった」といった声も寄せられたという。これは新しいシステムへの移行期には避けられない「慣れ」の問題であり、丁寧なコミュニケーションと、新システムの利便性を実感してもらうための時間が必要だった。

    プロジェクトを支えた「対話力」と「チームの結束力」

    こうしたなか、プロジェクトを成功に導いた鍵は、現場に寄り添う姿勢にあった。システム導入時だけでなく、普段から事業会社との対話を重ね、「今一番困っていることは何か」をヒアリングし続けることを大切にしてきた。特に気をつけているのは、システム会社が陥りがちな専門用語の多用を避けることだという。

    開発側としては当たり前の言葉でも、事業会社からするとまったく意味がわからないことが多々あります。私が理解できるレベルでないと、事業会社の人には伝わらないと思っています。(後藤)

    そして何より重要なのは、システムの先に存在している最終的な顧客を常に意識することだった。高橋は「機能会社は仕組みばかりに目が向きがちですが、最終的にはお客さまをより便利に、より豊かにするためのものでなければなりません」と語る。


    チームの結束力もプロジェクトを強力に支えた。高橋は特に、後藤のリーダーシップを高く評価する。

    チームを同じ方向へと導く力があります。厳しい面もありますが、それ以上にメンバーを鼓舞し、働きやすい環境を作ってくれています。ASTのなかでも、私たちの部署は特に風通しが良く、後藤を中心にモチベーション高く仕事に取り組める環境だと感じています。(高橋)

    一方、後藤自身は照れながらも自身の信条を語った。

    やはり1人ひとりのメンバーが頑張ってくれなければ、何も成し遂げることはできません。この仕事はストレスが溜まることも多いので、メンバーには「悪い情報ほど早く報告してくれ。責任は私が取るから」と常に伝えています。そして、時には皆で飲みに行って労をねぎらう。私の役割は、的確な決断を下すことと、メンバーが普段抱えているストレスを少しでも軽減することだと考えています。(後藤)

    ECと承り業務の融合戦略。店舗のあらゆるアナログ業務をデジタルでつなぐ未来

    現在、承りシステムと並行して、ECシステムとの融合も進んでいる。

    現在の承り業務は、お客さまに店頭にお越しいただくか、従業員がタブレットを持って店内を回るという形が基本です。これをEC化し、お客さまがご自宅など外部からでも承り業務を利用できるようにすることで、従業員の作業負荷を軽減し、お客さまご自身でご注文いただける世界を目指しています。お客さまがご自宅のソファーでくつろぎながら受付や予約ができるようになる世界が、我々にとっての最終的な目標地点の1つです。(高橋)

    この承りシステム改革は、イオンが推進するOMO戦略において、どのような役割を担っていくのだろうか。

    後藤は「最終的なゴールは、ギフトのような店頭にない商品も店舗やECで購入できるようにするだけでなく、店舗から出荷する商品や店舗にある商品・サービスをお客さまが欲しいタイミングと欲しい状態でお届けできるように、シームレスな体験を提供すること」だと語る。そこには当然、店頭での承り業務や、そのEC化も含まれる。そして、ASTはさらにその先を見据えている。

    店舗にはアナログな予約業務がまだ多く残っています。たとえば、いわゆる『客注品』と呼ばれる、在庫がない場合に次の機会にお渡しする商品の発注です。カーテンのサイズ違いの予約、洋服の寸法直しなども同様です。現在はアナログで対応していますが、EC化した承りシステムに集約していくことで、店舗の従業員は1つのシステムで多様な業務をこなせるようになります。(後藤)

    イオンの承り改革は、まだ道半ばだ。しかし、従業員のエンゲージメントを高め、顧客に新たな価値を提供しようとする彼らの挑戦は、小売業の未来を照らす確かな光となりつつある。現場の声に耳を傾け、テクノロジーを駆使し、そして何よりも人と人との繋がりを大切にする。その姿勢こそが、イオンのDXを成功へと導く原動力なのだろう。


    イオングループでは一緒に変革に挑んでくれる方を募集中です。

    どんなことをしているのか気になる方は、お気軽にご連絡ください。カジュアル面談も実施しておりますので、まずはざっくばらんにお話しましょう!

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