「生成AIのWebアプリ」、「景気指標」など独自の開発を手掛けるイオンのデータ専門組織の「脱PoC」ストーリー

「生成AIのWebアプリ」、「景気指標」など独自の開発を手掛けるイオンのデータ専門組織の「脱PoC」ストーリー

2024/9/26

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この記事に登場している人

八木 研一郎

Kenichiro Yagi

イオン株式会社 データイノベーションセンター(DIC) 統括マネージャー
メーカー系SIerにてITコンサルタントとして従事。2019年8月にイオンへ入社し、
データ共有のための基盤構築、データイノベーションセンターの立ち上げ、データ活用プロジェクトの立ち上げと推進などに取り組む。

    この記事を読むとわかること

    ・イオングループのデータ専門組織「データイノベーションセンター(DIC)」の全貌
    ・生成AIを活用したECサイトの商品説明文自動作成プロジェクトとは
    ・3年間に渡る多数のプロジェクト経験から導き出されたPoC成功の4つのポイント

    イオングループを統括するイオン株式会社は2021年3月、イオングループ約300社全体のデータ活用とデータドリブン経営を推進する専門組織として「データイノベーションセンター(DIC)」を設立しました。設立から3年が経過し、DICはどのような成果を上げ、今後どのような課題に取り組もうとしているのか。統括マネージャーを務める八木に話を聞きました。

    【目次】

    内製のイノベーション拠点として3年前に設立されたDIC

    ――まず、DICの設立背景について教えてください。

    八木イオングループ全体でデータを活用したデータドリブン経営を目指すという大きな方針のもと、データを専門に扱う部署として2021年に設立されました。それまでイオングループでは、データ活用の取り組みは各事業会社ごとに行う必要がありました。一方でイオングループは、小売事業を主軸に、ヘルス&ウエルネス事業、総合金融事業、ディベロッパー事業、サービス・専門店事業などを展開しており、大規模かつ多種多様なデータを抱えています。そこで、チーフデータオフィサー(CDO)を置いて、外部から専門人材を招きデータを扱う専門組織を作ることになったのです。

    ――DICは具体的に何を目的とした組織なのでしょうか。

    八木大きな目的の1つは、グループの内製化チームとして機能させることです。ホールディングスに大規模データやAI技術を扱える専門人材や組織を置くことで、各事業会社のデータにアクセスしやすくなるというメリットがあります。これにより、グループ全体でのデータ活用を強力に推進できる体制を目指しました。

    DICは、センター・オブ・エクセレンス(CoE)としての役割も担っています。最新のテクノロジーや手法を開発し、グループ全体に導入・展開することが期待されています。

    インタビューに応じる八木

    ——現在のDICの体制について教えてください。

    八木現在、私たちの部署は20人強のメンバーで構成されています。全員が中途採用で、外部から招いた人材です。データサイエンティストが約半数、エンジニアが4分の1、PMが4分の1という構成になっています。PMは、ビジネスエンゲージメントマネージャー(BEM)と呼ばれ、さまざまなPoCを実施し、AIモデルの精度向上や効果検証を行うプロジェクトを管理します。BEMは技術面だけでなく、ビジネス視点を持って組織内外との連携を促すなど、円滑なプロジェクト進行をサポートしています。

    ECサイトの商品説明文をAIが自動生成

    ――DICでは、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。これまでで印象に残っているプロジェクトがあれば教えてください。

    八木さまざまな取り組みを行っていますが、最近特に注力しているのが生成AIの活用です。たとえば、ECサイトの商品説明文を自動で作成するプロジェクトがあります。

    ECサイトの商品ページは通常、商品写真、説明文、価格などの要素で構成されています。しかし、イオンのECサイトでは、商品説明文の扱いにいくつかの課題がありました。説明文の文字数制限がサイトごとに異なっていたり、メーカーから提供された説明文をそのまま掲載するケースが多かったりと、統一された運用がなされていませんでした。

    さらに、ネットスーパーとはいえ、取り扱う商品数は膨大で、商品の入れ替わりも頻繁です。そのため、すべての商品の説明文や紹介文を人手で作成・更新することは、現場にとって大きな負担となっていました。場合によっては、対応が追いつかず、説明文は空欄のままで写真と値段のみが表示されている商品も見受けられました。

    このような状況下で、説明文の品質を維持しつつ、効率的に更新していくことが大きな課題となっていたのです。そこで私たちは、生成AIを活用して高品質な説明文を自動生成するツールを開発しました。

    ——ツールとその導入効果について詳しく説明していただけますか。

    八木ツールは、イオンの商品部と緊密に連携し、イオン独自の表現や要求に対応できるようチューニングを重ねています。このツールを使うことで、作業時間を削減できただけでなく、SEO対策も考慮した説明文が生成されるため、ページビュー数も大きく向上しました。また、一般消費者にとってより魅力的な説明文を生成するようチューニングしているため、品質の向上にも貢献しています。その結果、顧客の商品理解が深まり、購買決定のサポートにもつながっています。

    その担当者とやり取りを重ねてチューニングをした結果、現在ではほとんど修正なしで使用できるレベルに達しています。もちろん、不適切な表現がないかの最終確認は行っていますが、基本的にはAIが生成した文章をそのまま採用できるようになっています。

    ——プロジェクトでは、どのようにして現場との連携を進められたのでしょうか。

    八木旧来のPoCのやり方だと、事業会社から提供されたデータに対し検証や実験を試みた結果を数値データ、Excelデータとしてフィードバックし、それを見てもらって事業へ適用可能か検討してもらっていました。しかし、このやり方だとなかなか事業へ適用するイメージが沸かない課題もありました。

    そこで、事業会社の方々にもイメージしやすいように、まず、専用のユーザーインターフェイスを備えたWebアプリケーションをプロトタイプとして開発しました。このアプリケーションでは、既存の説明文の一部や商品情報を入力し、セールスコピーや説明文など、目的に応じてさまざまなオプションから希望する文章のタイプを選びます。そして「実行」ボタンを押すだけで、AIが複数の候補を生成します。

    この生成結果をもとに、表現やニュアンスの調整、実務で使用される適切な言い回しについてフィードバックを得ながら、AIモデルのチューニングを重ねました。その結果、生成される文章が事業会社のメンバーにとって違和感のないものとなり、実際の業務でも活用できるレベルに達しました。

    ——実務チームと緊密に連携して継続的な改善を行ったことが、このプロジェクトの大きな特徴ですね。

    イオングループの強み ✕ 現場 ✕ 最新技術でオリジナルの「景気指標」を提供

    ——ほかに印象的だった取り組みはありますか?

    八木「イオン景気指標」というプロジェクトです。これは、全国のイオングループの店舗の店長にアンケートを取り、その回答と実際の売上データを組み合わせて、イオンが捉える景気動向を可視化するものです。

    アンケートは、5〜10分程度で回答できる簡潔なもので、毎月Webツールを使って行われます。内容は、景気の良し悪しや売上の傾向などについて「はい」「いいえ」で答える質問と、店長の皆さんに自由に記述してもらうコメント欄からなっています。この結果にPOSデータをかけ合わせることで、売上の増減だけでなく、地域の消費動向や顧客の購買行動の変化など、景気の動向を詳細に見ていくことができます。たとえば、日本地図上に各地域の景況感をヒートマップで表示したり、主要なアンケートのコメントをワードクラウドで示したりと、直感的に理解しやすい形で提供しています。

    特に注目していただきたいのが、このアンケートのコメント欄の分析に生成AIを活用している点です。店長の皆さんは、店舗のプロフェッショナルとしての視点から、数字だけでは捉えきれない微妙な変化や傾向を記述してくれます。ただ、これらの豊富な定性情報を、人手で1つひとつ読み解いていくのは膨大な時間と労力を要します。

    そこで、このプロジェクトでは、生成AIを活用してこれらのコメントを効率的に分析し、有用な洞察を抽出する仕組みを構築しました。AIは、数百、数千にも及ぶコメントを瞬時に読み取り、主要なトピックを抽出し、全体的な傾向のサマリーを生成します。たとえば、物価や景気、消費動向、購買行動のほか、「消費の二極化」「将来への不透明感」といった傾向を、前月のデータと比較しつつ地域ごとや全国レベルで把握できます。

    現在、「イオン景気指標」は、商品の在庫管理に役立てるなど社内での活用を進めているところですが、将来的にはこの貴重なデータを外部にも提供することで、日本の消費動向を示す1つの指標として活用される可能性も検討しています。

    ——全国規模の店舗ネットワークというイオングループの強み、現場の知恵、そして最新技術を組み合わせることで実現した、まさにDICらしい取り組みと言えますね。

    3年間の活動でわかってきたPoCを効率的に実施するための4つのポイント

    ――3年間のDICの活動を振り返って、どのような課題がありましたか。

    八木この3年間で多くのプロジェクトに取り組んできて、大きな課題として感じているのは、PoCで終わってしまうケースが多いことです。実際のビジネスプロセスに組み込み、継続的な価値を生み出すところまで至らないプロジェクトも当初は少なくありませんでした。

    また、DICの設立当初は、グループ内でAI活用に対する拒否反応があったり、「そもそも何ができるのかわからない」「DICって何者なの」といった反応も多く見られました。その役割や可能性が十分に理解されていなかったのです。

    ——そうした課題をどのように解決してきましたか。内製チームとしてプロジェクトを進めていく際に気をつけていることがあれば教えてください。

    八木大きく分けて4つあると思います。以下では、それぞれについて詳しく説明していきます。

    1. 組織設立時には営業的なアプローチで成功事例を作り出す

    組織の存在意義に関しては、設立当初、「何かできることはありますか?」「こういうことができます」とゼロベースで事業会社の方々に提案し、案件を作り出す営業的なアプローチを取っていました。取り組みの成果が目に見える形で現れはじめると、全社的な会議でも頻繁に名前が挙がるようになりました。

    その結果、現在では事業部門から直接相談を受けるケースも増えてきています。「こういうことを考えているんだけど、どうすべきか迷っている。相談に乗ってくれないか?」といった問い合わせが来たときには、「これくらいのスケジュール感で、このようなデータがあれば実現可能です」「では、まずこれをやってみましょう」といった具体的な提案ができるようになっています。

    さらに、私たちの活動が評価され、グループ内での信頼が高まってきたことを示す変化も現れてきています。たとえば、ある事業会社と1つのプロジェクトを進めていると、その派生として「最近こんなことも始めたんだけど」といった新たな話題が出てくるようになりました。そこから「うちの部署ではないけれど、別の部署でそういったことをやっているから、そちらを紹介するね」といった具合に、事業会社内での横のつながりが自然と生まれています。DICのチームメンバー全員が懸命に努力してきた結果、好循環が生まれつつあるのを感じています。

    2. プロジェクトの優先順位付けと人材の確保

    プロジェクト化するものの基準を設けて、優先順位付けを行っています。具体的には、グループ全体への横展開の可能性がある案件や、世の中にありふれた技術ではなく、イオンならではの取り組みとなるものを重視しています。

    市販のソリューションで十分対応できるものであれば、わざわざ内製する必要はないと考えています。ただし、自分たちの業務に適用すると大きなインパクトがあるけれど、市販のものをそのまま使うと精度が低くて使い物にならないようなケースなどは、私たちが取り組むべき課題だと考えています。

    そのためにも、DICでは、既存のソリューションでは対応できない課題に取り組み、イオンならではの革新的なソリューションを生み出す能力やスキルを持つデータサイエンティストを集めています。

    3. 出口を意識してPoCに取り組む

    PoCで「すごい技術だ」と感心されるだけで終わってしまわないよう、PoCの段階から実際の業務に落とし込むところまでを意識して取り組むようになりました。

    たとえば今回紹介したプロジェクトのように、Webアプリケーションなどわかりやすい形でまずはプロトタイプを作り、事業会社の方々に実際に触れてもらうことで、イメージを掴みやすくしています。こうして現場と連携することで、実運用までのハードルを越えやすくできているように感じています。

    また、効果の可視化も重要視しています。売上にどうつながるのか、業務効率化によって削減された時間を接客やより付加価値の高い業務にどう振り向けられるか、といった具体的な効果を、プロジェクトの早い段階から可視化することに注力しています。さらに、効果の数値化も徹底しています。実際のデータをもとに私たちのチームで効果を試算し、客観的な数字で示すようにしています。

    これらの取り組みを可能にしているのが、多様なバックグラウンドを持つチームメンバーの存在です。メンバーの多くは必ずしも小売業に特化しているわけではありませんが、さまざまな業界でのデータ活用経験を持っています。彼らの知見と、事業会社の方々から学ぶ小売業特有のドメイン知識を組み合わせることで、具体的な結果や運用を意識した取り組みに昇華させることができているように思います。

    4. 経営層の理解

    よく言われていることですが、現場レベルでの連携を重視すると同時に、データドリブン経営を全社的に推進するうえでは、経営層の支援も重要だと考えています。そのため、定期的に幹部層への報告を行い、私たちの取り組みについて理解と承認を得るよう努めています。単に報告するだけでなく、経営層の視点から見て必要な要素を私たちのプロジェクトに取り入れることも意識しています。

    イオングループのデータ活用は次なるステージへ

    ――DICとしての今後の課題や目標について教えてください。

    八木最初の3年間はさまざまなチャレンジをしてベースを作ることに注力してきました。これからの3年は、それをどう展開して定着させるかが重要になってきます。

    また、データの利活用をさらに効率化するため、グループ全体のデータプラットフォームの構築を進めています。これが完成すれば、各事業会社が持つデータの取得や活用がより簡単に行えるようになるため、AIモデルの開発や運用、横展開などのスピードが大幅に向上していくと期待できます。将来的には、PoCと本番運用の垣根が低くなり、より多くのイノベーションを素早く実現できる。そんな世界を目指しています。

    また、新しい技術のキャッチアップも重要です。DICのデータサイエンティストたちは、自主的に研究テーマを持ち、その成果を事業に活かせるような提案をしています。これからも、そんな組織であり続けたいと思っています。


    この記事で取材した八木が所属するデータイノベーションセンターでは、データサイエンティストなどのポジションを募集しています。少しでもご興味をもった方は、ぜひこちらからカジュアル面談にお申し込みください。

    ※掲載している所属・役職・肩書きおよび各種情報は、記事公開時点のものです。

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